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第48話 伝えたいことがある



「いらっっしゃーい!」


 ラーメン屋の暖簾をくぐると陽子がお手本のような笑顔でこちらに振り向いた。しかし客じゃない僕を確認して、拍子抜けしたように笑みを浮かべて言った。


「あと、5分くらいだと思う」


 僕は「分かったよ」といって店の外に出た。


 今朝起きて、陽子にちょっとの時間会えないかとラインした。するとバイトの休憩中なら会えるということだったのでここまで訪れた次第だ。


 お昼のピークも過ぎ、あと数分で午後3時。今日は9時まで働くというのだから本当すごいと思う。


 陽子に直接伝えたいことが山ほどあった。それはすぐ伝えたかったし、ラインじゃなくて直接じゃなくちゃダメだった。


「おまたせー」


「せっかくの休憩中に悪かったな」


「ううんっ」


 それから汗で顔を光らせ現れた陽子に、淡々と伝えたいことを話していった。


 僕がいま考えていること、古川と交わした絶交の約束、それから陽子に対する思い。あらかた僕が話し終えると、それまで黙って頷いていた陽子が、ちょっと怯えたような上目遣いをしていった。


「実はわたしも言いたいこと、あったのだ」


「ん?」


「……わたしが勝手なことをしたせいで、ふたりを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」


「いや、その話はもう終わったじゃんか」


 陽子は首を振る。


「ふたりの期限が切れたら、ちゃんともういっかい謝ろうって思ってたのだ」


「そんなこと、陽子でも思うんだ」


「思うのだよ」


 陽子は僕の顔に向かって手を伸ばして頬に触った。


「傷ついちゃったのだ」


「陽子……らしくないし、もう今後僕と会ってるときに一切その件で謝らないって約束して」


「うう……でも、こんな迷惑を」


「でも助けに来てくれたじゃん。あれでチャラでいいから」


「あんなんでいいのだ?」


 あんなんで、って君のやったことは軽く殺人未遂だぞって思わず突っ込みそうになった。


「……てか、どうやって僕たちがあそこに居るって分かったんだ?」


「うーん、それしかないと思ったからなのだ?」


 果たして。僕が分かりかねていると彼女は補足をするように続けた。


「あの日、ちょっと早くに着いてたから駅近くをウロウロしていたのだ。そしたらあいりんが走っていくのが見えて、もう待ち合わせ時間なのにおかしいし、成瀬くんも来れないって言うし。それに私、相沢の家いったことあるから方向的にもしかしてって」


「助かったよ」


「うううううん」


 全力で首を振っている陽子だけど、正直本当に助かったのだ。


 陽子があそこで来てくれなかったら、僕はもしかしたら……本当に相沢を刺していたかもしれなかったから。切れる10代、犯行理由は女性関係だなんて、いくらなんでも僕とはかけ離れてる。


「おかげで殺人犯にならなくて済んだから」


「でも……わたし心配なのだ」


「……これからが?」


 本当に不安そうに陽子は頷く。

 昨日遊んでいた時には見せなかった目先の心配事に気を取られたような顔を浮かべていた。


「陽子の言いたいことは分かるよ」


 昨日は、少なくとも僕は、この3人の仲に一旦の区切りがつくということに頭がいっぱいで現実に目が向いていなかった。


 だから峠を越えた今、クリアになった視界で本来そこにあるはずだった心配事が襲い掛かってきている。陽子の心中は分からないけれど、なんとなくそんな感じなんだろうと勝手に親近感を抱いていた。


「でも、まあ……これからどうなるのかは分からないけど、まあなんとかなるって僕は思ってるよ」


 正確にいうとそう思うしかないって感じだけど。


「なんとかなる、かあ」彼女はそう呟いてから、何か思いついたように微笑を浮かべてこういった。


「絶交だって取り消しするんだものね」


「……あとは古川がなんて言うかだと思うけど」


「大丈夫だよ。あいりんは成瀬くんのこと好きだから」


「それはどうかな」


 あまり過度な期待をしたくないから、僕は表情を引き締めつつ彼女の言葉を流した。


 因みに古川にも会いたいとラインを入れたが、こちらのほうはまだ返信がない。試しに今、スマホを開いてみるが、やっぱりまだ返事は来ていない。


「じゃあ、そろそろわたし行くのだ」


「ああ、悪かったな無理言って」


「ううん。わたし嬉しかったのだ」


 陽子は店の扉を開いて暖簾をくぐる手前、こちらへ再度振り向いて言った。


「上手くいくことを応援してるのだ」


「……わかったよ」


 上手くいかない選択肢などまるでないような、そんな晴れ晴れとした笑顔だった。果たして……僕はもう一度ラインを開く。やっぱりまだ返事は来ていない。


 それから一旦家に帰ることにした。


 帰宅して本を読み、テレビを観て、それからベッドで横になった。

 しばらくすると寝落ちしてしまい、日が暮れたころに目を覚ます。すっかり暗くなってしまったベッドの上でスマホを点けると、古川から返信が届いていた。




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