#4
「須賀君だっけ? 俺は七瀬。よろしくね」
「よろしく。あぁ、智紀でいいよ」
七瀬は、とにかくできた奴だった。
落ち着いた雰囲気で、相手に合わせて話し方を変えてるのだと感じた。
さらに聞けば、生徒会長もやってるとか。才色兼備な優等生は実在するらしい。そこにひたすら感激した。
「智紀、昼焼きそばパンだけで良かったの? 俺の唐揚げ半分いる?」
「サンキュー。でも大丈夫だよ、今日はあんま腹減ってないんだ。全然動いてないし!」
売店で互いに昼ごはんを買った後、まだ見慣れない廊下を歩いた。
どこもかしこも目新しくて、思わずキョロキョロしてしまう。そんな俺が面白いのか、七瀬も笑っていた。
「そうだ、智紀って彼女いるの? 前は共学だったんでしょ」
「共学だけど、いないよ。前は部活に専念しててさ。告白されても断ってたんだ。引退するまではって思って」
そして、引退を目前に男子校に移ることとなった。俺の短い青春はほぼほぼ幕を閉じたと言っていい。
「そっか……。それじゃウチに来たのは残念だったね。でも出会いは学校だけじゃないから」
彼は袋からコーヒー牛乳を出して俺に手渡した。
「元気出して。智紀なら絶対、可愛い彼女つくれるよ」
……!
メンタルが弱っていた俺にとって、そのときの彼は天使に見えた。
「……ありがと、七瀬」
優しい奴だな。俺が思ってるより、多分ずっと優しい。第一印象で色々思って、改めて申し訳ない。
でもさっき少しだけ、悲しそうな顔したような。気のせいかな。
「……あ、そういえばさ! ここ男子校じゃん? やっぱあれ多いの?」
「あれ?」
「ほら。言いづらいけど、ゲイ、みたいな」
「あぁ。……まぁ」
七瀬はそこで初めて顔に影を落とし、俯いた。彼の反応から察するに、ああいう光景は珍しくないみたいだ。
「やっぱり? 実は俺、今朝変なこと話してる奴ら見つけて軽くビビったんだ」
笑いながら言うと、彼はさっきとはまるで違う、鋭い目付きに変わった。
「へぇ。その見た人達、誰だかわかる?」
「えっ」
何だ?
何か、ちょっと危ない目をしてる。急にどうしたんだろう。
「いや、誰なのかは全然。まだお前以外知ってる奴いないもん。でも三年生の上履きだったな。康太……君がどうこう言ってたっけ」
「OK、ありがとう。俺ちょっと用事できたからさ、先に教室に戻ってて。道覚えてるよね?」
「えっ。あ、うん」
「うん、じゃあまたね?」
突拍子もなく、彼は爽やかな笑顔でどこかへ行ってしまった。あれれ。
やっぱ、ちょっと変わった子だなぁ……。




