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糖度100パーセント  作者: リクルート
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在来のいない日常 ー織姫ー

 急な話ではあった。そのせいであきくんとは全然会うことはできなかったけど、これを解決できればあきくんとはずっと一緒に居られる。


「ふむ。この写真に写る男子が織姫の好きな相手か。確かに、優しそうではあるな」

 私の目の前にいるのは、私のお父さん。今日は忙しい中、私が好きだという相手を見てもらっていた。しかし、私が興奮してお父さんに、誤解を与えてしまっていた。それは彼が浮気者だということ。

「しかし、さっきお前が言ったような人間なのだろう。それではお前を彼に渡すことなどできるはずがないだろう。また、こいつの女が増えるかもしれないのに」

 お父さんは私が言ってしまったことを勘違いしたまま、話を続ける。それでも私は諦めたくはなかった。

「違うの、お父さん。あきくんは皆に優しいんだよ。それで浮気なんてしない。それでも皆で仲良くやっていきたいから、こういうことになっているの」

「それでもだ。お前の幸せを願う私としては、彼についていくことは許さない」

 お父さんは昔から頑固なところがあった。それは私についての事。私がしたいと思っても、それが危険ならなんとしてでも止める、そんなお父さんだった。今となって、その行動は私を心配しているからだということはわかっていた。しかし、今回の事は私も譲るなんてできなかった。私は意地でもあきくんと一緒にいたい。そんな願いをお父さんは許さなかった。


「何度来ても答えは同じだぞ。お前を彼のところには行かせない。本当なら会うことも許したくないのだ」

 あきくんの写真を見た日からすでに三日経っていた。お父さんと話せなかった理由はただお父さんが忙しかったから。それについて、私は文句を言うつもりはない。お父さんの仕事はこの街の市町で市民の為に毎日忙しいと知っているから。それに昔から、私といつも会えないことを悔しがっていることを知っている。

「明日は日曜日だ。学校が始まる前にしっかり自分のことを考えなさい」

 お父さんがこういうことを私に言うのは初めてだった。私は私なりに自分の事を考えて、両親に伝えていたから、両親が私にそういうことを言う必要がなかったのかもしれない。だから、お父さんに初めてそう言われて、私は何も言い返すことができなかった。それをわかったのか、お父さんは部屋から出ていくように私に言った。


 明けて日曜日。私は公園にいた。考えてと言われても、何をどう考えればいいのか、全くわからない。私には決めていることがあって、それをお父さんに伝えても、わかってくれない。それを考えても、決めていることをどうして変えることができるのか。私の考えはもしかして間違っているのだろうか。ふとそんな考えが思考を遮る。あきくんのことが好きなことは間違いない。でも、あきくんは誰か一人を選んではくれない。だから、来織はみんなといることを望んだのだと思う。それが間違っているとは思えない。みんなが幸せな選択をしたのだから、それに文句をつけられることは、それこそ間違っていると思う。それでもお父さんは考え直してくれという。

「はぁ~」

 考え込んでいると、自然とため息が出ていた。私はどうすればいいのか。それが全くわからない。


「お嬢様、起きてください。今日は学校に行かなくてはいけませんよ」

 朝、世葉さんが起こしに来てくれた。彼女が私を起こしに来ることはほとんどない。私は目覚ましをかけずとも、目が覚めることが多いから。それでも昨日は悩みに悩んで結局、ほとんど眠ることができなかった。それでも、時間は経っていて、今日は月曜日、学校に行かなくては。


「お嬢様、寝付けなかったのですか。目の下にクマができてますよ」

「大丈夫。学校には行けます」

 私は気丈にふるまっていたつもりだったが、世葉さんには敵わなかった。

「旦那様とのことでしょう? あの辺泥在来様と一緒に居られるかどうか、でしたね」

「なんで、そのことを知っているのですか。わたくしは誰にも言ってなかったはずです。お父さんが言ったのですか?」

 このことを知ってるのはお父さんだけ。お母さんは知っていても不思議ではない。でも、なぜ世葉さんが知っているのだろうか。

「申し上げにくいのですが、きっと、この家の者なら知っていることと存じます。理由は、旦那様がお帰りになられる度に、旦那様の部屋から口論のようなものが聞こえれば、不思議に思う者もいましょう。そして、奥様に伺う者たちがその話を広げていったのです」

 それを聞いて少しだけ、驚いた。まさか、私とお父さんがそんな大声で話していたとは気が付かなかった。

「最初に話を広げたのは誰ですか」責めるつもりは全くなかった。それにある程度予想できた。

(わたくし)だと。奥様が驚いたような顔をなさっていたので最初は私だと存じます」

 私はそうですかとだけ、答えた。そうして彼女に部屋から出ていくように伝えた。

「お嬢様、どうか一人でお悩みにならないでください。私でよければ、ご相談ください」

 そう言って、彼女は私の部屋の扉から消えてしまった。


 それから身支度を終えて、学校に行った。

 あきくんに相談してみようかな。そんなことも考えながら。


 それから考え事していたからか、登校に時間がかかり、朝はあきくんに会うことはできなかった。それでも昼休みは会える。そう思いながら、授業を受けていた。あまり集中できなかったのは、私の中の秘密としておこう。


 それから昼休み、私は一刻も早くあきくんに会うために、急いでいた。廊下に出ると、そこにはちょうど階段を上がってきた灯勇と会い、さらに彼の教室の近くには姫灯がいた。教室に着くまでに来織は見かけなかった。それが少し気になったが、それよりも優先したいことがあった。灯勇と姫灯を連れて、彼を呼んだ。いや、正確には呼ぼうとした、だろう。私の声は彼の名を呼ぶ前に声が出なくなっていた。なぜなら、彼が私たち以外の女子に好意の視線を送っていたから。彼が好きな人が増えていたから。その光景は、お父さんが言っていたようなものだったのだと思う。私は幸せという言葉からかけ離れたところにいたようだ。私はそれから遠くに走っていたと思う。曖昧だ、記憶が。私と並んでいた二人はどうだっただろうか。他人なんて覚えていられるほど、余裕はなかった。それだけは覚えている。


 そのことを誰にいうでもなく、私はそれから二日、風邪だという嘘をついて、学校を休んだ。私の中にはあの彼の視線がこびりついて離れない。そうして私は決意した。

 今日は、学校に行って、彼に、言おう。それで、きっと、おしまいだ。

続く

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