new challenger!
「あっきー、一緒に帰ろー」
帰りのホームルームが終わってすぐに来織が俺の教室の前に来ていた。その後ろには織姫、灯勇の姿もある。俺はすぐに席を立って、鞄を肩にかけて、教室を後にした。
三人は俺を取り囲むように歩く。それは誰が隣とかそういう陣形ではなく、全員が隣。そんな風な位置取りだ。
「あき、家の近くまで送ってくれる?」灯勇がそんな風なことを訊いてきた。
「あー、まぁ、いいか。いいよ、送っていく」
来織がいるのにも関わらず、俺は他の女子を送っていく。それはいいことではないのかもしれない。しかし、不安そうな彼女の顔を見ると、断ることはできない。
「あっきー、ちゃんと送るんだよ。送るだけだからね」そう言う来織の顔は少し怖かった。
「来織、そろそろ行かないといけません。買い物、するのでしょう」
「買い物?」何の買い物なのだろうか。
「うん。あっきーの家の食べ物少なくなってきてるから。私たちが勝手に使っているから、私たちで買ってこようって話になってるんだよ」
なんだ、そんなこと話していたのか。
「買い物なら俺も行くぞ。荷物持ちぐらいにはなる」
「いいの。それに灯勇を送っていくんでしょ。仕方ないよ」
「灯勇はいかないのか」灯勇に振り返ってそう問うた。
「今日は行けない」
「そういうこと。それじゃまたね」その言葉が合言葉であるかのように来織と織姫は走って遠ざかって行く。
その光景を少しの間眺めていた。
「よし。それじゃ行くか。とはいっても帰るだけなんだけどな」
「それでいい。私も二人と同じ。一緒に居られるだけで、幸せ」
自分の顔が熱くなる。多分、頬が赤いはずだ。ストレートな感情表現に弱い俺でした。
住宅街を歩く。家の他には公園ぐらいしか見当たらない。その公園も頻繁に見かけるわけではないから、結局は住宅しかないような道。俺たちの間には沈黙があった。それは別に気まずいというものではなく、だからと言って、嬉しいものでもない。灯勇と会ってから、まだ一週間も経っていないが、なんとなく無口なイメージがある。いや、他の二人がよく喋るだけかもしれないが。しかし、あまり喋らない分といっていいのか、考えていることとか感情がよく顔や行動に出る。寡黙というのは理知的なイメージのある俺からすれば、彼女には寡黙という言葉は似合わない。目での合図をアイコンタクトというなら、さしずめ、フェイスコンタクトといったところか。一方的ではあるが。
「ねぇ、あき」彼女はなぜか小声で話しかけてきた。
「どうした」俺も彼女に合わせて小声で話す。
「誰かが、私たちを付けてきてる。誰かはわからないけど」目線で後ろを指していた。
そこには確かに人がいた。電信柱の後ろに誰かが隠れたつもりで、こちらの様子を窺っていた。全身が見えているわけではなく、服のすそなど一部が見えていた。尾行は下手なようである。
相手のことはいいのだが、灯勇は大丈夫だろうか。富勇の話ではストーカー被害に遭っているという話だ。彼女の顔を見ると、特に顔が青ざめているとかそういうことはない。というよりも楽しそうだ。俺は立ち入ってはいけないとは思いながらもそのことを訊いた。
「灯勇はストーカー被害に遭って聞いたんだが、大丈夫か」
「大丈夫。そのときも私自身で撃退した」そう言いながら、少し不安そうな顔になっていた。
撃退したとはいっても、つけられるのはいい気分ではないのだ。怖かった時もあったのだろう。
どうやら今回も撃退する方向らしい。ひっそりと近づいていくのかと思ったがそうでなかった。
「出てこい。私の後をつけるな」電信柱の後ろにいる奴に向かってそう言った。
その声を受けて、そこから人が出てきた。その人は俺たちと同じ学校の制服を着ていた。背は少し低めで、顔は幼い少女のようだ。髪は腰のあたりまで伸びている。何故かな、いやな予感が俺の頭をよぎった。
「ふっふっふ、私の尾行を見破るとは力のある人間じゃないか」その声はそのセリフには似合わないほどに高い声だった。叫んだら窓ガラスが割れるに違いない。
「「……」」
その場には沈黙が下りていた。誰だとか、なんの用だとか、そんなことは考えることすらなかった。圧倒されていた。本当の中二病に会うとこうなるのか、とそういう気分だった。おそらく隣にいる彼女も。
「どうした。あまりの魔力量に圧倒されているのだな。無理もない。私はUGではディーグレステマヒトと呼ばれるものだ。ふふふ、辺泥在来あなたを付けていた。その魔力量は危険だ」
ゆーじー? 服屋か。
「服屋ではない。毎回聞かれるから言うがアンダーグラウンドの略だ」
そう言われても意味が分からない。地下がなんだっていうんだ。
「UGというのはこの世界の裏の世界。そこでは科学ではなく魔学というものが優れた世界だ。この世界で言うなら、魔法や魔術の優れている場所ということになる」
「つまり、あきのことをつけていた?」隣にいた灯勇が口を開いた。
ちなみに俺は今まで一回も声を出してすらいない。どうやら俺の周りの人は俺の心が読めるらしい。
「そう。それが今回の任務。いや、ミッション。そう、ミッションだ!」びしぃと漫画なら効果音が付きそうなほど綺麗な指さしだった。
そんなとき灯勇が俺の方を見た。それからこう言った。
「あき、帰ろう」
続く




