想わず。
日曜日、今日も喫茶店にいた。先輩は目の前にいる。それも楽しそうに話をしていた。その内容は、もちろん、あの本の話とそれに関係する先輩の体験談だ。俺も先輩の話を聞いて、それに相槌を打ったり、答えたりしていた。
「それで、その場所がとても綺麗だったんだよ。その光景を理論にするのは野暮だって私が思ったほどだ」
「はぁ、先輩がそこまでいう景色なら見てみたいですね」
今はオーロラの話をしていた。最初はオーロラのでき方の話だったのが、実際に見たことがあるそうなので、その体験談を話してもらっていた。
「そういえば、先輩はいろいろ見てるみたいですけど、どうやったら見てこれるんですか」
「それは父のおかげかな。本ばかりの知識ではダメだ、本当を見なきゃなって言って、連れてってくれる」そう語る先輩の顔は本当に父親が好きだとわかった。
「そうなんですか。確かに直に見たほうが感動というか、実感というか。そういうのいいですよね」考えがまとまらず曖昧なことを言ってしまっていたが、先輩は気にしなかったようだ。
それから、先輩との話はまた日が暮れるまで続いた。
「そろそろ帰った方がいいかな。いつもなら、これぐらいの時間で私を帰そうとするよね」
「それはやっぱり、先輩は女性だし、暗くなってから帰ると心配ですから」
「そうか。女性は夜は出歩かない方がいいのか」何やら考えているようで、顎に手を当てていた。
「そりゃそうですよ。何か起こってからでは遅いですからね」
「……そうか。ありがとう。では、心配かけないためにも今日も解散しようか」
そうして、コーヒー代を払って、店を出た。先輩は、また、と言って去っていく。その背中にまた明日ですと返して、俺も帰路に着いた。
翌朝、俺は一人で登校していた。なぜなら、来織が家から出てこなかったから。未だに何か悩み事なのか、そういうのが解決していないらしい。来織の母親は学校には行かせると言ってはいたが、本当に来るのかはわからない。来織がああなっているときは、いつもは放っておいたのだが、今回は何かした方がいいのかもしれない。
午前の授業を終えて、昼休み。最近は織姫、灯勇、姫灯が授業を終えたらすぐに来てくれていたが、今日は姿が見えない。もしかしたら、来織がいるかどうかの確認をしているのかもしれない。そう考えた俺は、彼女たちを迎えに行くために、教室のそとに出ると、そこには本名先輩がいた。誰かを待っているようで、先輩は俺のいた教室の扉を凝視していた。そして、俺と目が合うと、誰かに手を振っていた。
「辺泥君、少しいいかな。ちょっと話したいことがある」
待ち人はどうやら俺だったようで、先輩には、はい、と答えた。
場所は移動せず、その場でいいそうだ。それからすぐに先輩は口を開いた。
「今日はまっすぐに明で集合だ。私がこれから外に用ができてしまったから、図書室でというわけにはいかなくなってしまった」
「そうですか。それは仕方ないですよ。用があるならそれでいいです。もし、集まるのに不都合があるなら、今日はなしでもいいですけど」
先輩はすぐに首を横に振っていた。
「いや、君と話すのは楽しいからな。私としては集まりたいのだが、君こそ何か用事があるのか」
「いえ、ないです。それじゃ、放課後は明で待ってますから」
それで立ち去るのかと思いきや、先輩はさらに提案してきた。それは俺にとって魅力的な提案だった。その提案に乗って、俺は先輩の後ろについていった。そのとき、先輩の随分後ろに、織姫たちがいたような気がしたが、本当に彼女たちなら、俺が誰と居ようとも、声をかけてくると思う。きっと、似ている誰かに違いない。遠くからだと、判断がつかないしな。
本名先輩の提案とは、そんなに難しいものではなかった。というか、誰でもできる。それは友達と一緒に休み時間を過ごしてみたいというものだった。行き先はもちろん、図書室。昼飯は別に食べなくても死なないだろうと思って、昼食抜きになることを覚悟していたのだが、なんと本名先輩の栄養食品をもらった。それは、先輩の非常食だそうだ。ちなみに、その非常食は活躍することが多く、もはや、非常食ではないのではないだろうか、というほどだった。
それを食べ終わると、図書室に入って、あの本の内容を聞いた。そして、気づいたら昼休みを終えるための、チャイムが鳴っていた。
外はまだ明るい中、俺は明の中で本を読んでいた。それは先輩の読んでいた難しいものではなく、小説だ。家にあったものをそのまま持ってきただけなので、特に内容は知らない。俺はそれを読みながら、本名先輩が来るのを待っていた。しばらくそうしていると、ちりんちりんという音と共に先輩が入ってくるのが見えた。先輩も俺を認めるとこっちに来て座る。そして、マスターが注文を取りに来た。何日の経っていないにも関わらず、俺には当たり前のようになってきていた。
先輩は頼んだものが来るとさっそく本の話をしてくれた。そうして、今日も日が落ちていった。
それから俺は放課後、こうして明に来ることが当たり前になっていた。それに気づいたのは三日ほどたったころだった。
続く




