ビリヤード対決
ビリヤードの対戦方法はナインボールというルールでやるらしい。ちなみに俺はビリヤードを遊び以外ではしたことはない。つまり、ルールの支配下でしたことはないということだ。だから、白い球を棒で突いて、他の球を落とすことぐらいしか知らない。それは、来織も同じのようで、敵である九々にルールを説明してもらっていた。それを横で聞きながら基本のルールがわかった。
最後に九と数字が書かれた球を台の隅、六つある穴に落とせば勝ちということらしい。それだき聞いた時は簡単じゃないかと思ったが。そんな単調なものではなく、球には一から九番目まであってそれぞれ数字が書いてある。これを一から順番に当てなくてはいけないらしい。さらに、そのときに狙うべき数字以外の数字に当たったり、白い球が穴に落ちてしまった場合は、相手は好きなところに白い球を置ける。それ以外は、服が球に触れてしまったり、二度以上白い球に触れたりなどした場合には相手のターンとなるらしい。それ以外のことはよく覚えていない。意外と細かいルールがあって遊びでなければ俺には出来ない。
「一回目は私の準備運動もかねて、練習ということにしようか」
九々の雰囲気が少し変わった気がする。中二病でもなく、かといって緊張しているのを表に出しているわけでもない。ここは彼女のホームなのかもしれない。
「よし、あっきーが見てるから、負けるわけにはいかないよ!」来織は毎回気合いが入っている。
ビリヤードで最初に打つ人の決め方は白い球(手球というらしい)を二人同時に突いて、帰ってきたその球から自分側にある壁の長さで決まるらしい。今回は九々の方が近い。というか、来織は力任せに突いて、何度か往復して、来織とは反対側の壁にくっついていた。
練習の先攻は九々。最初に手球をキューで突いた。そして、その球は見事に一の数字が書かれた球に当たる。さらに、ひし形に並んでいた他のボールも衝撃を受けて、散らばっていく。彼女は球を入れることはできなかった。
来織のターン。一の球を狙わなくてはいけない。彼女はまた力任せに手球を突いた。狙っているとは思えないほどの力任せ。実際に狙っているわけではなさそうだ。しかし、見事、一と書かれた球に当てる。それは力任せだったからよかったのか。他の球もその衝撃に巻き込んでいく。カン、カンと球がぶつかる音が何度もなっている。球の動きが収まってきたとき、あれだけ動いたのだから、一球ぐらいは入っているかとお思ったが、全ての球が残っていた。
「力が入りすぎてる。それだとポケットに入らず帰ってくる。優しく、それでいて、強く打つの」
来織は加減が苦手だ。卓球でしか加減を知らない。それに初めてビリヤードをすると言っていたからなおさらできないに違いない。卓球だって何年かやって、やっと加減を覚え始めたのに。いくら九々が力加減の助言をしても来織の力加減は直らないだろう。
二回目の九々の突き。球は不利な位置にある。手球と一の球の間には二と八の球がある。俺はこういう時はわざと外して、次の番を待つ。しかし、彼女は余裕な顔をして、かんという音を立てて、手球を突いた。台の壁にぶつかって、手球は一の球にぶつかって、そのままそれは穴に落ちる。俺は彼女を少し見くびっていたのかもしれない。ビリヤードをやると言い出したのは、格好いいからだとばかり思っていた。だが、このショットを見る限り、一朝一夕で身に着くものとは思えない。
今回も来織は負けるかもしれない。
それから、九々のペースで練習の試合が進んでいく。来織はなんとか力加減をしているようだが、それはうまくいかず、ポケットに入りそうにはなるが、力が入りすぎて、手球が落ちたり、球が跳ね返ったりして随分と苦戦を強いられている。
結局、勝ったのは九々姫灯。最後は球が五個もあるというのに五の球で九を落としていた。来織はも驚いているようだ。
「辺泥君。私は負けないから。勝ったら一緒に居るからね」
三重人格か、この人は。
本番の試合。また練習の時のように、手球を二人同時に突く。今回は運がいいのか、来織の方がクッションに近かった。
先攻は来織。来織はひし形の先にある一の球に思いっきり手球をぶつけた。散り散りになる球たち。今回はその力のおかげで、一つ球が入った。台の上には六がない。落としたからもう一度、来織の番。来織は調子に乗ってまた思いっきり手球を突いた。他の球が盛んに動く。しかし、一球も入らない。
九々の順番。キューを綺麗に構えて、手球を突いた。それはもちろん二の球に向かっている。そして、二の球がポケットに吸い込まれていく。俺は驚いて、隣にいた灯勇を見た。彼女も驚いているようだ。その理由は入るはずのない場所に二の球があったから。それを九々は簡単そうに入れた。
「そんな不思議なことではないわ。スピンをかけて撞いただけ」
そんなこと言われても、全くわからない。スピンをかけることでこんなことになるのか。彼女は余裕そうに口元をニヤつかせた。
「次でゲームは終わりにする」彼女はそう宣言した。
球を入れたので、再び彼女の番。九の球は手球と対角の場所にある。角のポケットの近くではあるが、なかなかいれづらいと思えるような場所。それに三の球に当ててからでないと球には当てられない。その三は九の球の対称の位置。これを入れるには三に当ててから、九の方に直角にカーブするぐらいしか方法がおみ浮かばない。それにそれは物理的に無理だろう。しかし、彼女は余裕の雰囲気を放っている。
「行くわ」
そういった次の瞬間、キューを球の上を突くのか、縦に構えた。そして、それを何度か上下させ、最後に振り下ろした。球は三に向かって、走っていく。三と手球の間には何もないので簡単に当てられるだろう。しかし、三に当たった瞬間、手球は変な軌道を描いていた。なんと、九に吸い寄せられるかのように、走っていく。そして、それは九の球をポケットに突き落とした。手球はそこで止まる。まるで、落ちていった九を惜しむようにして。
「マッセ。それがこの技の名前」
それで試合は終了。来織は足元にも及ばなかった。




