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星がまばたく空の下で  作者: 朝霧れい
第一章 占い師認定試験の来訪者
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第一話:青年との出会い

 星生養成学校は都会とは離れ、深い森の中にそこにあった。飛行機で少し窓を覗いてみたが全部木ばかりだった。その森の奥に広い建物が建っていた。それが、星生養成学校である。

「うわぁー。結構大きいー」

 通知書と共に学校案内も送られてきたので何度も見ていたが、改めて見ると今までの学校よりも大きいのが間近で分かる。

 校門には確かに『星生養成学校』と書かれている。そして、制服を着た生徒たちがどんどん中に入っていく。香苗はしどろもどろしながら、彼らの後を追う形で校門を抜けた。

 教室にたどり着くと、クラスメイトが多数集まっていた。男女共学らしく、占い師という職業柄、文化系な人が多く、所謂スポーツタイプな人は見かけなかった。

 やがて、担任らしき人物がやってきた。

「新入生の皆さん、ようこそ星生養成学校へ。ここは占い師になるための学校です。多分いないとは思いますが間違って入ったっていう人はいらっしゃいますか?」

 先生がそう言いながら生徒の様子を見る。それに生徒が小さくクスクスと笑う。生徒たちの緊張を解すためのトークだったのかもしれない。

「では、占い師になるために授業をこれからやっていくわけですが、始める前にある掟があります」

 そう言って、黒板にある白チョークを手に取り、書き出す。それを緊張しながら見守る。

 書き終えると読み上げた。

「まず一つ。ご両親や以前繋がっていた友人関係、恋人など故郷を全て忘れること」

 ざわつく教室。だが、先生が机に一つ叩くと途端に静かになる。そして続けた。

「その二つ目、占いにおいて嘘をつかない。三つ目、人間の生死については絶対に占ってはいけません。四つ目、異性と恋沙汰をしてはいけません。……そして最後、感情は全て捨てること」

「……」

 ざっと読み上げた内容はあまりにも唐突で何も感想が出てこなかった。

 これではまるでロボットのようじゃないか。香苗はそう思いながらも先生を見る。

「占い師にとって感情をコントロールできなくては困る。ヘラヘラ笑っている奴は笑わないこと、そして逆に普段笑わない奴は笑うようにコントロールできるようにしておくこと。いざというとき、心を読まれたら話にならない」

 先生――矢星(やぼし)トーコが厳しく説明した。それに納得する生徒や納得していない生徒、両方にいるが香苗はじっと説明を聞いていた。

「そして、実習は各一人に先生が持つ。誰の先生に当たるかはその日に分かる」

 つまり、授業以外の実践では先生直々に教えられるということだ。

(叔母さんみたいな優しい人だったらいいのにな)

 既に祖母のことを思い出そうとする。

(叔母さん、見ててね。私、叔母さんみたいに――ううん、叔母さん以上の占い師になって帰ってくるから!)

「では、各担当の先生が迎えに来ると思うのでしばらく待つように」

 トーコがそう言うと、こちらに近づいてきた。

「草壁香苗は君のことかな?」

「え! はい、そうです!」

 突然名前を呼ばれ思わず椅子から立ち上がって返事をしてしまう。

 ガチガチと固まった様子を見て小さく笑いながら言う。

「そんなに固くならなくてもいいって。草壁の担当は私だ。さっきも紹介したが、矢星トーコだ。よろしく」

 そう言って小さくウインクをしてみせる。それにしどろもどろになりながらも、よろしくお願いします、と軽く頭を下げた。

 見た目優しそうだが厳しそうでもあった。少し不安はあるが不安がっていても先に進まない。前向きに考えるように思考を変えた。

 それから一ヶ月の間、トーコの言う課題をこなしていく。

 そして最後の試練が待っていた。その試練がクリアできれば占い師に認定される。これまで何度諦めようかと思ったが、叔母の言葉、両親の顔を思い出すと困難を乗り越えた。やっと最終試練まで上りつめることができた。

