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糖度100パーセント  作者: リクルート
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織姫様、急襲

 彼女から話を聞いて教室に戻ったころには授業は終わっていた。そんなに話した覚えはないのだが。チャイムは聞こえていたがそれ以降はそんなに話したかはわからない。


 それから授業を一時間だけ受けて、すべての授業は終わった。それから来織(こおり)灯勇(ともよ)と会って帰り道。屋上でのことを話した。俺の主観になるから何か勘違いはあるかもしれないが、それでも余すことなく伝えたつもりだ。それを聞いた彼女たちはなんともあっけらかんと言った。

「私たちでお見合いを止めよう。嫌なのに結婚とかありえない!」灯勇が賛同して頷いている。

「それに私たちとは嘘なんて信じられるわけないじゃない!」

「そう。織姫は私たちの本当の友達。私はそう思ってる」


 しかし、水を差すつもりはないが、お見合いをぶっ壊すなんてどうするのか。さらに、その場所はどこかなんてわからない。そのあたりはどうするのか聞いてみたところ。こんな答えが返ってきた。


 まず、場所はこの街ではお見合いと言ったらというような店があるらしい。そこはいろいろな人がそこでお見合いをすると幸せになったので、そういうジンクスができてるらしい。さらに、お見合い当日、つまりは明日は、仕事を体験するということで潜入するらしい。俺は客として入るということだ。それから、俺は織姫(おりひめ)を監視、随時その様子を潜入中の彼女たちに伝える。それからが本番だ。ウェイトレスを装って織姫をさらうというシナリオだ。発案者は来織。漫画みたいでいいじゃんとのこと。現実では成功する気がしないが、何とかやってみるしかない。織姫を救うためだ。ちなみに織姫がお見合い相手と楽しそうにしている場合は中止となる。本当に離れたいというのなら俺たちに彼女を縛る権限などはないのだ。


 織姫のお見合い当日、俺たちの作戦は滞りなく進んでいた。手伝いとして、彼女たちは入ることはできたし、俺もこの店に入ることができた。織姫が見えるポジションだ。彼女はそわそわと落ち着かないようだ。まぁ、お見合いだって言っているのに高校生が落ち着いている方が不自然な気がするが。


 待つこと数分。彼女のお相手がやってきた。織姫がお見合いというのだから同い年ぐらいかと思ったが少し年上のようだ。その風貌は格好いいだろう。しかし、彼の放つ雰囲気があまり良くない感じがする。なんというか悪役のそれというか、そんな感じのだ。それは織姫も察しているとは思うのだが、彼女は逃げることはできないらしい。当たり前か。親が用意したお見合いだ。彼女自身親には迷惑は極力かけたくないのだろう。しかし、彼女の目は不安がっているような気がする。ただ、すぐには助けてやれない。


「どう? 織姫の調子は。それと相手はどんな人」耳に仕込んである通信機から声が聞こえた。

 なんと来織は携帯電話を改造して、イヤホンと無線通信できるようにしていたのだ。いつそんな技術を得たのかはわからないが、今は助かるし、そんなことを訊いている場合ではない。

「相手の人はあんまりいい感じはしない。それに織姫も不安そうに見える」

 感じたままの情報を伝える。俺は今一人なので独り言を言うアブナイ奴に見えてしまうかもしれない。それで追い出されては作戦は失敗だ。それだけは避けたいので小声で話すしかない。

「そっか。じゃ、すぐに作戦を開始するよ!」


 店の奥から二人のウェイトレスが出てくる。俺は作戦前に見たからわかるが二人は、見事に変装していた。化粧の力、すごい。いつもとは違う雰囲気で二人が織姫に近づいていく。しかし、織姫は気づくだろう。彼女らの根本から変わったわけではないからだ。


 二人のウェイトレスが織姫のテーブルに近づいていく。二人が料理をテーブルに出すと、織姫が少しだけ肩をびくつかせた。多分、二人が誰か、気づいた。そのことにはお見合い相手にはばれていなかった。そして、すべての料理を運び終えたところで、霧が出た。

 白い霧が彼女のテーブルの周りから周囲に広がっていく。被害は拡大していく。ちなみに俺は何をしたか、知らない。だから、俺も軽くパニックを起こしかけている。その俺の腕を誰かが引いた。


 白い霧の中から出てきたとき俺の手を握っているのは灯勇だと気づいた。彼女は少し俺の方を向くと空いている方の手でグッと親指を立てていた。顔には少し嬉しそうな表情をしていた。


「はぁ、はぁ。成功、した」やっと止まった彼女は息を切らせてそう告げた。

「はぁ、他の、二人は?」

 彼女は指をさしていた。その方向には二人の姿があった。一人は息もたいして切れていない。もう一人は膝に手をついてはぁはぁ言っている。


「わたくしはこんなこと頼んだ覚えはないです」

 息が整った織姫は俺たちを突き放すようにそう言った。

「織姫が助けよう求めても求めなくても私は勝手にこうするよ。友達が勝手にいなくなるなんて許さないから」来織もそれに対抗するように言葉を放つ。

「わたくしは家の為にこうしているのです。彼には言いましたが、あなたたちとは遊びだったのです。ですから助けられるようなことはないのですよ」

「織姫が私をどう思っていようと私には関係ない。少なくとも私には友達だし、私がそう思ったからこうしているの」

 その言葉に織姫は言葉を詰まらせる。その間に来織がさらに言葉を放った。

「大体、勝手に勝負挑んできて、あっきーのためならと言っていたのに遊びだなんて言えるわけない。だって遊びだったら私と互角なんてありえない。あんな本気な卓球、できないよ!」

 それは彼女にとって(とど)めだったのだろう。彼女は顔を伏せていた。それでも言葉を紡ぐ。

「そうですよ。私だって皆さんと一緒に居たいんです。でも、それは家柄のせいでそうはいかない。それが私の務め。女の私の務めなんです。わかってください。だから、今度は本当にさようなら、です」

 そう言って彼女は去っていった。多分、家に帰ったのだろう。そして、今日の埋め合わせの計画をしなくてはいけないのだろう。


 それでいいのか。俺。


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