来織の復帰
それから泣いていた二人が落ち着いてから、俺たちは仲直りした。皆が笑顔で俺自身も安心できた。あとはあの人を紹介できれば完璧だ。噂をすれば影。まぁ、俺の心の中だけだが。
「本名先輩。ちょっとこっち来てくれますか」
ちょうど玄関から出てきた彼女にそう声をかけた。彼女は俺を認めるとこっちに歩いてきてくれた。俺がそう言うと俺の近くにいた三人の女子たちが硬直しているのが伝わってくる。緊張しているのか。
「やぁ。話って?」片手をあげて、先輩は挨拶する。
「その、先輩。この人たちとも友達になりませんか」うまい言い方が思いつかず、下手な勧誘をしてしまった。
先輩は特に反応するでもなく、彼女たちをじっと見ていた。それから何かを決心したような顔をする。
「よし、わかった。君がそう言うなら、友達になりたいと思う。君は優しいから、この人たちもいい人に決まっているよ」そう言って、先輩は彼女たちに歩み寄った。
「えっと、本名勇在です。どうぞよろしくお願いします」彼女は三人に握手を順番に求めた。
それぞれ先輩と握手すると、不思議そうに自分自身の手を見ていた。何かついていたのだろうか。
「じゃ、悪いけど、私は退散するよ。ちょっと用事があってね」
そう言って、先輩は駆けていった。
それからそれぞれを家まで送ってから自分の家に帰った。
家に帰ると、電気がついていた。両親のどちらかが帰ってきているのだろう。そう思うとなんとなく早く顔を見たくなった。家の玄関の扉を開いて、大きな声でただいまといった。
靴を脱いでも返事は来なかった。何かおかしい。
リビングに続く戸を開いて、中に入る。電気はついているが誰かいるわけではない。テーブルの上には手紙が開いた状態で置いてあった。そこにはこう書かれていた。
あっきーへ
夕食作ったから食べてね。キッチンにあるから。
来織より
そうか、来織が電気を消し忘れただけか。キッチンに行くと、書いてあったとおり、いくつかのおかずが皿に乗って、ラップがしてあった。温めて食べようか。
料理を温めている間に、着替えを済ませる。炊いてくれたご飯をよそって、夕食とした。いつも通りで美味しい。
そこでふと気になることがあった。玄関の扉には鍵がかかってなかった。鍵はどうやって開けたのだろうか。俺と彼女の家は漫画みたいにベランダからベランダに飛ぶというようなことはできない。なぜなら、ベランダがないから。今日の朝は俺がしっかりと鍵をかけたのだ。合鍵を彼女に渡したことはない。それならどうやって入ったのか。……わからない。
そんな疑問を残して、今日を終えた。
「あっきー、起きて。起きてよ」
翌朝、俺は聞いたことのある声に起こされていた。薄く目を開けると、そこには来織がいた。俺の顔を覗き込んでいる。
「おはよう」
腰が痛い。あたりを見渡すと、ここがリビングだったことに気づいた。どうやら、昨日は、ここで眠ってしまったらしい。
「あっきー、ちゃんとベットで寝ないと風邪ひくよ」
俺はそれにああ、と答えたと思う。寝ぼけていたのでそこははっきりしていない。
「というか、何でここで寝てたのさ。そんなに疲れてたの」
確かに疲れているのはあったが、ここで眠ってしまうほどではなかったはず。まぁ、疲れは自分で気付かないじょど疲れている時があるので、そういうことなのかもしれない。
「それよりどうしたんだ、来織。俺に用か」
「私はあっきーの彼女なの。何も不思議はないでしょ」
そうか。確かに不思議はない。彼女が自分の家に入って来る。普通だ。ん、そうか。俺はそこで昨日のことを思い出した。
「なぁ、来織。昨日、俺に料理作ってくれたよな」
彼女は頷いた。
「それならどうやってこの家に入ったんだ。俺はちゃんと鍵閉めたぞ」
「えぇー、開いてたよ。簡単に入れたもん」
おかしい。絶対と言い切れるほど、俺は鍵を閉めた自信がある。恋人を疑うのは良くないが、勝手に家に入られると、困るのだ。
「鍵は閉めたんだ。開いてたとしたら、来織か泥棒ぐらいだ。泥棒だったら、もっと家に中が荒れると思う。それに父さんも母さんも早くは帰って来れない。だから、この家に勝手に入ったのは来織しかいない。何か事情があるなら、話してくれ。ちゃんと聞くからさ」
俺自身に責めているつもりはなかった。しかし、彼女は急に顔つきが変わった。目に光はなく、得体の知れない感情を秘めているようだった。来織とは思えない。
「……いーが……なと……くす……」
聞き取れないほど小さな声で何かを言っている。俺はその雰囲気に飲まれていた。俺は椅子の上、彼女は目の前。俺に逃げる場所などない。そう思っていると、彼女が俺の口の中に何かを入れた。そこからの記憶はない。
続く




