#7
「七瀬は……あんまり会ったことないタイプだから。何か気になるんだ。それに、ここに来て初めて話した相手だし」
とりあえず記憶を遡って、思ったことをそのまま伝える。
「校門とこで転びそうになった時、支えてくれただろ。あれは嬉しかったよ」
「……」
七瀬の瞳は、こちらの心理を暴くような鋭さを持ってる。ちょっと居づらいなー、と思いながら反応を待った。
「その台詞、そのまま返すよ。俺もお前みたいなタイプに会うのは初めて」
彼は距離を縮め、自身の長めの前髪を邪魔そうに払った。
何か近い。
下手したら太腿が当たりそうだ。サッカー中ならともかく、普段の生活ではあまり経験したことがない距離で、またドキドキが増す。
ところが、彼はいつもの皮肉をたっぷり込め、鼻で笑った。
「お前って誰にでも笑顔振り撒いて、尻尾振りそうだよな。そのうち媚びる相手間違えて、ほんとの犬にされるぜ」
「な……っ」
まさか、媚びてると思われてるのか。
非常に心外だったけど、彼がまだなにか言いたそうだったので口を噤む。
拳を握りしめて待っていると、忌々しげに吐き捨てた。
「悪気のない馬鹿って一番可哀想だから、最後に忠告してやる。よく知らない人間の言うことを簡単に信じるな」
言うだけ言って、彼はまた歩き出した。
忠告は忠告なんだろうけど、失礼な部分が際立ってあまり頭に入ってこなかった。
落ち着け俺、ディスられたことじゃなくて大事なところだけ拾うんだ。
「信じるなってどゆこと? まるで周りは皆敵みたいな」
「敵だよ。変態しかいないんだから、この学校」
掠れた笑いと共に、彼は片手を軽く振った。
「せいぜい気をつけろよ。ただでさえ転校してきて目立ってんだからさ」
ポジティブに捉えると、彼なりに心配してくれてるのかもしれない。
そこは良いとして、……やっぱりどうしても否定しておきたいこともある。
駆け出して、彼の肩を掴んだ。
「分かった。でも周りに媚びてるってのはマジで違」
う、と言いかけたとき、七瀬の足に当たって躓いてしまった。彼も慌てて足を引っ込めたが、そのせいでバランスを崩してしまう。
階段の手前だった為、彼の体が傾いた時、反射的に手を伸ばした。
「危ないっ!」
気付けば彼の腰に手を回し、抱き込んでいた。
本当に、あと一歩前に出てたら階段から落ちていたかもしれない。
心臓に悪いけど、とりあえず怪我させなくて良かった。
予想してたよりずっと体重軽いし、手足も腰も細い。もっと食えって心の中で思いながら、彼の顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「大丈夫……だから、離せ!」
今度はしっかり足を床につけ、彼は手を払い除けた。それだけならいつもの反応だけど。
今の彼は、何故か心配になるほど顔が真っ赤だった。




