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糖度100パーセント  作者: リクルート
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在来のいない日常 ー灯勇ー

 今日は前から約束して、ずっと待ち遠しかったあの日。やっと会えると思うと、在来達と一緒に居ることと同じぐらいに楽しみだった。


「やぁ、久しぶり! 元気だったか?」

「背とか全然変わってなくて、可愛いままじゃん!」

「いやぁ、やっと会えたって感じかな?」

 三者三様の反応をしてくれる彼女たちは私の一番最初のころにいた友達。美香(みか)(けん)友利(ゆうり)。彼女たちとは携帯電話を持つまでは、手紙でやり取りしていた。引っ越してからもらった手紙はいまだに保存してある。たまに取り出しては、懐かしむのが楽しい。それから、私も彼女たちも携帯電話を持つような歳になり、手紙に携帯電話の電話番号とメールアドレスを書いて以来、正月のはがき以外の手紙はもらうことがなくなった。それでも、毎日この三人の中の誰かとメールのやり取りをしている。そうしてグループでやり取りできるアプリケーションができたので、それを使ってそれぞれの予定を合わせ、今日やっと集まることができたのだ。私はすごく楽しみにしていただけにすごく嬉しい。三人の顔を見ても、嬉しそうにしていて、さらに私も嬉しくなる。

「すごいね。一人暮らししてるんだねぇ。あたしはまだ、家の手伝いしてるだけだし」

「そんなにすごくない。自分でしなきゃ、生きていけないから」

「それでも、すごいと思うなぁ、僕は。僕なんてまだ、親の元で何もしてないからなぁ」

「……」そう褒められると、私は照れで言葉が出てこない。

「俺もこういうところに住みてぇな。畑ばっかじゃつまんね。走るぐらいしかやることないし」

「あ、忘れてた。お茶とかお菓子とか出す。今日はお喋り、沢山しよう」

 それから、私たちは遅くなるまでお互いの近況報告や今までの楽しかったこと、それと昔みんなでいたことなどを話しながら夜は更けていった。


 朝、起きると私は机に突っ伏していた。あたりを見回すと、友達たちは床に倒れるようにして寝ていた。こんなに話しているつもりはなかったが、楽しすぎたのがいけなかった。それに私は学校に行かなくてはいけない。私が学校に行っている間、彼女たちはこの街を歩いてみると言っていたので、私が居なくても大丈夫だそうだ。しかし、私の睡眠時間が少ないので、授業をしっかりと受けることができるのかが心配だ。私は急いで支度をし、置手紙を残して、家を出た。もちろん、彼女たちに鍵を閉めるようにと手紙には書いた。


 それから学校にはなんとか間に合った。それから眠い目を擦りながらも授業を受けることはできていたと思う。定かではないのは寝ているという自覚がなかったかもしれないから。それでもあきに会いには行った。しかし、そこには織姫も姫灯はいなかったので、私だけ会うのは気が引けた。だから、今日の放課後は会えないということだけを伝えて、私は自分の教室に帰った。


 そんなことがあったが、時間は流れて、放課後になった。午後の授業もなんとか眠らずに受けることができたのは幸いと言っていいはず。学校の玄関で織姫を見かけたが、何か思い悩んでいるようだったので声をかけるのは躊躇われた。その間に彼女が去っていく。悩んでいるのだったなら、話を聞いた方が良かったかも知れない。少なくともあきだったら聞いていたし、解決までしていたと思う。


 家に帰ると、みんなはすでに家に帰ってきていて、それぞれにおかえりと言われた。迎えてくれる人がいるのは嬉しいことだ。それから今日はどこに行ったのか、というところから会話は止め処なく進んでいった。


「晩ご飯、何がいい」

 健のお腹が鳴ったので、晩ご飯にすることにした。来織と織姫は料理がかなり上手だったので、私は何もしなかったが、実は少しは料理ができる。あきに見せることができるほどではないので、彼の前ではやりたくはないけど。

「私も手伝うよ。一応、色々できるし」そう言ってくれたのは、美香だった。

 彼女にお礼を言って、料理を手伝ってもらった。メニューは親子丼と味噌汁。味噌汁は彼女に任せて、私は親子丼に取り掛かる。


 てきぱきと支度を終えて、私たちは晩ご飯を食べた。料理はどれも美味しいとほめてくれたことがとても嬉しかった。それに。私自身も喜んでもらえて嬉しかったのもあると思う。

 それから話し込んだが、昨日の反省を生かして私たちは夜が更ける前に眠りについた。


 今日も彼らは観光に出かけた。観光とは言っても、この街にはあまり見るところなどないと思うのだが、私の住んでいる町が見たいらしい。昨日聞いたところ、美香がそう言っていた。それが楽しいのなら、私もあまり気を置く必要がなくていい。私は彼女たちを残して、学校に行くことにした。


