第41話 降りだした大雨
店の中からこちらが見えてしまわないように角に身を潜めながら、僕たちは小さな喜びを分かち合う。若い男性がひとり、ちらちらととこちらを見て店に入っていく。いらっしゃーいという陽子の元気な声がして、扉が閉まると同時に一気にその声は遠ざかる。
「さて、どうしようか」
「何時までなんだろ」
スマホで時間を確認すると、まだ18時にもなっていなかった。仮に21時までだったとしても3時間以上はある。
「どこか行ってる間に帰っちゃったら元も子もないんだよな」
「そしたら、うん、やっぱりここで待ってるしかないよね」
3時間、と考えると気が遠くなりそうだった。
「そしたら僕、何か買ってくるよ」
飲み物ぐらいは必要だろう。古川は「ありがとう」といって僕を見送った。1~2分駅に向かって歩いていると、コンビニはすぐに見つかった。ドラッグストアや小さな喫茶店、美容院などが並びに店を構えていて、繁華街とは呼べないほどの小さな商店街だけれどそれなりに暮らしやすそうな街だなと思った。
なんでこんなところでバイトしてんだよ。家近くないだろ。
≪なんかビタミン系でよろしく≫
≪了解≫
カフェオレとCCレモンと個包装のチョコレートとおにぎりをふたつ買って古川のところに戻った。
「わーめっちゃ気が利くじゃんありがとー」なんていって彼女は袋のなかを物色しながら喜んでいた。この辺りまでは、まだまだ僕たちに余裕があったのかもしれない。
なかなか陽子のバイトは終わらなかった。
いよいよ20時を回って且つ彼女に上がる気配がないとなると、何もしないで待つという行為に限界を感じはじめてきて、僕たちの間に言葉はうんと少なくなって、彼女は地べたに座ってスマホをいじる時間が増えた。
バイトしてるほうが絶対体を動かしているのに何故か待ってるだけの僕たちのほうがヘトヘトになっていた。
それから、いつの間にか空一面を覆っていた鼠色の雲から、殴りつけるような雨が降りはじめた。
古川と僕は、ほんの少しはみ出た屋根の下に入ろうと、建物側へうんと、身体計測をするように身を寄せる。それでも雨水は腕や肩に浸透してワイシャツを濡らしはじめる。
急な雨に行き交う人は頭をカバンで守って急いだり、無防備なまま顔をしかめて全力で走ったりして、道路はあっという間に黒く光り、またそれを彩るかのように無数の雨粒がアスファルトの上ではじけ飛んでいる。遠くの空で雷鳴が轟いていて、恐らくだけどそう長くは続かない雨だろうと思った。
古川が空を見上げ、声の混じったため息を漏らした。
見かねた僕は気を紛らわせようとして口を開く。
「帰りまでに止んでくれれば――」
その瞬間、店の扉が開いて、ひとりの女の子が出てきた。
女の子はため息をついて空を見上げ、それから諦めたように視線を落とし、前触れもなく僕たちのほうを向いた。
「ひゃっ」
そして走り出した――。
「ま、まてっ」
「陽子!」
「いっいやなのだああ!」
大雨のなか駆けだしたのも束の間、割とすぐのところで陽子は足を取られて転んだ。アスファルトに大の字になって倒れたうしろ姿は漫画みたいで、相変わらずなんてドジなやつなんだと、僕は思った。
「ちょっと陽子っ」
「大丈夫かよ」
駆け寄る古川と僕に、彼女は観念したように呟いた。
「……いたいのだ」
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