在る日常
翌日の朝、そこには慣れたように三人がリビングにいた。キッチンで作業する来織、その隣で手伝いをする織姫。さらに料理はできないと言っていた灯勇は二人の作業を眺めていた。まるで喧嘩なんてなかったかのように。いや、違うか。喧嘩があったからこそ前よりも仲良くなっているように見える。それは彼女たちにとっていいことなのだろう。日常に戻ったのはいいのだが、俺の悩みはまた復活しているということになる。それでも俺の気分は高揚していた。この三人がいることが嬉しい。三人そろっていることが幸せなことに思える。まるで最初とは違った思い。多分俺は来織だけではなく他の三人も好きになり始めている。
「おはよう、あっきー」
「おはようございます。あきくん」
「おはよう、あき」
三人は俺が起きてきたのがわかると挨拶をしてきた。俺はそれにいつものように少し迷惑そうに返す。それでも三人は笑顔だった。何が嬉しいのか。
三人で朝食を取った後、俺の支度の間、少しだけ待たせてしまってから、家を出た。今日も玄関は開いていた。これで一週間以上鍵を閉めるのを忘れている母親に注意をしなくてはならないな。そう思いながら女子三人を連れて学校へと移動する。
登校中、俺には容赦ない視線が浴びせられていたことは言うまでもないことだろう。
「三人も女子をお連れになるとは、大富豪ですかね」朝から富勇がニヤついた顔でそう言ってきた。
むかついたので、無視しておこう。それが最善。
「悪かったよ。調子に乗った。許してくれ」
「はぁ。ほんと、大変だったんだからな。まぁ、その、富勇の助言があったからというのもあるしな。とりあえず、ありがとな」本人を目の前にして礼を言うのは恥ずかしかった。
「礼なんていいさ。それよりも仲直りできたんだろ。よかったな」
普段はふざけたやつなのだが、こういう時は真剣に俺のことを心配していくれていたのだと伝わる。今度何か奢ってやるべきだろうな。
午前の授業を終えて、昼休み。来織が俺に手を振っていた。その後ろには織姫と灯勇がいた。また元の日常に戻ったという実感が今頃になってしっかりと出てきた気がする。女子三人に囲まれているのが日常化しているのも問題な気はするが。
今日の昼食は屋上で取ることになったので、その場所まで移動してきた。空は相変わらず晴れていて、昨日とは変わらない。それでも何か違う気がした。
「あきくん、空に何かありましたか」
「いや、青い雲と白い空しかない」
「あき、それは逆。そんなベタな間違いは笑えない」厳しい突っ込みが灯勇から入る。
それから来織と織姫が作ってくれた弁当を開ける。今日は二段の重箱のような箱だ。
「四人それぞれの弁当を作るのは正直面倒くさいので、どうせなら重箱にしてピクニック気分にしてみましたぁ」そう言って来織は弁当の箱を開けた。
中は本当にピクニックで食べるような料理だった。おにぎりがメインで、おかずはから揚げに卵焼き、大学芋にたこさんウィンナー。それ以外にも食欲をそそるような見た目の料理が綺麗に並べられていた。それを一つずつ食べていく。多分、それぞれ来織が担当したものと織姫が担当したものがあって、俺が食べるのを二人は何か期待したような視線で見ていた。
「どれもうまいな。おにぎりの具もいろいろあって楽しめるし」何様のつもりだ、俺。
そう思ったが二人はそれを気にすることなく楽しそうに食べ始めた。ちなみに灯勇は俺と同時に食べ始めていて、とても幸せそうにしている。
昼食も取り終わってそろそろ教室に戻ろうという話になった。それから出ようと思ったところに、灯勇が俺の服の袖を引っ張った。
「どうした、灯勇。何かあったのか」
「……あき、今日は一緒に帰ってほしい。もちろん二人も一緒に」
来織と織姫は先に戻っているので二人には聞こえていない。
「改まってどうしたんだ。何かあったのか」俺は灯勇の方に体を向ける。
「だって、今は私には理由がないから。昨日までは私と戦うためにだったり、織姫と仲直りするためだったり。でも今は何もない。でも、二人にはある。そういう理由が。幼馴染だから。会っていない時間を今で埋めるため。あきと一緒に居る理由がある」彼女は俯いていた。
「……何言ってんだか。二人はそんなこと考えてもいないだろ。俺自身が言うと変だけど、二人は俺のことが好きだから一緒に居るだけと思うぞ。別に理由とか考えてやしないさ。だから、もし俺の事……いや、俺たちの事が好きなら一緒に帰るだけじゃなくて、一緒に居ればいい。そういうもんだろ、人とのつながりって」
「……うん、わかった。それなら、私もあき達と帰る」
顔を上げた彼女は今までよりも楽しそうな笑顔だった。
続く