 学校に着いた。しかし、最近はみんなでいる時間が少なくなっているような気がする。誰でもいいので、いつものメンバーと話がしたい。何かぎこちない感じがしている。少し前まではみんなとうまく楽しく話せたというのに、今はどうやって楽しく話していたのか、全く想像もつかなくなっている。誰かに相談に乗ってほしい。そう思っていたのが通じたのか、学校の玄関には姫灯がいた。

「おはよう、姫灯」

 そう声をかけると、彼女はこちらに振り返った。

「あ、おはよう。灯勇」

 初めて会ったあの時とは全く違う。さらにそのときよりも何か嬉しそうな表情だ。彼女も用事があると言って最近は会ってなかったが、その用事が上手くいったということだと思う。

 それから最近、皆で集まってないという話をして、遅刻になってしまう前にそれぞれ教室に向かった。


 授業を受けている途中、何か視界が歪んだ。どうやら一昨日の夜更かしが今になって、効いてきたのか、調子が少しだけ悪かった。それを理由に、私は早退した。


 家には誰もいなかった。一応、ただいま言ってみたが、返事はなかった。もう十時も過ぎているし、寝ているということはないと思う。そう思いながら私は玄関から部屋の中に移動した。

 部屋の中は誰もいないのかと思っていたが、健がそこに座っていた。というか、目をつぶって寝ている。鍵がかかってなかったのは彼がいたかららしい。私は起こさないように、物音に注意しながら、貧血の薬を飲んだ。

 それから、みんなが揃うとまた昨日と同じくお喋りをした。


 今日は土曜日。学校はない。一日中、彼女たちと遊ぶことができるのだ。しかし、彼女たちはなぜか乗り気ではなかった。

「ねぇ、灯勇。貧血は大丈夫なの」

 私は頷いて、大丈夫だと伝えた。それでもみんなの顔は心配そうだ。だから、改めて自分の言葉で伝えた。

「大丈夫。それに昨日、休んで体調は万全」

 その言葉にみんなが頷てくれた。それから、私たちは出かけた。四人でこの街を探索するのは初めての事だ。それぞれ探索してみんなで行きたいところを決めていたらしい。それぞれ順番に彼女たちの行きたい場所を回っていた。

 

 あまり来たことのない道に来た。私はこの街に来て長くはない。なので、知らない道は案外たくさんある。その道にはカフェのような店があった。名前はしっかり見ていないので覚えてないが、ガラス越しにあきの姿を見た気がした。彼の隣には女の人がいる。彼らは楽しそうに話していた。

「どうしたの。灯勇。この店、入る?」

 私は首を横に振って、それを拒否した。店内に入ったら、きっと見間違いだとは思えなくなる。今ならまだ、人違いだと思えるから。そうしてあきみたいな人のいるカフェの前を去った。


 それから騒いで騒いで、楽しい時間が過ぎていった。それは日曜日も続いていた。


 日曜日の夕暮れ、彼女たちも明日から学校があるらしい。それはそうだと思う。明日は月曜日。普通の学校なら平日は登校日になる。

 少し、いや、かなり寂しくなるが、それでもまた会うことはできるのだ。そう思っていても、彼女たちと別れるのにはかなり時間がかかった。それでも、最後は笑い合って、また会おう、そう言って、彼女たちとの楽しい時間は終わりを迎えた。


 楽しい時間を終えたあと、ある疑問がふと私の頭を支配した。それほどのものをよく忘れられていたと思うほど。それはあきとあの女の人だ。私は見たことがない。来織は知っているのか、織姫は、姫灯は。そんな疑問と不安が、私の頭に残る。あきは誰かれ構わず一緒に居るような人ではないと思う。……いや、見間違いだって、そう思ったじゃないか。それでいいだろう。誰かの声で、頭の中でそう響いた。

 ……そうだ。見間違い、勘違い、そうに決まっている。


 それから、私は悩んでいた。それから、どうせなら会いに行くついでに彼自身に訊けばいいと思い始めていた。訊いてそれで関係を教えてもらってそれで安心できるはず。そう思いながら、彼のいる教室に向かっていた。階段の先には織姫がいた。何か焦っているように見える。それを彼女も確認したのか。わたしと共に彼の教室へ。目的地手前で、姫灯がいた。彼女も連れて、彼のもとへ。


 彼は果たしてそこにいた。しかし、知らない女の人と話している。彼の声には私たちと話すときと同じ気持ちがこもっていた。それはきっと好意というものだと思う。それを考えているうちに、前にいた織姫が急に走り出した。私はそれを目で追うでもなくその場から去った。それから私は確信した。あのとき、カフェにいたのは、あきとあの女の人だということを。見間違いでも勘違いでもなかった。その事実は私に衝撃を与えたらしい。私は今来た道をそのまま戻った。それから教師に具合が悪いと言って、早退した。


 翌日は学校に行った。でも、あきとかいつものメンバーには会いたくなかった。こちらから見つけたら避けるようにして生活した。それから、あきとこれからどうすればいいのか、考えに考えた。結論が出たのは、それから三日後、その日の放課後に私は彼に想いを伝えることにした。

続く

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