SS②
夜半過ぎ――――――。
気配を消して湊は屋敷内を歩いていた。
他の使用人とは一切すれ違わない。寝眠っている時間だろうから、いなくて当然なのだが。
湊はある部屋の前に立つと、静かに部屋に忍び込んだ。
大きめの部屋は、この屋敷の主の私室であった。
湊は迷うことなく、主が眠る寝台へと近づいた。主―――大賀啓は穏やかに眠っていた。
その様子を数秒見た後、袖から出した短剣の刃先を頸動脈にそっと当てて搔き切ろうとした。
「………!」
啓の目が開き、その視線が湊を捉えた。
即座に湊は啓から離れようとするが、一歩遅く。
短剣を握りしめている右手首を強く掴まれ、短剣を奪われた。
「おいおい、随分と躾のなってねぇ猫がいたもんだな? 湊」
「……ッ……!!」
湊はぎっと歯を噛みしめて、啓を睨みつける。
「放せ!!!」
啓の手から逃れようともがくが、逆に力を籠められて体を引き寄せられる。
そのせいか、僅かに上体を起こした啓の顔にぐっと近付いてしまう。
啓は笑って、湊の耳元で囁く。
「俺を殺すなら、夜這いとか色仕掛けした後の方がやり易いぜ?」
簡単には殺されてやらねぇけどな。
ひっそりと呟いた啓に、湊は腕を強く引かれ、視界が反転した。
ぼふ、と背中はやわらかいものに受け止められた。湊はさっきまで啓が眠っていた寝台の上にいた。
いつの間にか両手首はまとめて掴まれて寝台に縫いとめられ、足は複雑に絡められていて殆ど身動きが取れない。
「……はなせ!」
「ほらほら、暴れない。体力消耗すると後が辛いぞ? 逃がすつもりはねぇからな」
啓は湊に顔をゆっくりと近づけていく。
「やだ!放せってば!」
「いい加減理解しろよ。これは仕置きだ」
そう告げた瞬間、湊の顎を空いている手で固定し、口づけた。
「………!!」
湊は目を見開く。
数秒の間、触れているだけだった唇を、濡れたものが這う。
(なにこれ…………舌?!)
まるで開けと言わんばかりに舌は優しく刺激を与えた後、強引に割入ってきた。
「……ん…ぅ…!」
口内に侵入してきた舌は、歯茎や上顎を刺激し、湊の舌に絡めてくる。
くちゅ、ぴちゅ、くちゅ…と水音が聞こえる。
あまりに濃厚なそれに耐えきれず、湊の体からは力が抜けて行った。
湊から離れた啓は、彼女の様子に満足したように笑んだ。
「お前の望み通り構ってやるから、ずっと啼いてろ」
啓は湊の首筋に顔を埋めた。
そんなこんなで、湊は明け方まで抱かれ、気絶するように眠りにつきました。
End.
つまり、野生味溢れる当主×ツンデレ殺し屋女的な。