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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第39話 銀細工

潮風が肌を心地よく撫でた。

ディベリア到着の翌日、さっそくルシアンが港町を案内してくれた。

到着したときも思ったが、本当にこの街は賑やかだ。

カラフルで様々な色に満ちている。すごい。こんなところ、見たことがない。

ぽーっと街を見ていると、ルシアンがくすりと笑った。


「エマ、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。色々案内したいところはあるんだけど、まあ、ディベリアと言えば銀細工。アトリエを見てみないか?」

「アトリエ!? 見られるんですか?」


エマの瞳がキラキラ輝いた。


◇◇◇


ルシアンが見学させてくれたアトリエには10人ほどの職人がいた。

壁面には、金槌、やすり、ペンチなど使い込まれた道具が整然と並んでいる。

金属を削る音、やすりがけの音も響く。

職人たちは、慣れた様子で次々と繊細な銀細工を加工している。


「……魔法みたい」


職人たちの手慣れた様子を見て、エマは思わず呟いた。

魔法が仕える職人などいないのは百も承知だったが、あまりに美しいものを手際よく生み出す姿に魔法のような力すら感じた。

ヴィクトールも職人たちの姿を見て感心しながら、「本当だな」とエマの言葉に同意した。

ルシアンはそんな二人の様子に満足そうな顔をした。


「そろそろ店の方も見てみる?」


ルシアンの声かけで、アトリエを後にした。

いつまでも見ていられると思ったが、いつまでも見られては職人たちも作業がしにくいはずだ。

後ろ髪を引かれる思いで、店内へと向かった。


――私の髪飾りも、こんな風に大切に作られたのね。


エマは自分の髪に輝く髪飾りが余計に誇らしく感じた。


「私の魔石も作ってくれたんだね」


エマの髪飾りを観察しながら、ルシアンが言った。


「ヴィクトールもずいぶん成長したようだ」


エマにこそっと囁いた。エマもヴィクトールに気付かれないようにそっと頷いた。


店のショーケースには、先ほどの職人たちが作っていたであろうありとあらゆる銀細工が並ぶ。

指輪、ペンダント、ブレスレット、アンクネット、髪飾り、ブローチ、タイリング、鏡、置物……。


やっぱり美しいものを見るのは、心が躍るわね。


「エマ、気に入ったものがあったか? ディベリアに来た記念だ。どれでも気に入ったものをプレゼントしよう」


キラキラした目でショーケースに並ぶ商品を見ていると、ヴィクトールに声をかけられた。

そういうつもりで見ていたわけではないけれど……、欲しくないと言えば嘘になる。

どうせ買うなら……――。


「お揃いで――つけられるようなものは、あるかしら?」


チラッとヴィクトールを見た。

星まつりのときにも、しおりとペンをお揃いで買った。

しおりも、ペンも、見る度にヴィクトールのことを思い出してふわふわした気分になる。

ヴィクトールも、使うごとに私のことを思い出してくれていると嬉しい。

そんなことをエマは願うようになっていた。

お揃いのものが増えたら、それだけヴィクトールがエマを思い出してくれる。


「――……揃いのものか。それもいいな」


ヴィクトールはエマの言葉に嬉しそうに微笑んでくれた。


「お揃いか……。それなら、モチーフを揃えて、エマはブローチ、ヴィクトールはタイリングとかはどうだ?」


ルシアンが二人に割って入って提案した。

店員もルシアンの提案にオーバーに同意した。


「それは素敵ですわ。夜会などでもコーディネイトをさり気なく揃えられますね」


確かにそれは良いかもしれない。

ヴィクトールはあまり装飾品を身に付けないし、タイリングならつけやすいかも。

ヴィクトールを見ると、彼もそう思ったようだ。

ルシアンは二人の同意を感じたのか、次々新たな提案をしてくれる。


「そうだな。モチーフは、花はどうだ。せっかくディベリアに来てくれたんだ。ディベリアの国花・フローラリアがおすすめだ。ほら、このモチーフだ」


花紅茶でも飲ませてもらったものだ。

ピンクの花びらが美しかったし、香りもとても良かった。

花自体もこんなに華やかなんだ。


「いいな、このモチーフにしよう」


ヴィクトールもフローラリアを気に入ったようだ。


「レースのものも繊細で良いし、透かしになっているのもいいな。エマはどっちが好きだ?」


同じモチーフでも雰囲気が全然違う。

レースも、透かしもどちらも素敵過ぎて悩む……。


「ヴィクトールは……、どっちが良いと思う?」

「うーん……。確かに迷うな。エマはどっちも似合いそうだ」


ヴィクトールも真剣に見比べている。

どちらも本当に素敵だ。でも……。


「――……透かしの方が良いと思うのだけど、どうかしら?」


――ヴィクトールの服装を考えると、レースよりも透かしの方が似合いそうだと思った。


「うん、いいね」


ヴィクトールが微笑んだ。


「決まったか。じゃあ、それは私からプレゼントする」

「え?」

「私から二人への親愛の証だ。君、このブローチと、タイリングを2つ」

「2つ?」


ヴィクトールはルシアンの言葉に眉根を寄せた。


「ん? お揃いにするんだろう?」


ルシアンは楽し気に笑った。


「エマはブローチ、私たちはタイリングだ」

「……なぜ、殿下も同じものを?」


ヴィクトールの声が一段低くなる。


「私だけ仲間外れにしようとしていたのか?」


ルシアンはわざとらしく肩を落としてみせた。


「あなたもお揃いなんておかしな話でしょう」

「友情の証だと思ってくれればいい。ディベリア流の歓迎というやつだ」

「結構です」


即答だった。

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