姫灯の過去と現在
私は幼いころはわがままだった。言い訳になってしまうけれど、私の両親は私には甘くて、それで過保護だった。それに勇郎もいて、私のいうことを聞いてくれていた。それから、絵本を読んでいて、私と話の中のお姫様は同じだと思った。毎日、世話してもらえて、優しくして貰えて、本当に欲しいものはなんでも手に入る。それはおとぎ話のお姫様のようで、その姿を私と同じだと思った。だから、わがままをしても許されると思っていたの。それでも、小学校に上がった時、友達が多くはなかったけど何人かできた。そのときに家族の話をしたら、私にしてくれていたことは、他の友達もしてもらっていて、私だけが特別ではなかったってわかったの。家族に優しくしてもらって、近所のお兄さんお姉さんに言うことを聞いてもらう。これは普通の事だった。それでも、私は、ああ、普通なんだなぁって思っただけだった。それからわがままはしなくなって、それでも本当に欲しいものは両親にねだっていたし、両親もそれを了承してくれた。
それから、そういうことを考えなくなって中学校に入った。この時ぐらいからだったと思う。確か、何かの本を読んでいたとき、私はその本の主人公に憧れた。彼女はお嬢様で毅然としていて、格好いいと思った。それでもその本の主人公はわがままもする。それでも彼女のわがままは誰もが聞いてしまう。魔法や超能力がなくともそういうことができてしまう。それは人を引き付ける魅力だった。可愛いとか美しいとかではなく、彼女の人望というか人徳がそうさせてしまう。そんな姿に私は憧れた。それから私はどうやったらそうなれるのか本当に真剣に考えた。自分で言うのもなんだけど、高校生になるころにはそうなれるように頑張っていた。それで、あっという間に時は流れて、中学校を卒業。
それからこの高校に来ることになったの。高校生になるときに一人暮らしをしようと思ったけど、両親は反対した。私は昔から両親に優しくされて育ったから、家事なんて一つもできなかったし、一人で住むなんて、怖くてさせられないって。それでも、私は一人暮らしをしたかった。お話の中の彼女は毅然となんでもできた人だったから。私も一人暮らしができるようになったら、彼女に近づけるんじゃないかってそう思っていたから。そのとき、タイミングよくって言ったら今の言葉の説得力なんてなくなっちゃうけど、そのとき、勇郎が帰ってきて、私の世話をしてくれるという条件でこの街で暮らしてもいいってことになった。一人暮らしではなくなったけど、少なくとも親元を離れて暮らすことは憧れの彼女に近づくために必要なことだと思ったから、結局は勇郎がいてもいいという条件を飲んで今、この街で暮らしているの。
それから、高校に入った時、今までと違って、親しい人なんていなくなっていた。もちろん、私の事を知っている人はいたのかもしれなけど、私の友達は誰一人として同じ高校には居なかった。それは独りぼっちと同じで私は自分の逃げる場所を作るために、あの部室を立てた。高校に来て、初めて、私が人見知りって気づいて、それを隠すための仮面として私は「ディーグレステマヒト」ってキャラクターを作って、それになった。でも、それは周りから見たら変人で話しかけてくれる人はたくさんいたのに私は変なことを言って、クラスから孤立していった。それからはクラスに行くことが嫌になって、授業なんて出たくなくなった。
「すごく長くなっちゃったけど、これで私の話は終わりなんだ。悪いのは私だけ。クラスの人は悪くない」
彼女の顔はなぜだか少しだけすっきりしていた。
「そうか。でも、授業に出ても平気だと思うぞ。クラスの人は悪くないんだろ」
「うん。でも、やっぱりあれだけ印象付けておいて今更、普通にはなれないよ。それこそ恥ずかしいの」
彼女をなんとかしてやりたいと思う。
「なぁ、姫灯。一度だけでいい。俺と一緒に普通の状態でクラスに行かないか」
これはきっと、俺の幻想かもしれない。さっきの今更という言葉の意味は分かっているつもりだ。しかし、それでも、俺は彼女が俺の知らない場所でも幸せであってほしいと願ってしまっている。俺の知らない場所、クラスの中でも、他の場所でも。
「……………………うん、わかったよ」
長い間をおいて、彼女は頷いた。
意気込んで彼女の問題を解決するとか言っておきながら、俺は曜日に無頓着だった。明日は日曜日で、昨日は土曜日だったのにも関わらず、学校があったことを不思議にも思っていなかった。どれだけ集中していたのだろうか。明日一日は姫灯自身が覚悟を決める日になりそうだ。来織、織姫、灯勇は俺たちの事情は知らないのでいつも通り無邪気に遊んですごすことになるのだろう。それでいくらか彼女の緊張をほぐすことができればいいのだが。
案の定、日曜日は遊んですごすことになった。来織は何かと俺の方に探るような視線をくれるが俺は其れに微笑みだけを返す。付き合い始めなら、照れていたくせにその日はそんなこともなく、視線をゆっくりと外すだけだった。悪いな、来織。それにみんなも。姫灯のことが終わったら、話せると思うから。
俺と姫灯以外には平凡な休日が過ぎ、月曜日になってしまった。俺は自分で思ったよりも眠ることができたのだが、姫灯はどうだったのだろうか。まぁ、結果はすぐにわかる。緊張しているなら、ほぐしてやりたい。そう思いながら、リビングに顔を出した。
続く




