彼女の想い
放課後(二日目)
放課後になった。奴が来るだろう。
「ごきげんよう。恋人さんはいるかしら」
「いねぇよ、部活だ」
そう言って俺は教室から出ていく。かまってれるか、来織に変な不安感を与えてしまっただろ。そういうことは起こしたくない。
「そう、部活ね。ならその競技でわたくしが勝って見せましょう」
無視だ、無視。来織にこいつが勝てるはずない。それにこいつは来織が何部か知っているのだろうか。そもそもこういうお嬢様みたいな人は卓球なんてやらなさそうだ。
「無視とはいい度胸ですわね。いいですわ、今から卓球部に乗り込んできます」
そういって彼女は出て言った。というか卓球部って知ってたのか。
彼女は卓球部に本当に乗り込んだ。来織を呼び出して、卓球の試合が始まった。俺は来織を応援するために、ここにいる。
「来織、大丈夫だ」
「うん、あっきーがいてくれれば負けないよ」
ギャラリーは俺と卓球部の部員だけ。大した人数ではないが、なんというかどっかの漫画みたいな展開な気がする。最近はそういうことが多い気がする。
試合は接戦になっている。まさか、彼女がこんなに強いとは思わなかった。来織は強い。この部活内には来織に接戦できる人間がいない。圧勝してしまうほどの実力なのに、それについていくとは。彼女は何かやっていたのだろうか。
「やるじゃん。でも、勝つのは私だから」
「ふふ、あきくんに近づくために努力してますもの。あなたとは違ってわたくしは幼馴染ではないですから」
俺は勘違いをしていたのかもしれない。ただ俺と来織を離そうとしてやっていたわけではなく、彼女は本気で俺を好きでこんなにも努力をしていた。ただの嫌な奴ではなかったらしい。そうはいっても俺は来織が好きなのは変わらないが。
試合は大接戦だったが、最後に勝ったのは来織だ。やはり長年やってきただけあって、負けることはなかったが、珍しく息をきらせている。
「ねぇ、あんた、やるじゃん。まさかこんなに苦戦する相手がこの学校にいたとはね」
「あきくんのためですもの。負けられなかった」彼女も息を切らせている。
「名前、教えてよ。あんた、いや、あなたの名前は何ていうの」
「わたくしは花前織姫。あなたは?」
「来織。煮雪来織っていうんだ。よろしくね」
いきなり名乗りを始めて、俺はとまどっていた。なんで、よろしくとか言っているのか。
来織がこっちに来て、俺と目を合わせた。これは何かをねだるようなときに使う目だ。
「ねぇ、あっきー。友達になろうと思うの。花前さんと」
「どうして」
少し嫌味な言い方してたし、俺たちのに入ろうとしていたのにか。そりゃ少しは見直した部分もあるけれど、仲良くなっていいのか。彼女は俺の恋人になろうとしてるんだぞ。
「だって、花前さんもあっきーのこと好きなんだよ。なら仲良くしたいじゃん。それに喧嘩した後は仲良くなるのが鉄則なんだよ」
それは漫画の話だ。現実はそんなのではなくて、もっと考えて行動するものだろう。
だけど、彼女が許しているなら、俺はそれを尊重してやるのだ。それに彼女は笑っているんだ。それなら。
「わかった。来織が決めたならそれでいいよ。俺も彼女とは友人だ」
「だって、花前さん。これで私たちは友達だね」彼女は花前に寄っていく。
「......いいのですか? わたくしはあなたに負け、それ以前にあなたたちの邪魔をした。なのに、あなたたちは許してくれるのですか?」
「いいんだよ。喧嘩した後は仲良くしなきゃダメなんだよ」
「え、でも、それは」彼女は戸惑っていた。それはそうだ。こんなこと言うやつは漫画か、来織ぐらいだろう。
「それにそんな約束無くてもあなたとは仲良くなれる気がするの」
「煮雪さん......」
「煮雪じゃなくて、来織って呼んでよ。私も織姫って呼ぶからさ」
「はい。ありがとうございます」
彼女は肩を震わせていた。多分、本当にこの試合が終わったら、俺たちに会わないつもりだったのだろう。それを来織がやめさせた。残酷な優しさなのだろうか。俺にはわからない。これを彼女が苦しいと感じるのか、それとも友達でもそばにいることがうれしいのか。
「ねぇ、あっきー。今日だけ見ない振りするから、織姫の事、慰めてあげて」彼女はウインクして部室に戻っていった。それに続いて、ほかの部員も戻っていく。
ここにいるのは俺と彼女だけ。俺はまだに名前をどう呼んだらいいのか、わからない。
「あなたは。あなたはいいのですか。わたくしと来織さんが仲良くなって、それにあなたとも友達だと」
「別に良いも悪いもない。お前が友人でいたいならそれでもいい」
そんな質問に何を答えればいいのか、ぶっきらぼうになってしまうのは仕方ないよな。
「それによく考えたら、お前が俺と来織の中を割くなんてできないよな」
「っ!」
「だって、俺と来織は離れられないからな」
びしっと指をさしてやった。我ながら嫌な奴になってしまった。しかし、彼女は安どした様子。
「お前ではなく、織姫とお呼びください。あきくん」彼女は走って去っていた。
こうして今日も終わっていく。紅に染まる廊下を走っていく彼女はとても元気に見えた。
「お嬢様キャラが仲間になった、か」
RPGの仲間になった音楽が頭の中で再生される。
こうして今日は、友情度100%で幕を閉めた。
仲間が増えて、うれしうぅ!
つづく!