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糖度100パーセント  作者: リクルート
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彼女はどこまでも優しい

「あの、それで俺は何の悪いことをしたのですか」

 自分が泣いたという情けなさから、俺は姫灯に顔を向けることができなかった。比喩ではなく、物理的に。

「それは自分で気づきなさい。それじゃ、私は帰るよ」

「え、いや、ま」

 そこまで言って、俺は考えた。彼女も怒っているのだ。彼女から教えてもらってしまえば、本当に駄目な奴になってしまう。それだけは嫌だ。許してくれると言ってくれた彼女にちゃんと謝りたい。他の二人にも謝りたい。俺のところに戻ってこいなんて言えないけれど、それでも謝る。

「……ごめん。また、明日」これだけでいいのか、俺。

「それとありがとう」今はこれでいい。

 その言葉にとても魅力的な笑顔を見せて、彼女は帰って行った。ドキリとする。彼女があんな笑顔をするとは思っていなかった。失礼だが彼女は一般的であると思っていたのだ。人並みの弱さに、人並みの可愛さ。他のこともそう思っていた。けれど、彼女の本質は違ったのだ。彼女は強い、美少女だった。


 さて、家に帰ってきたが、誰もいない。いつも通りだ。いつも通りなはずなのに心持が違うためか、全く違ったように見える。まるで、同じ設計の他人の家だ。だが、そんな違和感今は考えなくていい。それより考えるべきことがある。俺がどんな悪いことをしたのか。それは皆を怒らせるようなことなのだ。今のところ、思いつくものはない。彼女たちの様子が変になったのはいつからだ。……いや、わからない。そもそも彼女たちにはそれぞれ自身の用事があったはずなのだ。それで会っていないため、彼女たちが何を見て、何を感じているのかさえ分からない。ふと思いついたのは、来織の様子がおかしいと思ったのと同時期か、ということ。そのときの変化は特にないと思う。姫灯が中二病を克服した、といったところか。それは違う。では、この際来織の事とは別と考えよう。本名先輩と出会ったのと彼女たちが用事で俺の近くにいなかったのは同じ時期だ。本名先輩とのことだろうか。ん、待てよ。姫灯は俺になんて文句を言っていたんだ。しっかりと思い出せ。確か、まずは彼女自身がとても怒っているということ。これが最初に言ったことだ。それに好きと言ってくれないとも言っていた。他には、キスとか言っていた気がするが。あとはなんだ。馬鹿とか優しいとか、か。何か重要なことだけ忘れている気がする。なんというか、大きなパズルの最後の一ピースだけが抜けているような、歯車が一つ足りない機会を組んでいるような感覚。

 そう考えているうちに俺の頭には彼女たちが言った言葉が頭の中を駆け巡っていた。


 日差しが眩しい。薄目を開けると、見慣れた景色があった。そうか、俺はリビングで寝てしまったのか。夢の中でも彼女たちに怒られていた気がする。疲れはほとんど取れていないと言っていい。それでも最後の一ピース、最後の歯車は見つかった。そう、それは本名先輩だ。俺が先輩と一緒に居たから、それを見て気に入らなかったのだ。ナルシストみたいで嫌だが、つまりは俺に対しての嫉妬だ。それに彼女たちの用事の事もあって、何か簡単には解決しないことがあり、そこにショックな出来事があるとそれはもう怒りたくもなるはずだ。そうなると、唯一変な行動をした人がいる。彼女は許すと言ってくれたのだ。彼女自身の用事と関係しているのだろうか。まぁ、今はそれはいいか。少なくとも的外れな推理をしたとは思っていない。今日、昨日会った三人を呼ぼう。そして、謝る。それしかない。


 そう考えて、俺は家を出た。玄関の扉を開けて、目に刺さる日光を出す太陽を見上げる。雲がほとんどない晴れだ。そんな天気を見て、俺の心のほんの少しだけ明るくなった気がした。扉を閉じて、鍵をかける。それから俺は学校へと足を向けた。玄関で誰かに会えればいいなぁとそんな楽観的な考えを持ちながら、足を動かしていく。


 玄関に行くと、大量の生徒が靴を履き替えていた。その中に会いたい人はいない。しかし、友達はいた。

「おはよっス。富勇」

 最近は姿を見かけなかった友人の姿はかなり久しく、どこかがっちりしたように見えた。男子三日会わざれば刮目して見よとは言ったものだ。

「おう。おはよう。なんか少し変わったか?」

 俺もどこか変わったように見えているらしい。まぁ、ここまで色々あったからだろう。

「まぁ、な。色々あったんだよ。お前がいない間に。それより、ここ最近休んでただろ。何かあったのか」

 彼は少し考えるように腕を組んだ。

「いや、まぁ、俺にも色々あるんだ。最近少し忙しくてよ。全く何考えてんだか」

 最後の一言は誰かに呟いたようだった。何か仕事みたいなものなのか。アルバイトはしていなかったはずだが。

「というか、お前、いつも一緒にいた女子たちは?」

 やはり、それは気になるか。

「ちょっとな。喧嘩みたいになってて、大変なんだ。今日、仲直りするから」

 彼はそうかと言って、歩き出した。一緒に教室に向かうために靴を上靴に替えて、彼の後を追った。


 朝は富勇にしか会えなかった。会いたい女子たちは一人も顔を合わせることができない。授業の合間を利用して、まずは近くのクラスの姫灯に会いに行こうとした。彼女は自分の席で友人と話していた。悪いが中断してもらおう。彼女を呼んでもらえるようにクラスの人に頼むとすぐに彼女を呼んでくれた。それから、今日の放課後に校門に集まってほしいとだけ伝える。彼女は笑顔で了承してくれた。

 他の二人にも声をかけようと思ったが、全く見当たらない。遠くから見つけて、近づいていこうとして、少し目を離せば、どこかに消えてしまう。他の生徒が少しでも視線を遮れば、目の前からいなくなる。まるで神隠しだ。でも、学校にそんな怪談もなければ、七不思議もない。俺に会わないように見つけ次第逃げて、避けているだけだろう。捕まえるのは苦労しそうだ。

続く


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