SS④
短め。
現在、非常にまずい状態にあります。
「ねぇ.....」
「っ!」
お腹に響いてくるような低音の美声が囁き、耳に息を吹きかけてくる。
「どうしてそんなに逃げるのかな?」
彼から逃げようとして、壁に手をついてくっついたのが悪かったのか。
(......!!!!)
彼は背後から更に密着してきて(つまり私の背中と彼のしっかりと鍛えられた胸部やら腹部がぴったんこ)、壁についた私の両手は彼の左手に覆われた(つまり壁に両手を拘束された)。
「ねぇ.......聞いてる?」
そう囁いた彼は、そのまま私の右耳を甘噛みした。
「#@%☆△っ!!!!!」
(かっ...かか....噛まれたっ.....!)
真っ白な壁と彼の手に捕らわれた自分の手しか見えないが、初めての状況に混乱し、既に涙目である。堪えられず、ぎゅっと目を閉じた。
「どうして逃げるの?」
(それはあなたの胡散臭い笑顔がこわいから!)
「僕は君に何かしてしまったかな?」
(何もしてませんよええただちょっと何故か二人きりになって意味深な会話をさせられたり何故かあなたの補佐をやるはめになりあなたを狙う美女軍団に睨まれたりしただけです!)
「僕のことが嫌い?」
(嫌いってゆーか周りに睨まれるし釣り合わないしできればお近づきになりたくない平和に暮らしたいから!)
耳元でふっと笑う声が聞こえ、目を開けてみる。
「君は本当に可愛いね」
その瞬間、カッと熱くなり、顔に熱が集まるのを自覚した。
「顔が真っ赤だ......」
首にかかる髪を避けられ、首筋を何かがはった。
「......ひっ....」
「大丈夫、怖くないから」
そして首筋に唇を這わせる彼の頭が視界に入ったと同時に、小さな痛みを感じた。
(ま、また噛まれた.....?)
「にやあああああああああ!!!」
何をされたか分かった瞬間絶叫し、緩んだ拘束から抜け出し、その場から逃げ去った。
(関わりたくないのに関わりたくないのに関わりたくないのにいいい!何で向こうから来るのよあんな美女に囲まれてるくせに!しかも何で隠せないところに跡付けんの!?もういやだぁあああ!!!)
内心、叫びつつその場を後にした彼女は知らない。
「全部聞こえてるんだけどね」
「本当に可愛い」
「早く食べたい」
「手出される前に捕まえないと」
などと彼が言っていて、自ら標的になっていることを。
それから1週間もしないうちに、彼の罠にはまりお持ち帰りされ、散々食われた挙げ句、寿退社することになるのは別の話。
いいよねぇ、エリート紳士皮を被ったドS変態に捕まる平凡なウサギ。
あの手この手で良いようにされて、でも初のままだから更に燃え上がっちゃうんだろーなぁ。