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糖度100パーセント  作者: リクルート
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仲直りの方法は

 昼休み。織姫(おりひめ)は教室には入ってこなかった。しかし、来織(こおり)灯勇(ともよ)は来てくれた。二人しかいないがこの二人のことを聞こう。


 二人を連れて中庭に、弁当は来織が作ってきてくれていた。灯勇も来織特製弁当を受けてっていた。それを三人で食べ始める。三人そろって同じような弁当を食べているという不思議な風景。コンビニ弁当などだったらおかしなことはないのだろうが、これは手作り弁当だ。何かおかしな感じがするのは俺だけだろうか。

 それはいいとして、二人の真意を聞かなくてはいけないのだが、一人一人面と向かって話した方がいい。それだと、この昼休みでは聞けないだろう。そう思ったが、あっけなくその話は始まった。


「織姫の事なんだけど。どうしよう」

「仲直り」自信たっぷりに灯勇は言った。

 それはわかっている。来織と織姫を仲直りさせるのはわかってることだ。

「その方法はどうするんだ」

「それは......」

 少し意地の悪い質問だったか。

「悪い。怒ってるとか責めてるわけじゃないんだ」

「ふざけないで。あっきーまで離れたらどうしようもなんだから」

「ああ、悪い」

 空気を悪くしてしまった。せっかく話し合う空気を作ったのに俺は何をしているんだ。仲直りするのに喧嘩腰でどうする。少し落ち着け。彼女たちのことを知るのはいいが焦ってはいけないのかもしれない。だけど、解決は早い方がいいに決まっている。かなり強引かもしれないが、二人の思っていることを聞くべきかもしれない。

「なぁ、二人はさ、このままでいいのか」

「どういうこと」灯勇は少し首を傾げている。

「だから、その、これで織姫が離れていけば二人は俺を独占できるわけだから、このままの方が都合がいいんじゃないかってこと」

 自分の言葉だが吐き気のする言葉だ。もし、ここで頷いても俺は二人からは離れることはできない。


バシンっ!


 何が起こったのか一瞬わからなかった。気づいた時には俺の頬が痛かった。俺の視線を受け止めていたのは来織だった。さらにその隣にいた灯勇も何か言いたげな雰囲気を醸し出している。

「私は謝らないよ。今のはあっきーが言い過ぎだから」彼女は俺を睨んでいた。

 そうか、よかった。叩かれた痛みよりも彼女たちが利益を重視しないでいたことがうれしかった。なぜだかわからないが、うれしかった。

「あき、今のはあなたが悪い。私も来織に賛成」

 わかってるよ。俺は心の中で呟いた。

 それから俺は中庭から出た。もちろん、彼女たちに事情を告げて。

 今度は彼女の話を聞くんだ。彼女の真意を聞くために。


 校舎の中に戻った俺は織姫を探していた。時計は進んでタイムアップは近づいている。チャイムが鳴ったらいったん引き上げなくてはいけない。それまでには見つけなければ。

 一階から探していく。彼女が俺を見ていて、会わないように移動していなければ、いつか見つかるはずだ。教室にはいなかった。次は特別教室の並んでいる廊下。その教室のどこにもいない。次は図書館。そこにもいない。なら、屋上か。


 屋上に続く階段を上って、その扉を開けた。風が吹き込んで、肌をなでる。いつもなら解放感に浸れるが今はそんなことをしている場合ではない。屋上を見渡すとフェンスに手をかけて街を見下ろしている織姫がいた。

「織姫、何、やっているんだ」

「......」

意図的に無視しているのか、聞こえてないのか。それとも朝のことを気にして俺には話しかけてほしくないのか。多分、最後の理由があっている気がする。それでも俺は諦めることはできない。

「なぁ、織姫。どうしたんだ。何かあったなら言ってくれ」

 俺は彼女のいる場所に近づいて、隣に並んだ。

 しばらく、沈黙は続いていた。チャイムの音が聞こえてくる。それでも俺は戻るわけにはいかない。


「わたくしは、結婚することになったのです。明日お見合いがあるんです。ですから、あきくん、いいえ辺泥様のことを好きでいることはできないのです。それだけなんです。二人には謝っていたと伝えてください」

 彼女は唐突にそんなことを言った。その瞳には何を映しているかはわからない。だけど、何故かそういう彼女は苦しそうで、寂しそうな雰囲気を持っていた。

「これであなたたちとの関係も終わりです。中々楽しかったですよ」

 そう言って彼女はフェンスから離れて、屋上の扉に向かう。しかし、彼女は動きを止めた。なぜなら俺が腕を引いたから。

「それでいいのか。いいはずないよな。そんな苦しそうに、寂しそうにそんなこと言っても説得力がないんだよ。それにな、あの二人はどんな理由があろうと織姫を取り戻そうとするぞ。もちろん俺も二人に加担する。そんな思いがあるのに、結婚なんてさせるか!」

 何を言っているんだろうか。何を熱くなっているんだろうか。だけど、言わなかったら後悔する。彼女を手放してはいけない。そんな心が胸の内にあった。

「そんな、そうはいっても、もう決まっているんですよ。わたくしは貴族の生まれ。これは仕方のないことなんです。わかっていたことなんです。それでもわたくしは一瞬でも青春というのを体験してみたくて、漫画のようなそんな恋愛に憧れていて。だから、別にあなたでなくてもよかったんですよ。廊下の角でたまたまぶつかったから、あなたをわたくしの遊びに付き合ってもらっていたのです」

 彼女は冷静な口調でそんなことを言った。

「それが本心なんだな。後悔はしないんだな。それで、いいんだな。俺と遊びで付き合って、あの二人ともままごとのような偽の友情を作っていたんだな」

 我ながら最悪だ。胸糞悪いというのはこういうことを言うんだな。憎まれ役を買ってでも本心を聞き出してやる。

「そうです。わたくしはそういう人間なんです。幻滅したでしょう軽蔑したでしょう! それが私なんです!」

 そう叫んで彼女は屋上から出ていった。


 俺は考えていた。彼女の違和感を。いつもと違う一人称。それが彼女の本当なのか。それに勘違いかもしれないが目には涙を浮かべていた気がする。 

続く

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