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糖度100パーセント  作者: リクルート
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織姫様、捜索作戦

翌日、日曜日。俺は家にいた。俺だけではなく、来織(こおり)灯勇(ともよ)もここにいる。理由は一つ。織姫の事だ。彼女の昨日の決心を聞いてから、これが本当に彼女の為になるのか、それを疑問に思っているに違いない。俺もそうだ。


 誰も口を開かない。まるで家に誰もいないかのような静けさだ。二人もこれからどうするかを考えているのだろう。放っておいてと言われたのだから、俺たちが気にすることではないのかもしれない。しかし、頭ではわかっている。これ以上のおせっかいは友達として、明らかに彼女の事情に立ち入りすぎている。もはやそれはこちらのわがままにしかならない。

「ねぇ、織姫さ、私たちと居たいって、言ってたよね」

 唐突に来織が言った。それがという視線を俺は送る。彼女はそう言ったが、覚悟はできているのだから俺らではどうしようもないのではないか。

「それってさ。やっぱり、私たちと居たいんだよね」

 彼女が何を言っているのかわからない。同じことを言っているだけではないか。

「私にもわかんない。でも、助けなきゃって思う。もう一度だけやってみない?」

 多分、ここで俺がやめようと言えば彼女はそれに従うだろう。だから、俺は。

「わかった。最後のチャンスにしよう。今から作戦もなんもなく彼女のところに行く」

 その言葉は俺にとっては彼女たちの意表を突いたものだと思っていた。しかし、彼女たちは元気に頷いていた。なんだ、俺の心はバレバレか。


 今日の予定が決まった俺たちの行動は早かったように思える。さすがに作戦なしとは言っても、織姫の場所がわからないことには探しようがないのである程度の目途を付ける。彼女が行きそうな場所に寄っていく、そんな穴だらけの、作戦とも呼べないようなもの。それでも、俺たちはその作戦を実行した。


 まずは昨日のお見合いをしていた場所から除く。もしかしたら昨日の埋め合わせをここでしているかと思ったから。しかし、彼女はそこにはいない。当たり前か、事件の起こった場所でもう一度なんてここはありえないか。


 次はデパート。近くにある生活用品は何でもそろう場所。ここなら来ている可能性は大いにある。ただ広いので例の来織は作った無線通信のイヤホンのようなものをつけて捜索を開始した。三階建てなのでそれぞれ一階、二階、三階とばらけて探す。しばらく探したが、彼女らしい人影は見つからない。すれ違っている可能性はある。どうやっても視界に入らない場所はあるし、俺たちには限界がある。

「どうだ。見つかったか」大方探し終わったので二人に通信を送る。

 しかし、答えはノーだった。

 一度、三人で集合してから、次は公園だ。この辺りは公園と言えば一つしかないので、そこに向かった。


 公園はそんなに広くないので、簡単に見渡せるだけ結果がすぐにわかってしまった。ここに彼女はいない。日も落ちてきているし、二人を暗くなる前に家に帰したいので次が最後だろう。最後の場所はどうするか。

「ねぇ、あっきー。学校に行ってみない。近くだし、漫画では大体学校にいるのがセオリーだよ」

 また漫画かとは思ったが他に行く当てがない。もう来織にかけるしかない。


 俺たちは学校に来た。生徒は部活をやっている人ぐらいしか見かけない。それももうすぐ終わるのだろう。

「デパートの時と同じく、一人一階ずつね。それじゃ散開!」

 俺は三階を調べることとなったので、急いで教室を見て回る。しかし、誰一人としてそこにはいない。三階か。そういえば屋上がある。つまり四階。誰も調べることはない。俺はなんとなくそこにいる気がしていた。俺も来織のことを笑えないな。


 果たして彼女は屋上にいた。一昨日彼女の意思を聞いた場所で同じようにフェンスに手をかけていた。

「こんな時、こんなところまでくるなんて。あなたたちは本当にばかです。でも、わたくしはなんとなくあなたたちが来るのではないか、そんな気がしていました。まさか、本当に来るとは」

 俺の方を一切向かないでまるでフェンスの向こう側に俺がいるように話していた。

「わたくしは――――」俺は彼女の言葉を遮った。

「なぁ、織姫。もう、いい。『貴族な織姫』はもうやめてくれ」

「そういうわけにはいかないのですよ、辺泥(にべ)様。わたくしの未来は生まれたときから決まっていた。そういうことですよ。あなた方が心配する必要は――――」また、遮る。

「俺は」

 俺は未来は自分で作るものだなんて言う資格はない。そんな漫画みたいなことは言っても薄っぺらいものだ。だから、違う言葉をくれてやる。正直、俺だってこうすれば未来は決定してしまうようなものかもしれない。でも、それは彼女と一緒に居ることができない未来よりも幸せになるはずだ。

「俺は、」意を決する時間はそんなにいらない。

「俺はな、織姫が近くにいないと落ち着かない。織姫と一緒に居て楽しい。嬉しい。織姫のマイペースなところが好きだ。妄想が過ぎるところも好きだ。まだまだ織姫の事は知らないところはたくさんあると思う。でも、俺はそれを知りたいと思う。どんな奴なのか、それを知りたい。そうするには織姫がいないといけないんだよ。だから、俺のそばから離れないでくれ」

 次の言葉は正直、最悪に卑怯だと思う。これは人の心を利用するようなものだ。

「俺のこと好きなら、俺から離れるな!」

 

 沈黙の時間が流れる、織姫は何も言わずに俯いている。何を考えているのか、俺を軽蔑しているかもしれない。卑怯なことはそう思われても仕方ない。俺は彼女の言葉を待った。


 しばらくして、俺は吹っ飛びそうになっていた。まさか彼女にこれほどのパワーがあるとは。

 俺は彼女に抱き着かれていた。それも俺の反応する前に俺の胸の前に来ていたのだから。受け止めるしかあるまい。

「ああ、あきくん。もう、耐えられません。あなたのいない日常など、水のない魚、つまりは死んだようにつまらなくて苦しくて、何度あなたに会いに行こうかと思ったことか。うふふ、ふふふふ。あきくん、あきくん。嬉しいです。嬉しいです」

 そのまましばらく俺は彼女に抱き着かれて、さらに彼女は嬉しがっていた。こんな彼女を見たことはない。誰にも言わないがこれは俺の好きな一面として覚えておこう。

織姫ルート、もう少し続きます。

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