SS⑤
丁度、彼と一緒にいた時のことだった。
「痛っ!」
チョコを食べている最中に、口内を噛んでしまい、痛みに目が潤んだ。
「どうした?」
近くにいた彼が私の顔を覗き込んできた。
「噛んじゃった………」
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
彼はふと口元に笑みを浮かべた。
「ほんとに大丈夫か見てやるよ」
なんだかその笑みに嫌な予感がして、私は首を横にふった。
「え、いいよ」
「遠慮するなって」
けれど彼は、私の言葉を気にもせず、にじり寄ってくる。
「だからいいってば」
「ほら、口開けろよ」
そして彼は、私の顎を掴み、口の中に人差し指を差し込んできた。
「ちょっ……!」
「噛んだのどっち?」
私に問いかけながら、その指は優しく右側をなぞりあげ、それから左側に移り傷がないか探る。
「………っん……」
「ああ、腫れてんな。これだろ?」
見つけた噛み傷を、彼は人差し指でくるくるとなぞり、わざと刺激を与えてくる。じわじわと傷が痛んだ。
「……やめ…ッ……」
嫌がる私を見て、彼はにやにやと笑っている。
彼の腕を掴んで押しやると、意外とあっさり指を抜いてくれた。そのことにほっとして息を吐き出した。
彼は、私の口に差し込んだ人差し指をそのまま舐める。
「ちょっと何してるの!!」
「いや、甘いと思って」
「は!?」
「チョコ、食べてたもんな」
「だからって舐めないでよ!!」
「キス以上のこともしてんだから平気だろ?」
「キスと指を口の中触った指舐められるのは違うの!!」
「じゃあ指じゃなかったらいいんだな?」
「そういう問題じゃ……ッ!」
後頭部に添えられた右手で引き寄せられて、口づけられた。すぐ口内に舌が割りいれられる。
舌は上顎を撫でたあと、私の舌に絡めてきた。
「……ふ…ぁ………んうっ……」
彼の胸板に両手を当て押し返そうとするが、空いている左手で体を抱き込まれ抵抗できなくなる。
くちゅくちゅ…と水音が響く音と、息がうまくできなくて。それが心地よかった。
少し唇が離れた瞬間に、彼がふっと笑った気がした。もっとしていたいと思ったのが分かったのだろうか。
「可愛い……」
濡れたようなその艶めいた声にぞくりとして。次は自分から唇を重ねた。
至近距離の彼の目を見上げると、彼の目は面白そうに私を見ていた。
途中で雰囲気に満足しちゃって進まなくなっちゃって、超短編だけど、SS集だから気にしない。