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糖度100パーセント  作者: リクルート
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みんながいない

 最近、俺の近くには勇在先輩がいる。きっと今日も放課後に明に行って、話をするにだろう。早く来織達に紹介して、彼女の友達になって欲しい。彼女達なら、きっと受け入れてくれるはず。そんな楽観的に考えて、俺は過ごしていた。


 放課後。俺は本名先輩に連れられて、明に向かっていた。先輩の話は興味を引かれる。気づけば、その話にのめり込んでいる。先輩の話し方もあるのだろうか。あまり深くは考えない。先輩の話がしっかりと聞けなくなるから。


「あきくん。少しだけいいですか」目の前に立っていたのは、織姫。

 頷いて先輩に謝ってから、彼女にも近づいていく。目の前まで行くと、彼女の目が潤んでいることに気がついた。それを言おうとしたら、彼女が先に話を始めた。

「あきくん。ごめんなさい。私はお父さんにあなたと一緒にいたらダメって言われたの。だから、さよなら」そう告げると、彼女は未練もなく、去って行った。

 本当に実にあっさりと。まるでまた明日と言って別れるように。俺にはその言葉に反応することもできず、去っていく彼女の背中を見つめるしかない。


 いきなり過ぎた。俺の心にはショックすら与えられなかった。何が起きたのか。彼女の背中が見えなくなってから、しばらく立ち尽くしていた。それから自分に言われたことを理解した。そうか、彼女とはもう会わなくなるのか。俺の心が問う。それでいいのか。良いも悪いもない。彼女が離れるとあっさり言うのだから俺には止められない。いや、止める権利すらないのかもしれない。それでも、俺の頭にはこれでいいのかという問いが鳴りやまない。


「だ、大丈夫か? 顔が白い。今日はもう家に帰ろう」

 いつの間にか隣にいた先輩を見て、俺は笑うこともできず、彼女の指示に従った。


 俺は先輩と別れて、一人で道を歩いていた。日も落ち始めて、辺りを暗くしていく。

「あき」

 その声は彼女が発するには少し大きかったと思う。けれど、それが誰かなんてすぐに判断がついてしまった。彼女に俺の顔を見られたくない。

「どうした。俺に何か用事か。灯勇」俺は顔を上げずに彼女に言った。

 それを彼女が聞き取れているかはわからない。返事と思われるのは少しだけ静寂がこの場を満たしてからだった。

「あきに言いたいことがあってきた」

 俺は返事をしなかった。それを相手は話を促していると取ったらしい。彼女の話は続く。

「私はあきの事が好き。皆の事も好き。私のために色々してくれて、感謝してる。それでも今回は離れるしかないと思った。私は好きな人が幸せならそれでいいと思った。でも、もしそれで私が近くにいたら私は壊れちゃう。きっと、何も感じなくなってしまう。だから、私はあきから離れることにした」

 彼女の言葉の中で一番長かったと思う。こんなに長く彼女の声を続けて聞いたことはなかった。つまり、それだけ想いを抱えていたということ。それでも「今回」が何を指しているのか、全くわからない。何が悪いのか。俺が悪いのか、何かの勘違いか。とにかく俺はまた、別れを告げられたわけだ。最後に彼女の顔を見たくて、顔を上げた。しかし、彼女の顔はすでになく、彼女の後頭部しか見えなかった。それが、俺には、悲しい事だったらしい。涙が出ないにしても衰弱しているのがわかる。心が重いというのはこういうことなのだろう。


 もう何も考えたくない。このまま来織だけ残ってくれればいいと思う。それでハッピーエンドなのではないか。最初から来織だけだったはずなのだ。それがいつの間にか、こんなに増えて、別れを告げられて、それなら最初と同じように来織だけを好きでいればいいじゃないか。そんな言葉が俺の心にあった。

 自宅の前にまた一人。彼女も見たことがある。彼女は俺を見つけるなり、小さく手を振った。それでも俺には手を振り返す余裕はない。きっと彼女も同じことをするのだ。三回目だ、きっと慣れているはずだ。

「在来君。こんにちは」

 俺はそれにおう、とだけ返した。

「話があるんだ。ちょっと私らしいとは思えないけど、それでも言うから」

 俺は覚悟を決めた。三回目、そう三回目だ。そう思っていても、心が砕けそうなのはなぜなのか。


「私ね、ちょっと、いや、かなり怒ってるから。勝手に知らない女子と一緒に居てさ、放課後は全然会えなくなかったし。でもやっぱり、女子だよ。いくらでも私に知らせることはできたでしょ。なんで隠してたのさ。それにその前にもだよ。好きって少しは言ってくれてもいいじゃん。キスしてとか言ってなかったし。いや、言ったかもしれないけどさ。他の皆にもだよ。優しいとは思うけど、それだけじゃダメでしょ。あー、もう! あなたは馬鹿っ! 何よりなんで女子に迎えに来てもらってるわけ。少しはあなたからも来なさいよ。もう。本当に馬鹿」


 俺は圧倒されていた。別れるにしてもこんなに言われるとは。聞き取れないところもあったと思うけれど、何もそこまで言わなくてもよくないか。というか、そんなに不満をためることはないと思うのだが。何か不満があるならその場で言ってくれよ。と色々文句を言いたかったのだが、それを言う前に彼女が驚くべき行動に出ていた。


「でもね、結局は好きなの。あれだけ私の為に色々言ってくれた。そう、私の為に。私はそれだけであなたを許せるわ」


 耳元でゆっくりとそう言われた。そして、体には人のぬくもりが伝わってきていた。俺は抱きしめられているということに気づく。彼女は俺と別れるつもりはないのか。許すって何をだ。わからない。けれど、その温かさに俺は静かに涙を流していた。抱きしめていた彼女はそれを見ないふりをしていた。

続く

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