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屋上にて

 屋上へのドアを開くと風が一気になだれ込み、暴れる髪を片手で押さえる。

 そして、適当な場所を探して腰を下ろした。


 残念なことに日陰になっている所しか場所がなく、日向は別のグループが陣取っていた。


「ふぁやくふへほ、はほは」


「もう食いはじめてんのかよ……とりあえず口に物を入れたまましゃべるな、行儀も悪いし聞き取れない」


「んぐ…ごめんごめん、まああんまり固いこといってないで直哉も早く食えよ」


「言われなくても食べるさ、しかし相変わらずお前のパンの量すごいな」


 早くもがっつく雄介の袋には大量のパンが詰ま

っていた。


「一個いる?」

「……いらない」


 口に焼きそばパンをくわえながらパンを差し出してくる雄介に断りをいれ、自分のパンを出す。


 メロンパン、あと飲み物にイチゴ牛乳。とりあえず僕はこれで腹いっぱいになる。


「直哉は相変わらず少ないな、というか甘っ!」


 コロッケパンの袋を開けながら、雄介はこちらを見てつっこむ。


 いいんだよ…別に僕は甘党だから。すこしむっとしつつ食事を始める。


 雄介は夢中で食事を再開しだしたので、少しの間会話がなくなった。


「ふぃ…食べた食べた。」

 雄介は満足そうにお腹をさする。


「………早」

 まだこちらはメロンパンを半分しか消費していない。雄介は食べるのが早すぎる……いや、

僕も大概遅いのだが。


「しかしさっきの女の子、綺麗だったよな〜」


 唐突に雄介はコーヒー牛乳を飲みながら話始めた。


「……うん」


 特に反論するようなことでもなく、自分もそう思ったので素直に頷く。


「直哉、さっきなんか考えてたけど…あの子知り合い?」

 興味有りといった様子で雄介は聞いてきた。


 そんな友人のわかりやすい態度に苦笑しつつ、思いついたことを話す。


「昨日、兄さんの墓参りに行った帰りに見かけた女の子だと思う」


 おそらくそうだろうと思いながら伝える。


「…?あんまり人のことを覚えない雄介が、見かけただけで覚えるなんて珍しいな?」


「………確かに」

 雄介の言う通り、僕は他人を覚えない。二、三回話しただけでは顔も覚えない。


 今日は『珍しいな』、『…確かに』がワンセットになっているなと思いつつ、

「ほら、綺麗な女の子だったからさ?」

と、適当にお茶を濁す。


 言われてから考えたら心当たりがあったのだが、正直なところこの話は恥ずかしい。


「アイドルの可愛い女の子もろくに興味を示さない、おかげでホモ疑惑の上がった直哉が?」


 雄介は訝しむような顔をして聞いてくる。


「俺はホモじゃない…」


「知ってるよ、直哉がホモじゃない健全な一高校生だというくらい。」


 とりあえず話を逸らそうとホモ疑惑に抗議をしてみるが、すぐに話を戻される。


 そして、雄介は何かを理解したといった顔で聞いてくる。


「…なんかあったな?」

「………何もない」

 ニヤニヤと雄介は笑う。


「間が怪しい、なんかあっただろ」

「…何もない」

 適当に誤魔化す。


「…………」

「…………………」

 しばしの沈黙。


 そして雄介は確信を持ったという顔で口を開いた。

「……あまりにも可愛かったから、自分から声をかけたとか?」


「……っ!?」


 あまりにも的確に当ててきたため、かなり動揺する。


 雄介はフムフムと頷き、楽しそうに笑うと、

「成る程、それはそれは直哉にしては積極的な…まあ詳しく話せよ」


「……誰にも言うなよ」


 ニヤニヤしながら楽しそうな様子の雄介に、渋々昨日の出来事を話す。



 昨日兄の墓参りの後に彼女に出合ったこと。

 そして自分でも驚いくことに、彼女に反射的に声をかけたこと。

 そして自分の行動に恥ずかしくなり、適当に誤魔化してその場を立ち去ったこと。



 一通り話すと雄介は「ほほう…」と頷き、心底嬉しそうにする。


 そして、

「ついに、直哉にも春が来たか……

うんうん、お父さんは嬉しいぞ」

と勝手に涙ぐみ、空を仰ぐ。


「誰がお父さんだ誰が、お前を父親にした覚えはない。」


 一人で感慨に浸る雄介にとりあえずつっこみをいれておく。

 

