#4
転校初日、生徒会室で起きた出来事が急に思い浮かんだ。あの時よりもだいぶ捻れた状況だけれど、依然として共通していたのは……乱暴で悪辣な台詞の数々とは裏腹に、彼が大人しいことだ。
「まあ……ちょっと、落ち着こうぜ」
今はそれしか言えない。
七瀬は倒れた拍子に、ほとんど智紀の膝に乗る体勢となっていた。
「はっ……俺はもう帰らせてもらうよ。あと、本気で何かしようと思ってたわけじゃないから。勘違いしないでね、須賀」
とても白々しく感じるけど、不田澤は解放されたのを良いことに教室から去って行った。
この取り残された感じも、あの時と似ていた。たった二人で過ごすには、教室は広過ぎる。何とも言えない虚しさばかり募っていく。
智紀はため息をついた後、軽く頬を掻いた。
気まずさは最高潮。咳払いして、俯く彼に語りかける。
「あのまま黙って見てたらお前、暴力どころか不田澤のこと絞め殺しそうだったぞ。それはまずいだろ。何にそんな怒ってるのか知らないけど、ちょっと冷静に」
なって、って言おうとしたけど。彼があんまりにも大人しいので、さらに不安になる。
「おーい、七瀬? ……泣いてんの?」
「んなわけねーだろ」
「でも、ちょっと目赤いぞ」
もう恐怖やら戸惑いやらはどこかへ消えて、純粋に水瀬に対する好奇心でいっぱいになっていた。
ちょうど捕まえやすい位置にいるから、彼の両頬を手で挟んで顔を上げさせる。
「怒鳴ってごめんな。何かお前、怒鳴られんの特に嫌いみたいだもんな」
「…………」
怖いぐらい大人しい彼に目を奪われる。
今は何をしても怒らないタイムなのかもしれない。
「助けてくれてありがと」
「別に」
精一杯のスマイルを作ったけど、七瀬は相も変わらずツンとした態度で吐き捨てた。




