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糖度100パーセント  作者: リクルート
32/70

戦後

 俺たちは来織の家に戻ってきた。それでも元の空気には戻らない。彼女たちだけが俺の暴力を知っている。俺の中にはその記憶はない。夢中だったのか、それすらもわからない。もしかしたら、二重人格というのはこういうものかもしれない。


「俺、今日は、自分家じぶんちで休むから」

 俺はそう言って、自分の家に戻ろうとした。


「待ってっ!」

 彼女の口からそんな大声は聞いたことがなかった。

「私もあきといる」

 彼女は震える手で俺の服を掴んだ。今は一人にしてほしい。きっとそういえば、彼女は離れていく。だけど、俺は今、無性に誰かにそばにいてほしかった。灯勇以外の三人は少しだけ戸惑ったものの、来織の家に入って言った。来織ですら騒がずに家に入って言った。何か、言ってくれると思っていた自分がいて、少しだけ心が冷えた気がした。


 灯勇を連れて、俺は家に入った。彼女は小さな声でお邪魔しますと言って、入ってきた。それから、俺はリビングに入った。後ろに灯勇がついてきていた。彼女に話しかけるでもなく、俺はソファに座る。彼女も俺の隣、だけど、俺との距離を開けて、座った。

 沈黙の時間がいくらぐらい過ぎたのだろうか。というか俺は起きていたのだろうか。そんなことすら判断できていない。何を落ち込んでいるのか。やっと、そんなことを考え始めたとき、部屋の中には何かいい香りがしていた。

「あき、ちょっと待ってて」

 声のした方を見ると、キッチンに灯勇が立っていた。

「灯勇、料理出来たんだな」

 彼女は頷くだけ。いつも通り、だと思う。無口でだけど寡黙とは違う。


 しばらくすると、目の前に料理が出てきた。

「焼きそば?」

 彼女はそうだと答えた。

「私はこれくらいしか作れない。だから」

 俺は黙って、その料理に手を出した。一口食べると、自分が空腹なのを思い出したかのように、腹がなる。二口目で、灯勇の優しさを感じた。三口目で、来織とはまた違った味付けだなと思った。


「私はまた動画を録る」

 焼きそばを食べ終わって、彼女は急に言い出した。

「撮って、色んな人に見てもらいたい。昔の友達に、元気だって伝えるために」

 その瞳には強い意志があった。

「だから、あきにも、手伝ってほしい」

 その最後の言葉だけは、少し目をそらして、恥ずかし気にしていた。それを断ることなんてできない。

「ああ。手伝うよ」

 少し間をあけて、俺は気になったところを訊いた。それは彼女がなぜ動画をそこまで撮ろうとするのかということ。

「なぁ、動画を撮り始めたきっかけってなんだ?」

「それは、さっきも言ったけど、友達のため」

「友達のため?」

「そう。私は高校に上がるまで両親と生活してた。お父さんがバスの運転手だったからよく引っ越ししてたの。それで学校も転校になることが多くて、それでいつからか皆に私が元気だって伝える方法はないかなって思っているときに、ちょうどネットで動画を見てもらうっていう方法を思いついた。だから、それからはずっと私が元気だって伝えるためにやってきたの」

 そう語る彼女は嬉しそうな顔をしていた。

「だから、あきにはほんとにありがとう。友達の皆にもあきを紹介したい」

 それはどうだろうか。俺が映っても華がない気がするのだが。

 まぁ、これで彼女はまた友達に知らせられるわけか。方法としてはあまりに最悪なのかもしれないが、この笑顔を見るとあながち最悪とも言えないかもしれない。少なくとも、最悪な方法でも助けることはできた。俺はそう思う。なら、悪くない結果だろう。



 明けて、朝。体が痛いと思ったら、床に寝ていた。ソファには灯勇が気持ちよさそうに寝息を立てていた。その笑顔は起きているときとは違って、少しだけ幼いと思った。全く無防備だ。まぁ、何もしないけれど。

 ピンポーン、ピンポーン

 家のチャイムが鳴った。きっと来織だろう。他の人も来ているに違いない。あんな姿を見られてしまったのだから、怖がっているかもしれない。気まずいながらも、居留守は使えない。なぜなら、無視し続ければ、きっと、来織は窓から入ってくる。少し緊張した手で、玄関のドアを開けた。

 

「あっきー、学校行こう!」


 来織はいつもの天子爛漫な笑顔で俺にそういった。というか、学校か。

「今、何時」

「今は八時十五分ですね。というか、その恰好で学校へは行くつもりですか」

 俺のつぶやきに答えてくれたのは織姫だ。彼女も普段のように落ち着いた態度だった。

「フフフ、もしや学校があるのを忘れていたわけではあるまいな」

 織姫の後ろで、格好つけていたのは姫灯だ。

 俺はその様子に心の中で何かに対して構えていたのを勘違いだったのだと知った。彼女たちは昨日のあれくらいで俺から離れることはなかったのだ。構えていた自分が馬鹿のようだ。実際、馬鹿なのかもしれない。

「あっきー、早く学校行く支度しなきゃ!」

 元気よく俺の家に勝手に入っていく来織。それに続いて、他の二人も入っていく。

「はぁ、ほんと一人でビビッて何やってんだか」俺のつぶやきは三人が騒ぐ声で、かき消された。

まだまだ終わりそうもないです。まぁ、長すぎないようにはしたいですが。

続く!

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