序章
15歳の男っていうのは、普通、なにをしているものなんだろうか?
勉強だろうか。スポーツだろうか。それとも、恋愛だろうか。
俺も15歳の健康な男子だけど、今は真っ黒な鎧を着て、顔も黒い兜で隠して、ギザギザのノコギリ刃がついた大きな剣を振りかぶって、敵と向かい合っている。
普通の15歳なら、いや、普通の15歳じゃなくても、こんなことはしない。
もしも、俺が英雄物語に出てくる主人公なら、悪い魔王を倒して、お姫様を救い出して、それでハッピーエンドのはずなんだけれども。
あいにく、俺はヒーローなんかじゃなくて、中学校を卒業したばかりの、ただのガキだった。
鎧に覆われた関節が、ギシギシと痛む。
痛い。
身につけている鎧はどこもかしこも傷だらけで、無事な場所なんて一つもない。
痛みでふらついている俺の姿を見て、目の前にいる敵は勝利を確信したのか、冷たく笑った。
笑ったって言っても、口の端がつり上がったわけじゃない。
俺と斬り合いをしている相手も、俺と同じように全身を、紫の鎧兜で覆っていたから。
でも、わかる。
兜は表情を隠してしまうけれども、敵が手に持った剣は表情を表している。
ボロボロになって死にかけている俺は、敵に嘲笑われていた。
幾度となく切り刻まれ、崩れる寸前になった俺の体。
ついに、砕けかけた膝が体重を支えきれなくなって、俺は床に片膝を着いた。
「これ以上は無駄だ」
冷たい笑みを浮かべたままで、敵はそう言った。
俺も、そう思う。
体中、傷だらけだった。
対して、敵には傷の一つもついちゃいない。
勝ち目はすでになくなった。
だが、剣はまだ俺の手の中にあって、俺はそれを離すわけにはいかなかった。
剣を杖の代わりにして、砕けた膝から送られてくる激しい痛覚を無視して、俺は立ち上がる。
「死ぬつもりか」
死ぬだろうな。
そう思った。
敵は強い。俺なんかよりも、ずっと強い。それは間違いない。
それでも、俺には戦わなければならない理由があった。
つるぎ太刀 いよいよ研ぐべし いにしえの
清く背負いて 来しその故ぞ
頭に浮かんだのは、昔、教わった歌。
子供の頃、何度も口ずさんだ歌。