図書館にて
先生と図書館にやってきた。生徒はまばらで、本を読んでいる生徒は少なく、大半が勉強している。静かな場所だし、勉強にはもってこいだと思う。
「本当に助かったわ。辺泥君」
「いえ。というかこれからこれら、どうするんです? 何かするなら手伝いますよ」
「でも、帰る時間遅くなるし、大丈夫?」
「ええ、何をすればいいんですか」
「ダンボールの中にあるものを分けていくの」
作業そのものは簡単だった。まず、本と紙の資料をわけ、さらに種類順に分けるというものだった。それ以降の作業は図書委員がするらしい。俺と先生は黙々と作業を続けた。
それから一時間ぐらいしたころ、やっと作業が終わった。夕日も消えていく時間だ。
「今日はありがとね。そうだ、何かお礼とかしようか」
「いえ、大丈夫ですよ。それに整理の方は頼まれたわけではないですし」
「いいのよ。かなえられる範囲でだったら、何でもいいのよ?」
「でも、特にこれと言ってしてほしい事とかないですよ。思い浮かびません」
「そう。じゃ、辺泥君に何かあった時に今度は私があなたを助けるってことで」
その言葉にはい、とだけ返した。それを確認した畑先生は図書室から出ていった。
閉館時間が近づいていたからか、図書室にいた人は少なくなっていた。本を読むと言っても俺自身はほとんど漫画した読まないので、図書館にはあまり来ない。一年のころに何度か来たことがある程度だ。二年になってからは来たことはなかった。この場所は静かだ。いつも俺の周りには騒がしい人が多いので、こういうところに来ると落ち着かない。そう思いつつも、少しだけここを見て回ることにした。
ある程度見ると、話題になっている小説があったり、難しそうな本が並んでいた。こんな本、誰が借りるのだろうか、というような難しいものだ。少なくとも俺には理解ができないものだった。専門書とかそういう類のものなのだろうか。俺はなんとか少しでもわかるところがないか眺めてみるが、そんなところは見つけられない。難しい本を眺めているうちに飽きて本を戻した。そこで一人の生徒がこっちに向かってきた。その人の持っていた本は俺の眺めていた本の先の巻数の物だった。この本、読む人いるのか。
「あなた、これを読めるの?」その人は本を戻しながら、そう言った。
一瞬、俺に訊いているかわからずに答えるのが少しだけ遅れた。
「……あ、いや、眺めてた、だけです」
「そう。私みたいに読めるのかと思った。そうなら、友達になれるかもしれなかったのに」
その人の瞳は少しだけ寂しい色を持っていた。その言いぶりから考えるに、難しい本を読んでいるから、誰も友達がいないというのか。それとも、ただ単に趣味が合う人がいないということなのか。どちらだとしても俺にはきっと関係ないのだ。
でも、寂しそうな瞳をしていて、それを俺には放っておくことなどできなかった。友達になってくださいなんて、少しだけ恥ずかしいし、図々しいかもしれない。だから、俺はこう言った。
「あの、俺にもこの本の内容教えてくれませんか」
その言葉に相手は驚いていた。それでも、すぐに顔を元に戻して、頷いてくれた。
「閉館ですから出てください」
教えてくれと言った瞬間に俺たちは図書館から追い出された。相手の人も残念そうにしていた。そんなにあの本、理解したら面白いのか。
「あ、明日とか、それ以降でも、教えてください」
我ながら、何を言っているのかと思う。これはきっとお節介というやつだ。この学校で友達なんてできなくても、そんなに困らない。学校という枠に拘らなければ、友達なんてできるのだから。きっと相手が大人な雰囲気を持っていて、美人だったからに違いない。だから、俺は彼女にお節介を焼いたのだ。そんな言い訳を考えた。
「そういえば、名前を言ってない。私は本名勇在。あなたは?」
「えと、俺は辺泥在来です。二年です」
「そう。私は三年。だから、あと一年もないけど、よろしく」
彼女はそういうと、顎に手を当て、考えるような仕草をしていた。そうして何かに結論が出たようで言った。
「これは友達になれたのか?」
そんな質問がきて、驚いた。高校生になって、そんなこと聞く人はなかなかいないと思う。しかし、俺はありきたりな答えを出した。
「友達って確認してなるものでもない気がします。気づいたらなってるみたいな」
「そうか」彼女はそう短い返事をして、廊下を去っていこうとした。
「えと、本名先輩。さようなら」俺はその背に挨拶をした。
それが聞こえてからなのか、一度振り向いて、さよならと言ってくれた。そして、また去っていった。その背中に何か覚えがあった。というか、確信していた。その背中は朝に見た大人びた雰囲気を纏っていた、あの背中だ。
続く




