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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第47話 熱

――あれは、何の薬なのだろう?


エマはエドガルが治療を終えた騎士に飲ませている薬を見た。

病室内の負傷した騎士たちは総勢50名を超えた。休憩なく、ひたすら治療を続け、終わったときには陽が暮れていた。


――ああ……。さすがに、くたくた。


最後の騎士に魔力を施し、足がガクッとふらつくことに気が付いた。


「危ない……」


隣で治療していたルシアンが、サッとエマの身体を支えた。


「あ……ありがとう、ございます。ルシアン殿下」という言葉に重なるように、エマの身体がふわっと持ち上がった。


「ありがとうございます。ルシアン殿下」


ルシアンに支えられた身体をヴィクトールがすぐに抱き上げ、エマが言うべき言葉をルシアンにかけていた。


「あ、ヴィクトール……いつの間に」

「そろそろ限界だろうと思って様子を見に来て良かった」

「――……そうか。さすがだな。見張っていたのかと思うタイミングの良さだ」


ルシアンはあまりのタイミングの良い登場に、乾いた笑いをもらした。


「見張ってはいないが、定期的に様子は見ていた。エマはすぐに無理をするからな」

「……そう、か。さすがだな」


ヴィクトールの過保護に、エマは顔を赤らめた。


――こういうことを、嬉しく思っちゃうのも……問題なのかしら。


「中軽傷の負傷者たちも、症状をまとめて持参した薬も服用させた。資料はレイヤードが救護員に渡したから大丈夫だ。とりあえず、今日出来そうなことは終わった。君たちも、もう限界だろう」


エマも、ルシアンも、エドガルも、自分の限界を超えていた。


「応急処置としては十分だ。少し休まなければ、明日以降やっていけない」

「それもそうだな」

「馬車も呼んでおいた」

「――ヴィクトール、何から何まで……」

「エマのためだ。私は治療ができないから、それ以外のことをやっただけだ」


――また、照れているのかしら。


エマはヴィクトールに抱かれながら、少しおかしく思った。ヴィクトールのこういうところが好きだ。エマがヴィクトールの立場だったら、自分だけ役に立っていないと卑屈になっていたかもしれない。でも、ヴィクトールはいつでも、冷静にその場で自分のできることを判断して行っている。


「エメリン様、ノクス卿、本当に助かりました。王家を代表して感謝申し上げる」


疲れ果てているだろうエドガルは、二人に丁重に頭を下げた。


「エドガル殿下、そんな……」

エマが恐縮すると、ヴィクトールは静かにエドガルを見返した。


「私たちも、ルーク王国ではルシアン殿下に大変世話になりました。彼が困っているときに、力を貸すのは当然のことだと思っています。ですから、お気になさらず――」


ヴィクトールは、淡々とエドガルにそう告げた。

ヴィクトールの言葉に、ルシアンは少し驚いたように目を見開いていた。

エドガルは「そうか」と言い、「もちろん、ルシアン。君にもとても助けられた」と笑った。

エドガルの笑みは、とても静かだった。


「私は王家のものですから――当然の、ことです」

「君が帰って来て、とても助かったよ」


王家の人間と言えど、父王は土魔法属性、兄は火魔法属性。

魔獣討伐や戦争ではある程度力を発揮するが、こういった治療の現場で力を発揮することはできない。

ヴィクトールのように、下働きを買って出るようなタイプでもない。


――このようなときは、常に叔父上が何とかしていたんだな……。


ルシアンはエドガルの献身に、エマの姿が重なった気がした。


――……そんな、まさか。叔父上は、あの国家転覆を企む闇月教会の教祖だぞ。エマの姿が重なるなんて、そんなこと……あるわけ、ない。


「私は病院のものと明日以降のことの相談もあるから、さきに帰ってくれ。今日は本当に助かったよ」


エドガルは笑顔で私たちを見送った。


◇◇◇


「少し、熱があるようだ」


ヴィクトールが寝室でエマを抱きしめながら、そう言った。

確かに心なしか、身体が火照っているような気もする。


ヴィクトールはエマのおでこを触る。


「熱いな。熱さましがあったな。侍女にタオルと水を持って来させよう」


ヴィクトールの指示ですぐに侍女が冷たいタオルと水を持って来てくれた。


「大丈夫ですか? エメリン様」

「遅くに、ありがとう。ちょっと、疲れたみたい」


年長の侍女――ネリーは、心配そうに眉根を寄せてエマの首筋に冷たいタオルを当てようとした。

が、その手をヴィクトールが止めた。


「エマの世話は私がするから、君はもう下がっていい。準備は、ありがとう」


ヴィクトールは有無を言わさぬ様子で侍女を下がらせた。

部屋を出る際、ネリーはチラッとベッドサイドに置かれたエマのネックレスに目をやった。


「――どうかしたか?」

「……いえ。何かありましたらいつでもお申し付けください」

「ああ、宜しく頼む」


ネリーはニコリとほほ笑むと、恭しく部屋から退出した。


ヴィクトールは、ネリーが持ってきたタオルでエマの身体を拭った。


「……ん。冷たくて――気持ちが良い、です」


目を閉じながら、タオルの冷たさを感じていた。

ヴィクトールはエマを横に寝かすと、熱さましを口移しで飲ませた。

タオルの冷たさに癒されていたところに、ヴィクトールの熱い舌が口内に侵入してくる。

熱い身体がさらに火照ってしまいそうだと思っていると、ヴィクトールの唇がそっと離れた。


「あっ……」

「ほら、薬ちゃんと飲んで」


ヴィクトールに頬を撫でられた。

ヴィクトールが口移しで含ませた薬を嚥下した。

エマが薬を飲んだことを確認すると、ヴィクトールがエマのおでこにキスをした。

熱でなのか、先ほどの口移しでなのか、潤んだ瞳でヴィクトールを見つめた。


――もっと……、キス、してほしい。


ヴィクトールはそんなエマを見つめて、小さくため息をつき、唇にちゅっと口づけた。


「今日はこれでおしまい。風邪引いているエマに無体を強いる夫にするつもりか……」

「――……だって」

「エマ、私の理性を試すのはやめてくれ」


ヴィクトールに窘められてしまい、エマは布団に顔を引っ込めた。

そんなエマを愛おしむように、ヴィクトールは後ろから包み込んで頭を撫でた。

ヴィクトールの温もりをずっと感じていたかった。


――熱が出ているからって……こんなに甘えたくなるなんて。


自分がいかにヴィクトールを欲するようになっていたかをエマは思い知っていた。

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