今日もまた
翌日の放課後、俺は今日もまた本名先輩との約束通り、図書館に来ていた。最近来織は調子が悪いのか、昼休み以外、俺に会いに来ることがなくなってしまっていた。こういうことの前例があった。きっと、あと一週間以内に治ると思う。それから、放課後に俺を迎えに来てくれた織姫たちには用事があると言って、先に帰ってもらっている。
図書館に入ると先輩は本を読まずに、ただ椅子に座っていた。そして、俺が入ってきたのを認めると俺の方に歩いてきた。
「それじゃ、行こうか」
それに頷いて、俺たちは学校を出た。
「今日は本読んでなかったですね。読み終わったところでしたか」
耀に移動する間にそんなことを訊いた。本を読まずにただ座っているだけの先輩はぼぅっとしているだけのように見えた。会ってそんなに時間が経っていないが先輩らしくないなと感じたのだ。
「いや、今日はそもそも放課後からは読書はしてないよ。君にどうやって本の内容をわかりやすく話すかを考えていただけ」
そんなことを考えていたのか。本の内容を共有して、話すことができたほうが先輩としても嬉しいのだろう。しかし、そんな専門書を理解できるほど俺の頭はよくない。それでも話についていけるようにしてくれるのは嬉しい。
「ありがとうございます。それじゃ、今日も期待してますね」
そういうと、先輩の耳が少し赤くなっていたがちらっと見えた。
昨日と同じ、扉を開けるとコーヒーの良い香りがした。そして、マスターが席へと案内してくれた。注文は俺も先輩もコーヒーを頼んだ。
「さっそくだが、話してもいいかい?」早く話したくてうずうずしているようだ。
俺ははい、とだけ返事をして、彼女の話に耳を傾ける事にする。
先輩は昨日とは違って、俺にわかりやすいような言葉を使って話してくれていた。読んだ本が多いからか、先輩の言葉の多さに少しだけ圧倒された。それに何度も俺に理解しているかの確認をしてくれていて、俺がわからないところはさらに噛み砕いて説明してくれた。
気づけば、外は暗くなり始めていた。先輩はそんなことを気にしていないみたいだったが、マスターがこちらに視線を向けていることに気が付いてた。それは明らかに心配しているような視線で、何度も何かを言おうとこちらに少しだけこちらによっては戻るということを繰り返していた。なぜ戻ってしまうのか、それはきっと先輩が楽しそうに話しているからだろう。もし、俺も周りから見ている立場だったなら、この楽しそうな雰囲気を邪魔したくはないと思うに決まっている。しかし、夜道を女子が一人で帰るのは心配だ。そこで話が一区切りしたときに、俺は先輩に言った。
「先輩、また明日にしましょうよ。外も暗くなってきましたし」
俺の言葉に先輩はまだ話し足りないようで不満そうな顔をしていた。
「また明日、ちゃんと聞きますから。明日も図書館に迎えに行きますよ」
待てよ。確か明日は土曜日だ。休みなら先輩にも用事があるかもしれない。
「明日は土曜日。君は明日、何か用事はある?」俺が聞く前に先輩から訊いてきた。
「あ、いえ。特に用事はありませんが」
「それなら明日の午後から、ここで待ち合わせしよう。十三時半ぐらいでいいかな」
「はい、わかりました」
こうして、俺は先輩と休日も会う約束をした。
そうして約束の日。俺はすでに明に到着していた。時間は午後一時。三十分も早い到着となってしまった。なぜだか早く先輩に会いたくて、落ち着かなくて、早くに家を出てしまったわけだ。この店の扉が開く度、先輩が来たのかと思って確認してしまう。先輩は一時半に来るとわかっているのだが、それでもどうしてもその入ってきた人を確認してしまっていた。俺は意識して、扉の方を見ないように、顔を下に向けていた。
「やぁ、早かったね。そういう私も結構早く来たつもりだったんだけど」
その声に顔を上げるとそこには本名先輩が経っていた。私服姿の先輩を始めて見た。学校から来ているわけではないので当たり前ではあるのだが、かなり新鮮だ。その私服は白いシャツにブラウンのスカートその上にロングカーディガンを着ていた。シャツのボタンは上二つ分だけ開けている。学校での先輩はあまりお洒落をするようには見えなかったので、先輩には悪いが、なんとも意外だった。
「どうした。そんなに見て」
どうやら俺はいわれるほど見ていたらしい。
「あ、いえ、その、私服で会うのって初めてだったから、新鮮だなぁと」
「そう言われてみれば。私も君の私服を見たのは初めてだ」
それからまたあの本の話を聞いた、本の話だけでなく、先輩が体験してきたことなんかも聞き、有意義な時間を過ごした。
そうしてまた昨日と同じく、暗くなってきたところで、喫茶店から出た。先輩とはまた明日も会うことになった。
続く