「よくここまでこれたな! つぎの試練さえできたら占い師認定されるぞ!」

「これもトーコ先生の教えがあってのことです」

「よせやい。照れるだろー」

 トーコはそう言いながらも弟子から言われると嬉しいのかニコニコ笑っていた。

 トーコと関わって分かったことは、口調は男子とそう変わりない、ボーイッシュな性格をしている。だからといって女性の部分もある、クールな人だった。

「今日はここまでにしようか。明日、試練の内容を発表する」

「はい。ありがとうございました」

 軽くお辞儀すると香苗は本を持って外に出た。

 外は木々がたくさんある。生まれ育ったところと比べて店もないし、遊べるようなところもない。ただ木や川といった自然に囲まれている。そして空気がとてもおいしい。

 不便なことはたくさんあるが、その分慣れれば不便と思わなくなっていた。全て自給自足の生活だった。

「晩ご飯はどうしようかな」

 少し早めに終わったので遠くの町まで歩いて行こうか。

 たまには店が売っているものを食べたい。そうと決まれば寮に帰り、身支度を整え、買い物カゴを持って出かけた。

 隣町まで歩かなくてはいけないのだが、余った時間はこうやって長距離を歩くようにしている。占い師の勉強が中心なため、運動することが極端に減っているためだ。

 買物を済ませ、寮に帰ろうと踵を返す。

 森の中に入ると、外は夕暮れで沈みかけた陽射しが少し眩しい。風も出てきており、早めに寮に帰る方がいいなと判断して、少し足を速める。

 森の中を歩いていると、物音が聞こえた。

 驚いて歩みを止めてみる。気味が悪いなと思いながら当たりを見渡す。

 また物音がした。どうやら草の音らしい。香苗は生唾を飲み込み、草の音がした方へ恐る恐る歩み寄る。するとそこに、人が倒れていた。

(人が、倒れてる……!)

 買い物カゴを思わず放り出して倒れている人物に近づく。

 強く頭を打ったのか、小さく呻いており、体に少し砂ほこりがかぶっていた。足には少し眺めの枝が置かれていた。

 何となく状況はつかめた。この人はこの枝に足が引っかかって後ろに倒れ、頭を強く打ったらしい。草の音はその時の衝動で鳴ったのだろう。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」

 香苗は肩を貸して、ゆっくり体を起こしてやる。

 人物は男性だった。黒いローブに包まれて体格は分からないが、そんなに図体でかいという印象ではない。顔は整っており、亜麻色の短髪が印象に残る。

(か、かっこいい……)

 香苗は男性の顔を見るなり見惚れてしまう。これは誰が見ても格好いいと思う。それくらい香苗の心が高鳴った。

「大丈夫だ。少し、躓いてしまって」

「危ないですよ。特にこの時間、暗くなると周りは真っ暗になりますから、気をつけてください」

「ああ、ありがとう」

 もう大丈夫だ、と言って男は体を起こした。ローブについた砂ほこりを軽く叩いた。

「少し、尋ねたいことがあるんだが……」

「はい?」

「星生養成学校はどこにあるか分かるか?」

「ああ、それなら近くまで用事があるので一緒に行きましょうか?」

 少しでも話がしたい。そう思って言った。それを除いても、学校の近くに寮があるため、あながち嘘ではない。

 すると、少し安心したように男性はそれじゃ頼む、と言って香苗の後をついて行った。

「あの、学校に入学するんですか?」

「いや、そうじゃないんだが、そこの先生に用事があるんだ」

 学校に向かう途中、なんとか話題を出して問いかけた。すると、男性も話題に乗って答えてくれる。

「君は生徒なのか?」

「はい! 入学したばかりですけど」

「そうか。占い師は難しいと聞く、勉学に勤しんでいるんだな」

「いや、それほどでも……ただ教えてくれる先生が恵まれてるだけで」

 褒められ香苗はそっと頬に手を添えた。今顔が熱いのが分かる。もしかしたら顔が赤くなっているかもしれない。変に思われないように口元をくっと閉めるがニヤニヤが収まらない。

「あ、ここです」

「意外と近くにあったんだな。ありがとう、助かった」

「いえ。お役に立ててよかったです!」

 校舎が見えると名残惜しく思う。もう少し話をしたかったなと思うが、相手は学校に用事がある。見た感じ年上の人だと思われ、自分なんかとは関わろうとは思わないだろうなと思う。

 男性はもう一度お礼を言うと、校舎の中へ入っていった。それを見送ると、寮へと足を運ぶ。

(今日はなんかいいこといっぱいだな! また会えるといいな、あの人に!)

 鮮明に覚えているあの人の顔。もう一度会えたらいいなと淡い期待を持って、寮の扉を開いた。


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