選択肢
バスは暗闇を割くように目的地まで走り続けた。夜行バスを利用する人は少なく、私と先輩を含め、7人だった。少人数のせいで、より広く感じる車内は、寝息すら聞こえなかった。
「いりますか?」
私は横に座ってうとうとしている先輩にお菓子のグミを勧めた後、しまった、という顔をした。
「いい。」
眠くなる心地よさをかき消されで不機嫌になったのか、いつもよりも無愛想な言い方で先輩は答えた。そして再び目を閉じた。私は黙ってグミを食べ続けた。窓側の席だったが、外は何も見えない。仕方なくカーテンを閉めた。
「寝ないと疲れるよ。」
穏やかな声でそう私に話しかけ、先輩は手をつないできた。寝ていると思ったので、触られた時、思わずびくっと動いてしまった。先輩の行動は、相変わらず読めない。
「寝れないんです。」
手をつないだまま私は答えた。
「目をつぶってたら、自然と寝れるよ。」
寝ることを進める先輩をよそに、私は目を開けたまま、考え事をしていた。今、この空間には私と先輩しかいないように感じる。私の横には旦那ではなく、先輩がいる。私が望む結果だったはずだが、どこかで後ろめたさを感じる。薬指が痛い。ああ、そうか。結婚指輪をしたままだからか。かといって外すこともせず、旦那からもらった指輪をしたまま、先輩と手をつないでいる。誰に言われて行動しているわけではない。今の状況は、全て私が望み、悩み、判断した結果なのだ。