彼女の部活
「あっくんのハーレムは見るたびに進化している気がするな。今日も大変そうだ」
俺が机に着くなり、そう声をかけてきたのは富勇だ。いつのもにやけた顔をして、近づいてくる。
「そう思うなら、いちいち構うなよ」できるだけ不機嫌を装ってみたが、効果はないらしい。
「そうは言っても、あっくんはこの学年では有名人だ。俺が構わなくても誰かがあっくんを構う」
そうか、それは当たり前のことなのかもしれない。アニメや漫画、ゲームのどれをとっても女性が周りにいる奴は学校では有名人になっている。俺もその仲間入りを果たしたわけだ。全く望んだわけではないのだが。
「それで今回はどんな人なんだ」彼は俺の顔に近づいてくる。
「あー、ちょっと中二病な感じだな。名前は九々(くく)姫灯だ」
「へぇ、中二病か。面白いな。なんというかキャラが被らないというか。キャラがみんな濃いといった方が正しいか」
「そうだな。方向性がみんな違う。まぁ、当たり前だとは思うが」
それから午前の授業を終えて、昼休みを来織、織姫、灯勇、俺の四人で取って、昼休みを終えた。この時間、九々は来なかった。もしかしたら、ビリヤードの練習をしているのかもしれない。
そして、放課後。彼女は自分から俺の教室にやってきた。すでに来織、織姫、灯勇はこの教室にいる。
「ビリヤードでの勝負だったよね。早くやりに行こう。ビリヤードがあるのは近くのゲーセンの奥のところだったよね」
来織がそういうが、九々は不思議そうな顔をしていてた。そんなところまで行くのかと問うているようでもある。
「そんな遠くまで行かなくても、近くにあるのだよ」今は緊張しているらしい。
近くにある? ビリヤード台が、か。そんなところ聞いたことがない。
「近くにあるのか。じゃあ、早く案内してくれ」
偉そうに言っているが戦うのは俺ではない。
彼女が案内してくれたのは、学校の一画。そこには教室が並んでいた。文化部が勝手に占拠しているという場所だ。特に公にしたくないとか、公式に認められていない部活とも呼べない人の集まりが占拠しているという噂だ。俺は怖いので来たことはなかった。
「まさか、公にできない部活の中にあるのか」俺の言葉に彼女が頷いた。
「娯楽倶楽部という集まりがあるのだが、そこには娯楽と呼ばれるものが置いてある。彼らはビリヤードを娯楽として嗜んでいるから、それがそこにあるのだ」
彼女はさらに少し進んで、ある教室の前に立った。そこが娯楽倶楽部とかいう人の集まりがある場所なのだろう。彼女は三度、間を空けて三度、さらに空けて二度ノックした。すると中から人の動く気配がした。娯楽倶楽部の人なのだろう。扉が開き、そこにいたのは、若いけれども貫禄のある燕尾服を着ている男がいた。まるで執事のような風貌だ。
「これは姫様。今日は友人も一緒なのですね」声はその見た目通り若い。
「ええ、その、この人達とビリヤードをするの」彼女は素に戻っている。それは緊張しない証で信頼しているのだろう。
彼女は振り返って、俺たちの方を見た。それから、彼を紹介してくれた。
「この人は私のお世話をしてくれている北勇郎だ」
「お嬢様がお世話になっております。ご紹介に預かりました北勇郎でございます」
「ちなみに私は本当にお嬢様なわけではない」
まぁ、お嬢様に中二病は似合わないな。
「彼が執事をやってみたいと言い出してな。それで私にお嬢様役をやってくれないかと頼んできたのだ。断る理由というかなりたい理由の方が大きかった。私もお嬢様というやつを体験してみたかったのだよ」
中二病でも乙女なんだな。
「それでビリヤードはどこ」しびれを切らしたのか、来織が先をせかした。
娯楽倶楽部は非公式ながらも少しは歴史のある場所らしい。二十年だか三十年だか続いているようだ。中は教室二、三個分の広さがある。そこは綺麗に掃除してあり、埃が舞うのを許さないかのようだ。ちなみに、彼の燕尾服は演劇部から調達してきたらしい。ビリヤード台は部屋の真ん中に置かれていた。
「広い」
「そうですね。こんな部活があったなんて知りませんでした。それも非公式なのにこの広さなんて」
「はい。これがキュー」九々はビリヤードで使う棒を持っていた。
「きゅーっていうんだ、これ。じゃ、始めよう」
続く




