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久しぶりの朝食


 その日の目覚めはとてもすがすがしく、珍しく早くから目が覚めた。


「すげ…朝飯食うのなんていつ以来だろう…」

 食卓で納豆を混ぜながらそんなことを呟く。


 小鳥遊家の朝食はパンではなくご飯、そのようなことも忘れていたくらいに久しぶりの朝食。


 兄がいなくなってからというもの僕を朝早くから起こしてくれる人はいなく、自堕落な生活を送り続けてきた。


 両親は僕を起こすのが面倒らしく、学校に遅刻しそうでも余裕で放置される。



「目覚ましより早く起きるだなんて…どうしたんだろ?」

 味噌汁を啜りながらもいまだに朝早くから目が覚めたことに驚いている…


 父さんは朝が早いので、

僕が起きた時にはすでに玄関先で母さんに見送られているところだった。


「…えっ!嘘!直哉が起きてる!?」


 見送りから帰ってきて僕の姿を見た母さんはものすごく驚き、


「直弘さん!傘!傘!」


と叫びながら、家を出た父さんを慌てて追いかける。


 そんな母さんの様子をみて直哉は、

『僕だって前はちゃんと朝早くから起きてたよ…最近は違うけどさ……

 というか僕が早く起きたからって雨は降らないだろ……』

と心の中で思いながら、顔を洗いに洗面所に向かった。



 そして顔を洗い終えた後、戻ってきた母さんと食卓につき今にいたる。



「それにしても珍しいわね…」


 母さんは直哉がいつもより大分早く起きてきたことに、まだ驚いている。


「僕だって、早く目が覚めることもあるさ。」


 漬物をポリポリとかじりながら返す。


「昨日は珍しく早く寝ていたけど、なにかあったの?」

 母さんは味噌汁を啜りながら昨日の直哉の様子について、聞いてきた。


「特になにもなかったよ、いつも通り。ベッドに入って考え事をしてたら気づいたら寝てた。」


 昨日は帰ってから意外と早く寝た。あくまでも意外と。



「考え事してそのまま寝るなんて……直哉にしては珍しいわね?」

 母さんはそんな直哉の答えに、不思議そうに首を傾げる。


「うーん……なにを考えてたか思い出せないけどね…」

 少し悩んで思い出せなかったので、苦笑しながらそう返した。


「でもその様子なら、

なにか良いことで悩んでいたのね。」


 母さんは微笑んだ。


「……そんなに僕は嬉しそうに見えるの?」

 自分はそんなに機嫌がいいのかと、不思議に思う。


「顔に出てると言うよりも、もはや態度がいつもより上機嫌ね……彼女でもできたの?」


 嬉しそうに母さんは笑う。


 思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになりつつ、慌てて否定する。

「ないない!!別に昨日はなにもなかったよ。いつも通り兄さんに会いに行っただけ。」



 兄さんの話題を出すと一瞬、母さんの表情が曇った。


「……そう、でもあまり辛いことばかり思いだしてはだめよ?」


 母さんは気遣うようにこちらをみる。


「大丈夫だよ…なにも辛いことなんてないさ、ただのお墓参り。」

 そんな母さんの気遣いに、僕は何気ないようにかえす。


 それでも母さんは箸を動かす手を止め、僕の目を見て話を続けた。


「だって……直人がいなくなってから直哉、ずっと辛そうにすごしているじゃない……」


 話ながら最初、母さんの表情に複雑な感情が見えたが、すぐにこちらを心配している様子になる。


「……兄さんがいなくなったんだ、それこそ元気にいるほうが不自然だよ。」



 何も問題がないよと、笑いながら返す。


 問題ないと思いながらも内心、少し心が揺らいだ……。


「…悲しいのはわかるけど……、忘れろとは言わないけど……直哉には直哉の生活があるのよ?」


 母さんはしっかりとこちらを見て諭すように話かけてくる。


「母さんにとってはあなたも大事な息子なの、いつまでも過去に囚われずに明るく過ごして…」


「……大丈夫だよ、別に僕はもう引きずってなんかいない。心配しなくても元気だよ……ほら、折角僕が早く起きたのに重い話をするなんて母さんに悪いよ、元気だから気にしないで」


 重い空気を払うように、強引に話を終らせる。


 そして、残ったご飯を一気に掻き込んで「ご馳走様」と言って席を立った。




「じゃあ行ってきます。」

 朝食を終え、学校の支度をして家を出る。


「気をつけてね。折角の高校生活よ沢山楽しんできなさい、彼女も作るのよ?フフッ」


 悪戯っ子みたいな笑顔で母さんはからかう。


 そんな母さんに苦笑しつつ手を振り、

「余計なお世話、じゃあ行ってきます!」

家を後にする。


 そして清々しい朝の道を僕は学校に向かった。






 元気そうに走りさる息子を見送りながら、母は呟く。


「辛くないなら……そんな泣きそうな顔なんてしないでしょ……」


 誰に話かけるでもなく静かに呟き、息子が見えなくなるまで見送る。



「さてと!掃除に洗濯!やることがいっぱいだわ〜」


 そして息子が見えなくなると、鼻歌を歌いながらそそくさと家に戻っていった。

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