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糖度100パーセント  作者: リクルート
10/70

なやみはじめ

灯勇が仲間になりました

 灯勇(ともよ)との一件を終えて、家に帰ってきたところ。精神的に疲れる毎日を送っているが不思議と嫌な感じはしない。いや、不思議ではないか。本当はわかっている。好意を抱かれているからに違いない。男というのはなんとも傲慢な生き物で女性を一人だけ好きになったと言ってもいつかはそのことを忘れ、新たな人を探す。それは子孫を残さなければいけないという生物としての当たり前なのかもしれないが。それは俺も例外ではないだろう。だって、最初は来織だけを好きでいたはずが、好きと言ってくれたあの二人も好きになりかけている。多分、これは来織のせいではない。


 地震だ。戸棚が倒れ、皿が割れて破片が散乱する。本棚からは本がバラバラと落ちている。でも、俺は何もできない。あたりを見回すとそこには彼女たちがいた。来織(こおり)織姫(おりひめ)、灯勇。三人は不安げにこっちを見ている。後ろには棚。今にも倒れてきそうな、いや、ゆっくりと、まるで俺に彼女たちがいなくなるのを告げるかのように倒れている。俺は手の先すらも動かせない。待ってくれ!


バッッ! ゴツ


 鈍い音と共に目が覚めた。何か悪い夢を見ていた気がするのだが内容は思いだせない。というか。ゴツっていったよな。痛い頭を押さえて、視線を動かす。そこには女子が倒れていた。知ってる女子だ。というか昨日会った。彼女は灯勇だった。


 何か嫌な予感がするが訊くしかない。

「何、やってるの」

「私が起こしにきた」

 まぁ、そうだろう。それしかない。ということは、他の二人もキッチンで朝食を作っているのだろう。

 彼女は俺の腕を取って、強引に俺を部屋から出して、二人がいるであろうキッチンの方に向かっていく。


「おはよー。あっきー」

「おはようございます、あきくん」

 対照的な挨拶をする二人。今日も朝から俺の家集合らしい。なんというかまだ一週間も経っていないが、この状況に慣れている自分が恐ろしい。このまま人が増えれば俺の家が大変なことになるな。まぁ、さすがにもう増えることはないだろうけど。だって、四人も俺のこと好きとかないでしょ。俺は別に目立つような人間じゃない。


「ああ、そうだ。顔、洗ってくるから。ついでに着替えもな」

 その言葉に彼女たちは頷いていた。キッチンからは料理の匂いがしていて、腹も空いてきた。俺はさっき言ったことを手早く実行して、また彼女たちのいる場所に向かった。


 その場所に戻ると、テーブルには料理が並べられていた。俺以外の三人はすでに椅子で談笑をしていた。そこに俺が行くと彼女たちは俺に気づいて、食べようと問いかけてくる。それを拒否することはない。俺も席について手を合わせて食べ始めた。それを合図にしたように他の三人も食べ始める。

「俺の事待ってなくても先に食べてていいのに」

「それはできません」織姫が珍しく険しい顔をしていった。

「少なくともわたくしはあきくんと朝食を取りたいから、こうして毎日来ているのです。それをそんな風に言われては悲しいです」

「そ、そうか。それは悪かったよ。ごめんな」

 そうだよな。こうして毎日来てくれているのに今のは無神経な言葉だった。彼女たちの気持ちも考えなくては。

 

 ん? 本当にそうなのか。少し前までは来織が良ければよかったじゃないか。なんで織姫のことを気にするんだ、俺は。来織が、来織だけが彼女なのではないのか。少なくともほんの少し前までは来織一筋だったはずなのに。来織と付き合ってまだ一週間も経っていない。なのに、俺はもう気持ちが揺らいでいるのか。正直、自分の気持ちもわからない。なんとなく、なし崩し的にこうなってしまったが本当にこれでいいのだろうか。


「どうしたの」

 俺の顔を覗き込んでいたのは灯勇だった。

「何か、悩み?」

 基本的にはあまり喋ろうとしない人だが、彼女なりに俺の身を案じているらしい。言葉こそ少ないが、顔には出ている。多分、こういうのを顔に書いてあるというんだろうな。

「いや、何でもない。大丈夫だから」

 彼女に微笑みかけるように笑って返事をした。それに彼女は頬を赤く染めていた。


 朝食を食べ終えて、洗い物も終わった後、その皿を俺と灯勇で洗った。どうやら彼女は料理は苦手らしい。彼女自身、歌しか歌えないと言っていた具合である。そうは言いつつもしっかり洗い物をしてくれていた。それから俺たちは、学校へと向かった。

さらに人は増えるのか

次回に続く

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