対する雄介はそれを無視、なにか納得したような顔をして、



「………なるほど、

だからさっきからそわそわしてるのか。」


 ぼそっと何かを呟く。


「何かいったか?」

「いや、何も。」


 雄介はどうしたのだろう?普段ははっきりと言葉で伝えてくるのに、今は何故か一人で考えながらぼそぼそ呟いている。


 普段が普段なだけに雄介の様子を怪しく思うもあまり深く考えず、気にしないことにする。こいつの考えることはわからん。


 仕方ないので、一人で考えこんでいる雄介を放置して、空を眺める。


 気持ちいい…。


 ふと雄介は思い立ったように転がると、

「あー、すげぇ気持ちいいから寝よー!」

と言い出した。


「いきなりどうした?」

 突然声を大にしてそう言い出し、寝転がる友人に少し驚きつつも、言葉通りの意味だろうと適当に返す。


 雄介はこちらに転がったままひらひらと手を振ると、

「俺今から昼休み終わるまで寝るから、直哉はどっかにいっときなよー。」

と言い出した。


「勝手だな。」


 苦笑しつつ、事実話し相手はいないので屋上からでてうろつくことにする。


「じゃあな、またあとで。」

「お休みー。」


 寝息を立てはじめる雄介を後ろに、屋上を出ることにした。



「さて、どうするか…」

 いざうろついてみるとどこも行く当てがない。

 大人しく教室にでも帰るか…とも思ったのだが、ふと脳裏にあの少女のことが浮かぶ。

「あの子、転校生だろうか?」

 少なくとも、この学校の生徒にはあんな目立つような女の子はいなかったような……と自分の役に立たない記憶を掘り返す。


 うん、いない。


「ちょっと気になるな…」


 そう思うと自然に足取りは職員室に向かっていた。




 屋上には一人、空を仰ぎながら雄介が寝転がっていた。


「まったく……やっとまわりに興味を持ち出してくれたか。」


 苦笑しつつ、雄介は思い出す。


『あいつ、お兄さんが死んでからいろんなことに興味を持たなくなったからな……』


 直哉の兄が亡くなってから、直哉はあからさまに元気を失った。


 最近では大分話せるようになったが、前は自分にすら会話をしてくれなかった。


『でもあいつ、元気になってきているというよりは…』


 直哉の様子は雄介も含めて、周りからかなりの無理をしているように見えた。

 周りに心配をかけないように……そうやって心を閉ざしているように見えるのだ。


 少なくとも親友である自分にはそう見える。


『ったく…もっと自分らしく生きろよな。』


 直哉は兄に頼って来たため、自分一人で生きていく自信を持っていない。

 自分にはなにも出来ないと心の底から思っているため、積極的になにかに取り組まず、関わろうとしない。


 そんな直哉が自分から人に話しかけたのだ。

『しかも、スゲー綺麗な女の子。こりゃ直哉には頑張って貰わないと。』


 少しずつでも直哉には立ち直ってもらい、自分に自信を持って貰いたい……そう雄介は思っている。


 雄介が辛い時に支えてくれたのは、他でもない直哉なのだから。


『兄さんに助けて貰ってるから僕は大丈夫、だから雄介の辛いことくらい一緒に背負ってやるよ!雄介は僕の友達だろ!』


 幼い頃の直哉の言葉を思い出す。

 あの時、自分は確かに一人の直哉という少年に救われたのだ。


『辛い時に支えてくれたんだ…お前が辛いなら一緒に背負い込んで、お前のことを支えてやるよ』

 そんなことを心に思うと、雄介はなんだか気恥ずかしくなる。


 そんなことを心に思うと、雄介はなんだか気恥ずかしくなる。


「やべぇ!!なんかめっちゃ今の俺くせぇ!!うっわ恥ずい!!」


 周りから変な目で見られてることもお構いなしに、彼は一人悶えた。



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