監禁
頭が痛い。血が送られるのと同時にズキズキ痛む。目を開けると、その暗さに驚いた。俺が起きたのはついさっきなはずだ。それから何かされて、また眠ったのか。それにしては眠りすぎではないのか。意識がはっきりとしてきた。そうだ、俺に何かをしたのは来織だった。来織はどこにいるのか。試しに声を出そうとしたが、声がかすれた。どれくらい時間が経っているのかわからないが、声がかすれるほど、声を出していないのは確かだ。しかし、幸い声を出し続ければ誰かに声は届くだろう。
何度か声を出しているうちに、かすれなくなってきた。これならいつものように声が出るはずだ。
「おーい、誰かいないか。誰かいたら助けてくれ」
返事は聞こえない。他に何かないかと手を動かそうとすると何かに引っ張られる感覚があった。足も同様だ。どうやら、俺は何かにつながれているらしい。動くのは頭から上だけだ。
……結構、危ない状況じゃないか。
そう考えてしまうと頭が正常な思考ができなくなっていく。混乱が俺の頭を支配していく。腕を足を頭を滅茶苦茶に振り回す。腕を、足を縛っている何かが俺の腕を傷つけている。痛い、痛い、痛い。
しばらく暴れていると、疲れて動けなくなった。思考も落ち着いて来る。縛られている部分がとてもヒリヒリする。その時、暗闇に目が慣れてきていることがわかった。いや、もっと早く慣れていたのかもしれないが、そんなこと気にも留めてなかった。しかし、少しは冷静に慣れている今なら分かることもあるだろう。まず、縛られてる腕。縛っているのは縄みたいなものだ。右手、左手が別々に縛られている。足も同じようになっている。カッターなんかでは簡単に切れないだろうし、固く結んであった。四肢はそれぞれある程度動くが、立つことはできない。右手は左手に届かない。さて、どうしようか。
そもそもここはどこなのか。来織が連れてきたと考えるとそんなに遠くではないと思うのだが、家の近くではないと思う。それに今は何時になるのか。時計の代わりになるものなんてあるはずがない。しかし、部屋を見渡してしまった。かなり狭い場所だ。壁はすぐ後ろ。俺が寝れば、他に寝転がれる人はいない。床は、木目があるから、木製か。まぁ、木目調でも他の素材の場合もあると思うので、一概には言えないが。なんとなく押入れっぽいような部屋だ。と、色々思考していると外から声が近づいてきた。
「さぁて、あっきーはだいじょぶかなぁ。ちゃんといるよね。もう誰にも触らせないんだから」
俺をここに入れたのは、来織なのか。最近は大人しかったのは、この準備をするためだった、ということか。
俺の右にあった壁が開いていく。暗闇に光が差し込んだ。扉を開けた本人は、俺を見つめていた。光が眩しくて、彼女の顔のある位置を見ることができない。
「あっきー、ご飯。はい、食べて」
彼女はパンを俺に食べさせようとする。その時、彼女の顔が見える位置まで来た。頬は緩みきっていて、目には光がないように見える。いつも見ていた彼女の姿とは離れすぎている。こいつは来織じゃない。そんな考えが頭に浮かぶ。彼女の姿をした彼女ではない誰か。
「おい、来織。縄を早く解いてくれ。腕が痛いんだ」
冷静であることを装って、話す。内心は逃げ出す機会を伺って、心臓がマラソンを走った後みたいに早鐘を打っている。息切れも起こしている。
「やだ。だって、解いたらあっきーがどっかに行っちゃうでしょ。あっきーは私だけのものなの。誰にも渡さないから。誰にも見せないから」
狂っている。狂っている。彼女は狂っている。俺の頭で誰かが歌っていた。本当にその通りだ。彼女は狂っている。
「来織、頼む。逃げないから、解いてくれ。痛いんだ、すれたところがヒリヒリするんだ」
来織は黙って、俺に向けたパンを見つめていた。
「なぁ、来織。逃げないから。どうにかしてくれよ」
彼女はパンを下げた。そして、パンを持っていない方の手をポケットに入れた。すぐにその手は外に出される。その手に握っているのはナイフ。それを持って俺に近づいてくる。俺は動けない。そして、そのナイフを俺の腕に這わせ、縄のところに合わせた。もしそのまま切ってしまうのなら、俺の腕も切れる。しかし、そんな心配をしなくても良かったようだ。彼女は縄の内側にナイフを当てて、ゆっくり切っていく。やがて、切れる縄。縄を縛られていたところには、血が薄く滲んでいた。
「あっきー、痛そう。私が治してあげるね」そういうと彼女はその赤くなっていた腕を舐めた。
……何をやっているんだ、来織。
彼女は頬を紅潮させ、あっきーの血だぁ、と呟いている。まさかいつものやつか。
「来織、そんなことすんのはやめろ。また漫画の影響なんだろう。だったら、もうやめたほうがいい。これ以上やるならそれが本性だってことにするぞ」いつの間にか脅しになっていた。もっと言い方があったはずだが、もう言葉は取り消せない。
「そう。でも、これは演技じゃないよ。私はいつからかはわからないけれどあるある時からこうだったの。それを隠すために、漫画を基準にしてた。それなら変とは思われるけど、危ないって思われなくなったから」
俺の知らない事情。彼女はそんなことはなかったはずだ。少なくとも俺の記憶の中にはない。いつも一緒にいたはずなのに、俺の知らない彼女がいるのか。俺は昔から仲良くしていたはずの彼女に自分の知らない一面があることがショックだった。
「あっきー、私はこんななの。でも、あなたが好きなの。だから、ずっと一緒にいてよ。私だけじゃダメなの」
そう言われても何も言えない。俺には今の状況を整理するだけの余裕がない。どうすればいいのか。彼女だけと入れば何の問題もない。そう言い切れるのか。それに何より、俺を好きだといってくれた人たちはどうする。本名先輩も一人にはしたくない。
……何とか脱出しなければ。
続く




