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第28話 何かを隠されてる



 古川は首を横に振るだけで、もうなにも言わなかった。


 予鈴が鳴って僕たちはそれぞれの教室に帰った。言いようのない違和感が小さく胸の奥で渦巻いていて、それは授業が始まってからも、そしてホームルームが終わって帰路に就いてからも消えることは無かった。


 学校から最寄り駅までの途中、なんとなく僕も陽子に電話をかけてみる。すぐに画面は呼び出し中に変わった。なんでもひとつで完結できるのがスマホの魅力なのに、通話とメッセージだけは相手がいないと成立しない。どれだけ科学技術が進歩してもここの部分だけは変わらないのだろう。


 呼び出し中の表示は永遠に続くような気がした。

 しかし、画面は急に切り替わる。


「……なに」


 聞いたことのない声――。


「陽子じゃない……?」


「なんの用なのだ」


 陽子だった。胸を撫で下ろす。


「別人かと思ったぞ」


「……」


「今日、学校来なかったな」


「うん」


 陽子がおかしかった。声色はまるで、愛想を最大限無くそうと徹底した、彼女の良さをすべて殺したかのような声だった。


「風邪か?」


「風邪じゃないのだ」


「じゃあなんで休んだの」


「……」


 返答がない。


 少し間があってから、彼女はこう静かに言った。


「私バイトだから、用が無いのならじゃあね」


「学校休んでんのにバイトーー」


 電話は一方的に切れ、頭を殴られたかのような衝撃が走った。思わずスマホの画面を見ると当然電話はもう繋がっていなくて僕はひとり置いてけぼりになった強い孤独感を覚えた。


 なんて態度をするんだろう。もう一度掛けようかとも思ったけど、また陽子に冷たく突き放されるのだろうかと考えるととてもじゃないけどトライする気にはなれなかった。陽子の冷たい態度は、地味に結構傷ついたかもしれない。


 昨日、電話がしたいと送ってきた彼女を思い出す。あの時はまだ、たぶん怒ってはいなかったし拒絶もしていない。


 どうしたんだよ。なんで怒ってんだよ。

 笑顔がすっかり消え失せた古川が蘇る。

 立ち尽くした僕の横を、ひとりふたりと下校中の生徒が追い越していく。



******



 駅ビルの重い扉を押しのけて入ると、一気にエアコンの冷たい空気が全身を包みこんだ。毛穴という毛穴から噴き出していた汗は冷たい滴に変わって、汗に濡れていた髪の毛も凍りつくように冷たくなった。

 適当なベンチに座って僕は電話をかける。何秒かして電話は繋がった。


「もしもし? どうしたの」


 昼休みと打って変わって、古川はいつもの明るい口調に戻っていた。僕は端的に電話も目的を彼女に言った。


「昼休みの話で聞きたいことがあるんだけど」


「うん」


「陽子は、古川が言ったことに対してなんか言ってた?」


「私が言ったこと?」


「相沢との関係だよ。言い寄られてて困ってるとか話した時に、陽子はなんて反応してきたんだ?」


 色々考えてみたけれど、やっぱり昨日の午後から夜までのどこかで何かが起こったとしか思えなかった。そしてタイミングよく陽子と接していたのがこの古川なのだ。何かヒントがあるのならば彼女のところにしかない。


 それに……、


「普通だったよ、陽子は」


 何かがおかしいのだ。古川は。奥歯に何かが挟まっているというか、殻のなかに何かを閉じ込めているというか、僕からしたら陽子が離れていったことは皆目見当もつかないのに彼女はそれほど不思議がってないというか。


 ――せっかくこれからだったのに。


 まるで諦める理由を知っているかのような振る舞いに感じてしまうのだ。


「普通だったってどんな感じなんだ?」


「ちょっとびっくりしてたけど、陽子は陽子だったって意味だよ」


 ため息が漏れる。


「……さっき、陽子に電話したんだよ」


「え?」


 電話口から張り詰めた空気感が流れた。


「話も全然聞いてくれなくて、一方的に切られたんだ。僕からしたら訳が分からないんだ。相沢が古川にアプローチしていて、それでどうして陽子がグループラインを抜けるのか、どうして僕のことを避けるのか、どうして一方的に電話を切るのかも」


「……」


 古川の返事はない。


「何があって彼女は一方的に離れるようなことをしたんだ」


「待ってよ成瀬」電話の向こうからする古川の声が少しばかり怯えていた。「それは私にも分からないの。正直、グループラインを抜けたことだって成瀬に言われて初めて知ったし、私だってどうして陽子が居なくなったのか知りたいんだよ」


「じゃあ『せっかくこれからだったのに』ってどういうことだ? なにか言ってないことがあるなら教えて欲しいんだ」


「それは、違うもん」


「違う?」


「うん……関係ない」


 なんだかもううんざりしてきて僕はひと声かけ、電話を切った。

 十中八九何かが隠されてるし、それを古川が言うことは今後一切なさそうだった。


 ならば……やっぱり陽子本人に直接聞くしかないのだ。僕はベンチから立ち上がって駅に向かう。今から急いで向かえば彼女を出勤前に捕まえることができるだろう。もしもバイトということが嘘でなければの話だが。




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