#6
放課後のホームルームが終わって、ほとんどの生徒が家や部活に向かう中……智紀は真っ先に七瀬の座る席へ向かった。
「七瀬、ノートありがとな! ほんとに助かったよ」
最大限頭を下げて差し出すと、彼は無言でノートを受け取った。それでも構わない。純粋に、彼の気遣いが嬉しかった。
やっぱり何だかんだ言っても、根は良い奴なんだ。
乱暴なところはあるけど、まだ彼のことを何も知らないから、そういうところが目立って見えてるだけだ。
素直に……心を開いてくれたら、それなりに仲良くなれる気がする。希望はある。
「それに、お前って本当に頭いいんだな。今度勉強教えてよ!」
「断る」
彼は鞄を取ると、席を立って教室を出て行こうとした。やっぱりツンツン度は変わらない。俺も自分の鞄を取って、彼のあとを追った。
俺よりちょっとだけ低い背丈。少し前傾になると横顔もよく見えた。鼻が高くて、正面から見るより凛々しく感じる。
お互い無言で廊下を歩きながら、靴音だけ耳を澄ましていた。
七瀬はちょっと触れたら壊れてしまいそうだ。
男相手に、しかも素は荒ぶってる彼にこんな心配をするのはおかしい。でも、何故か胸騒ぎがする。
いや、それも違うな。
この焦燥の正体は、違和感。
彼はまるで────わざと周りに嫌われようとしてる。
「なぁ。ひとりが好きなんて嘘だろ?」
だからなのか、そんな問い掛けをしてしまった。案の定、彼は怒りと驚きに満ちた顔で反論してきた。
「転校したばっかで疲れてんなら良い病院紹介してやろうか」
「けっこうです。……でも、そう見えるよ。何か悪口みたいになっちゃうけど、お前ってそこまで強そうに見えないもん。誰かといる方がしっくりくるっていうか。俺も、見てて安心する」
「はぁ? そもそも、何で俺がひとりだと安心できないんだよ」
七瀬は立ち止まると、俺の肩を押して壁に手をついた。
周りに生徒はひとりもいない。音も光も、一直線に伸びる空間に吸い込まれてしまいそうだった。
ちょっとドキドキしてる自分がいる。開けてはいけない扉に手をかけている気がした。
それに今訊かれた……、“安心”の本当の理由も分からなくて、自分でも混乱していた。




