#9
七瀬はげんなりした様子で額を押さえた。今のは俺もちょっと適当過ぎたかもしれない。
「ごめんごめん。とにかく、カップルがいたら暖かい目で見守ってやろう」
「断る!」
ほんっ……とに頑固だ。石頭なんてもんじゃない。
何でこんなに“カップル”に執着しているのか。それを突き止めないと七瀬のやりたい事が分からないし、話が進まない。そう思って上手い聞き出し方を考える。
けど彼は藪から棒に、これまでと全く違う話題を振ってきた。
「そういえばお前サッカーやってたらしいな」
「え? あぁ、うん」
「こっちでやる気ねえの? あるなら部活に連れてってやらないこともないけど」
もはや清々しいまでの上から目線をスルーし、智紀は腕を組む。
「……部活かぁ。やれるならやりたいけど、元々三年になったらほとんど顔出すの止めようと思ってたからなぁ……」
こっちで今から始めても、本気でやれる自信がない。
「見学だけでもいいし、体験入部もできる。嫌なら入んなきゃいい。部活に入ってりゃアピールポイントにもなるだろ」
「内申の為だけに入りたいとは思わないよ。真面目にやってる奴に悪いもん……ちなみにお前は何か部活入ってないの?」
気になって訊くと、七瀬は低い声で答えた。
「ない。テニス部に入ってたけど、一年でやめたから」
彼は決して目を合わせようとしなかった。
何となく重たい空気を肌で感じ、隣に並んだ。
「どした。もしかしてイジめられてたとか?」
「はは。冗談は顔だけにしろよ」
「だよな。お前そんなタマじゃないもんな」
安心したけど、何かすごく失礼なことを言われたような。
「で、行くの、行かねえの?」
彼はポケットに手を突っ込んで振り返った。
正直悩む。確かに見学はしてみたい……。
あと彼の関心を引きたいという、邪な想いも強くて。
「……行ってもいいかな?」
「いいに決まってんだろ。じゃあ、そうだな……今日は突然だから、明日行くぞ。放課後声かける」
「あぁ! ありがとう」
ちょっと驚いたけど、七瀬に部活を案内してもらう約束をした。
「今日はもう帰る。それで満足だろ?」
「あ、あぁ。帰ろっか……」
反発したり素直になったり、ペースは未だに掴めないけど、彼と学校を出ることに成功した。
本当急にいいコになるから戸惑うんだよなぁ……。




