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糖度100パーセント  作者: リクルート
37/70

優しさ

 娯楽部を出て、俺は赤く染まっていた道を歩いていた。時間はいつの間にか七時近くになっていた。きっと家に帰れば皆いるはずだ。彼女もそこにいる。今日は少しだけ話をしよう。


 家に帰ると中から、賑やかな声が聞こえてきた。何かはわからないがいい香りも漂っている。リビングに続く扉を開けた。

「おかえり」「おかえりなさい」「おかえり」「お、おかえり」

 皆一斉にお帰りというと迫力があった。俺は先ほどまでの考えていたことを頭の片隅に置いて、今は気にしないようにしようとする。

「ああ、ただいま。みんなして何していたんだ?」

「何してたって、料理作って待ってたんだよ、あっきーをさ」来織がふくれていう。

「そ、それは悪かったな。先生の頼まれごとが長引いてな」姫灯の事は言わない方がいいだろう。

 それから来織と織姫が料理を並べて、夕食となった。

 

 夕食後、俺は皆の様子を見ながら、俺は姫灯に話を聞くタイミングを計っていた。俺が一人だけを呼んで二人だけで話すとなったら、きっと他の人が気にして、ドアに耳でもつけて盗み聞きするのが目に見える。それでは二人だけで話す意味がない。もちろん、お前たち盗み聞きなんてするなよと言ったところで聞くはずがないのだ。ちなみに今、彼女たちはまた、トランプで遊んでいる。というか、俺も混ざってやっている。話しかけるタイミングが余計につかめないのだ。


「ふぅ、ちょっと休憩しようか」

 休憩とは来織にしては珍しく、そんなんことを言い出した。いつもなら休憩なんてせずにゲームを続けるはずなのだ。そう思っていたら、その来織に呼ばれた。少し話したいことがあると。


 呼ばれてついていったところは客室だ。つまり、今は彼女たちの寝室。

「どうした。話って」

「うん。あのね、なんか悩んでるでしょ。昨日からずっとそんな感じだよ」何か、彼女は責めるように言う。

「そうか。隠しているつもりだったんだけど」

「多分、気づいているのは私だけ。他の人はわかってないと思う。私があっきーとどれだけ一緒に居ると思ってるのさ」

 そうか、そうだよな。隠しきれていると思っている方がおかしいのかもしれない。でも、俺自身は、俺と北さんだけで解決しようとしている。だから、俺はこう言った。

「俺が今、考えていることはまだ相談できない。これは誰かに聞かせるような話じゃないんだ」

「そっか。でも今、まだって言った。それはいつかは教えてくれるってことでいいのかな」

 俺はその言葉に返事はせずに彼女の方を見ていた。それは話すつもりはあるということだったが、それを彼女自身がどうとったのかはわからない。それでも、きっと彼女はわかっているのかもしれない。それから、彼女は部屋から出ていった。


 そのあと、俺は休憩していた姫灯を自分の部屋に呼んだ。誰かに聞かれるという心配は申していなかった。きっと、来織がみんなを泊めてくれるだろうから。そんなことを考えている自分は卑怯だと思った。彼女たちに何も打ち明けずに、自分の都合の良いように考えている俺は卑怯だ。


 それからすぐに姫灯は来た。ドアを控えめにノックする音が聞こえてきた。

「開いてるから入ってくれ」

 そういうと、彼女はドアを少しずつ開けて、恐る恐る入ってきた。

「話って、何?」彼女はいつものようにおどおどしてそう言う。

「ああ、それは」

 はっきりと言おうと思っていたが、いざ話をするときになると、言葉を出すことができない。はっきりと言ってしまえば、彼女はすぐにでも俺の近くには居たくないと思うだろう。俺自身もそうだが、他の皆も悲しいと思うに決まっている。それでも、俺は言わなくてはいけない気がしていた。そして、この時になって、依頼とは関係なく俺自身が彼女を心配していることに気が付いた。

「話っていうのは、姫灯が授業に出ていないってことに関してなんだ」

 そういうと、目の前の彼女は俯いてしまった。それから、彼女はゆっくりとそれもほんの少しだけ頷いた。

「なんで授業に出てないか、教えてくれないか」

 彼女は聞いているのか、無視しているのか。彼女は何も話さず、頷くこともしないで、じっとしていた。それでも俺は待っていた。彼女は話したくないのなら、鍵をかけることすらできない近くのドアから出ていったと思うから。


「私ね、本当は、人に話かけられないほどに、人見知り、なの」

 どれくらい待ったかなんて数えていないが、彼女は静かな場所で聞き取れるぐらいの声でそう言った。

「それに、気づいたのは、高校生になってから」

 言葉と言葉の間には少しの間が空いていた。

「私はね、小さいころはわがままだったんだよ」

 それから、彼女の言葉に頷きだけで返しながら、彼女の心を聞いていた。

続く

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