表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糖度100パーセント  作者: リクルート
45/70

本の内容

 店に入ると、ベルの音がし、コーヒーの香りが俺の鼻孔をくすぐった。中にいる客は三人ほどそれぞれ一人のようだ。マスターがこっちを見て、席へと案内してくれた。店の隅のソファの席だ。

「二人は友達だったんだね。注文はそれぞれ何にする?」

 マスターは笑顔で注文を聞いてくれた。俺はいつも飲んでいるコーヒーを頼み、先輩は紅茶を頼んでいた。それを聞いて、マスターはカウンターに戻っていった。


「それじゃ、あの本の話をしようか。それで一巻からでいい?」

「ええ。それであの本は何の本ですか。俺が見ても全くわからなくて、なんかの専門書かと思ったんですが」

「まぁ、確かに高校に置いておいても、読める生徒はほとんどいないと思うよ。君の予想通り、専門書だからね。何の為にあるのかというと、教師のためだ。人に教えるということはそれ以上にわかっていなければいけない。どうしてこうなるのか、その根拠を示さなくてはいけない。そのために専門書が必要、ということ」話し終わると先輩はなんとも誇らしげにしていた。

 それから、注文していた飲み物が届けられて、先輩の話を聞いた。本の内容を一から説明してくれたけれど、やはり俺には全くわからなかった。わかったことは先輩は本が好きということ。それと頭がすごく良いということだけだった。しかし、本の話をしている先輩はすごく楽しそうで、まるで今まで伝えることを我慢していて、やっと話せると事ができるようになった、とそんな印象を受けた。

 それから、話を聞いているうちにコーヒーも紅茶もなくなり、外も暗くなり始めたころ、俺たちは話を中断して、店を出た。


「んー。辺泥君、今日は私の話なんか聞いてもらって悪かったね。本当は気を遣ってくれていたんでしょう」そういう先輩の横顔は悲しげだった。

「いえ、気を遣っているわけではないですよ。それに楽しかったですし、また明日も教えてくれますか」俺はその悲しそうな顔が見たくなかった。それだけだ。

「……そうか。それなら、明日、図書館で待っているよ。君が来たらすぐに声をかけてくれ」

 そうして、俺と先輩は分かれて、帰路についた。


 家に着き、玄関に入るとリビングから話し声が聞こえた。靴を脱いで、揃えるときに父の靴があることに気が付いた。どうやら今日は父が早く帰ってこられたらしい。それとも、追い出されたのか。つまりは働きすぎというやつだ。働いてくれと言われている一方、働きすぎだと言われるのは心外だ、と父の愚痴を聞いたことがある。それが社会というものの厳しさなのかもしれない。ふとそんなことを考えた。


 リビングに入ると予想通り、父がいた。

「おお、わが愛しの息子。お帰り」そう言いながら、俺に抱き着いてくる父。

「た、ただいま、父さん。酔ってるの?」いきなりの事に反応できず、そんなことを訊いてしまった。

 父は酒や煙草などは一切、飲まない吸わない人だ。それに好きな人には抱き着くのが当たり前とかいう人でもある。つまり、酔っているわけではない。昔からこうだから今更気にしてはいない。家の外でされるとさすがに怒りたくもなるが。

「母さんは? まだ帰ってこないの」

「いや、買い物だってさ。在来が帰ってくるの待ってて言われたからな。それを言われちゃ待つほかないでしょ」

 母さん、父さんの扱い方を熟知していらっしゃる。そんなとき、玄関が開く音が聞こえた。

「ただいま~。在来、帰ってるの? 少し手伝ってほしいんだけど」

 俺はそれに返事をして、母の手伝いをした。手伝いと言っても、買ったものを冷蔵庫や他の場所にしまうだけなのだが。ちなみに父はそんなことさせられない。整理することに関しては最悪なものだから。一度、俺が頼んで、ロールペーパーをしまってもらったところ、並べるだけということもできなかった。それ以来、頼まなくなっていた。というか、簡単なものもしまえないのに、他の物をどうするというのか。それを想像すると確実に二度手間になるのは明白だ。

 片付けを終えると、久しぶりに両親の料理を食べられることになった。普段は母が作り置きしてくれていたものを温めなおすだけで、出来立てを食べることができなかった。それを考えるとやはり、出来立てを食べることができるというのは、なんとも嬉しい。


「毎日こうして上げられたらいいんだけどね」

「そうだなぁ。毎日、在来を一人にして悪いとは思っているし、仕事優先にしたくはないんだけどね」

 両親は夕飯を食べ終えて、一休みしているころにそう呟いていた。俺は一人でいることに慣れているわけではない。小さいころは来織の家にお世話になっていた。それに今だって、来織の家に招待されることが多いので、さして大きな寂しさはないが、両親は気になっているようだ。

「確かに、大勢で食べる方がいいよ。だけど、仕方ない。それに毎日、ご飯作ってくれてるし」

「そう言ってくれると少しは気が楽になるけどね」

 そして、久しぶりに家族がそろった時間を過ごした。


 

続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