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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第49話 ヴィクトールの調査

エドガルの話を聞いた後、馬車で王宮に戻った。

エドガルの話は、“ネイト”だと疑っている私たちにとっても重いものだった。

そんな、なんとも言えない車内の空気を壊したのは、ヴィクトールのメモだった。


「これは……」


ルシアンはヴィクトールのメモを手に目を見開いた。


「ネイト侯爵の病院が扱っているレイマ草の購入量、金額、使用量のメモだ」

「――……これ、どうやって!?」

「別に――。今日、エマたちが治療しているときにすることがなかったから、事務の人間に声をかけただけだ」

「――は?」


ルシアンが理解できないという顔をしていた。

ヴィクトールの子細なメモを、エマも凝視していた。


――……こんな内容、事務の人間がペラペラ話す? 一体、どういうこと?


「ヴィクトール、こんな内容……どうやって吐かせたんだ」


――まさかとは思うけど……。力づく?


ヴィクトールは基本的に帯剣している。もちろん、今日も――ヴィクトールの腰元には剣が。

不安になり、ヴィクトールを見ると、ヴィクトールはため息をついた。


「エマ、君は私が何をしたと思っているんだ」

「――だって……」

「普通に声をかけただけだ」

「普通、って……?」


ヴィクトールは少し躊躇っていたが、二人の追及を逃れられないと口を開いた。


「――少しだけ、いつもより愛想はよくした。夜会の妙なお揃いの衣裳のおかげで、ルシアンと親しい人間だと知れ渡っていたから話が早かった」


――狙いなのか、偶然なのか分からないけど、ルシアンのお揃いが功を奏したってこと? でも、そんなことだけでこんな情報を……?


ルシアンが、ハッとした顔をしてヴィクトールを見た。


「――……なんだ?」

「いや、そうか。そういうことか。まさか、君がそういう手段を使うとは……」


ルシアンは合点がいったようだったが、エマだけが取り残されていた。


「そういう手段って……?」


エマがきょとんとルシアンを見ると、ヴィクトールがルシアンを睨んだ。

ルシアンはエマにニヤッと笑った。


「――エマ、君の夫は悪い男みたいだ」

「え?」

「余計なことを――」

「ハニートラップ」

「え?」

「人聞きの悪い言い方をするな。少し、微笑んで話しかけただけだ。そしたら、好きに資料を見せてくれた。ただ、それだけだ」


ヴィクトールはバツの悪そうな顔で、プイッと横を向いた。

エマはヴィクトールの思いがけない告白に、一瞬、何を言われているのかが分からなくなった。


――ヴィクトールが……女性に微笑みかけて、お願いごと……?


いつもの様子からは全く想像できない。

ルシアンは久しぶりにいつもの調子を取り戻し、楽しそうにヴィクトールを揶揄いを始めた。


「そんなわけないだろう。肩は抱き寄せただろうな。もしかしたら、口づけ、それ以上も……」

「するか!」


―――ヴィクトールが……私以外の女性の……肩を、唇を、身体を……。


ルシアンの冗談が、エマの真っ白になった頭に残酷に響いた。


――私……以外、の……。


エマの頭の中には、ヴィクトールが自分以外の女性と情事に更ける姿が生々しく浮かんだ。

誰かも分からない想像上の女性に、言い知れないほど胸をかき乱された。

自分の妄想に事実以上の衝撃を感じ、目の奥が熱くなるのを感じた。

ルシアンの言葉に明らかに顔色が曇ったエマを見て、ヴィクトールが慌てた。


「え? エマ? そんなことするわけないだろう!」


ヴィクトールが慌ててエマの肩を抱き寄せた。

が、先ほどの想像がヴィクトールに重なり、ヴィクトールに触れられるのが怖かった。


「やっ」


反射的にヴィクトールの手を避けてしまった。

その拒絶は、想像以上に深くヴィクトールの胸を抉った。


「エマ! 私がそんなこと、するわけないだろう」


エマはヴィクトールに疑いの視線を向けてしまった。


「どうだろうな」

「話をややっこしくするな! 全部嘘だ!」


ヴィクトールの調査方法を巡って、王宮に着くまで車内の喧騒は収まらなかった。


◆◆◆


――こんなことになるなら、資料なんか見せてもらわなければ良かった。何もしていないのに、あんなにエマに疑いの目を向けられるなど……――。


ヴィクトールは、事件早期解決のためにひと肌脱いだつもりだったが、あまりに有益な情報をあっさり入手したことで要らぬ疑いをかけられてしまった。


――ルシアンも面白がって、話をかき乱すし。最近は殊勝な態度を取っていると思っていたが、やっぱり油断ならない男だ。少し気を許したのが間違いだった。


本当にただ話しただけだと理解してもらうのに、どれだけかかったか。

そもそも、ネイト侯爵の病院は、外観は立派だが職員教育は大してされていないのだろう。

まあ、あの侯爵と息子なら、職員の人望がなくとも仕方がないだろうが。


「ヴィクトールが見た資料を信じると、レイマ草の購入量は確かに多いが、あの状況を見るとレイマ草の使用量も多いのも仕方がないようにも思える」

「市井に横流しするために、明らかに大量なレイマ草は、表向きは購入していなさそうだ。購入量と使用量も資料上は概ね合っていた。だから、あっさり見せたのかもしれない」


ハニートラップなんかかけなくても、大した資料ではないなら見せても不自然ではない。


「じゃあ……闇月教会が使っているというレイマ草は、また別の入手ルート、ということでしょうか?」

「そうかもしれないな。少なくとも、ネイト侯爵が表向き購入しているものとは別のルートなようだ」


夜会のときのやり取りで、エドガルに怯えるアルマンドの様子から、何か繋がりはあるような気はしていたけれど、それは闇月教会とは関係のないことだったのかもしれない。


「そういえば、アルマンド様の容態は……」

「ああ、回復はしているようだが、証言はまだ。ジゴレーヌ子爵令嬢も、動揺しているようで証言が支離滅裂だとも言うし……」

「カール伯爵も、レイマ草を使用していた部屋については本当に知らない様子だったようだ」


一体だれが嘘をついているのか。

見えそうで見えない。届きそうで届かない。そんな状況がずっと続いている。


「――レイマ草を……自生させて精製させれば……別に、購入する必要は、ないわ」


ふと、エマの頭にそんなことが過った。

レイマ草は草むらや山林に自生することがある。

精製だって特に手間はかからない。

自分で作ることは、割と簡単だ。


「そうか……」


ルシアンはエマの言葉にヒントを得たようだった。


「病院から少し離れた場所に、ネイト侯爵が所有する山林がある」


三人の目が合った。

レイマ草が自生しているところを見つけることができれば、入手ルートは突破できる。

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