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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第21話 嵐の予感(ヴィクトール視点)

エマを伴って夕食の席につくと、同じタイミングでルシアンが現れた。


本当はあのまま寝室に籠りたかったが……。

エマが皆との夕食には顔を出すべきだと言うのだから、仕方ない。乱れた服を元に戻し、何食わぬ顔で食堂へやってきた。

まあ、まだ夜は長い。

夕食後にも、存分にエマを味わえば良い。

ルシアンはヴィクトールの頭の中が見えているような、意味ありげな視線を向けた。


「ずいぶん、仲良く()ができたようだな」と言いながら、ルシアンが席についた。

「おかげさまで」とヴィクトールは平然と答えたが、エマは俯いて顔を赤らめた。


エマは恥ずかしそうに、ルシアンを見ると

「殿下にはご心配をおかけして……。ありがとうございました」と頭を下げた。


その様子にルシアンは満足気に頷いた。


「エマのためなら、お安い御用だ。何か困ったことがあれば、すぐに言いなさい」

ルシアンの申し出に「はい」とエマは素直に答えた。

その様子にヴィクトールは、眉根を寄せた。


――確かに今回はルシアンに感謝しない部分がないではないが……。

そんな素直な反応は、私にだけ見せればいいのに――。


「エマの困りごとは、()である私が対応しますからどうぞお構いなく」

「“エマの困りごと”が何を言っているんだ。――……全く、困った奴だな。私は、今日は()が痛くて政務が捗らなかったというのに……。自分はずいぶんとすっきりとした顔をして。なあ、ユマーノ」


後ろに控えるユマーノは、微妙な表情をしながら主人に同意した。

ルシアンは今朝ヴィクトールが叩いた手を大げさに擦った。


「誰かの馬鹿力がなぁ……」

「――今朝の件は、失礼いたしました」

「宜しい。今回の貸しはでかいからな」と、ルシアンはヴィクトールを刺すのを忘れなかった。

少し遅れて両親が現れて、いつもの夕食の風景になった。


◇◇◇


「え? クラリスが?」


エマは聞きなれない名前に、きょとんと私を見た。


「ヴァレンシュタイン家に依頼したものを、クラリスが運んでくれるそうだよ」と、父が言った。


西の森や魔獣の調査のために、ヴァレンシュタイン領の土壌や植物採取を依頼していた。

母の生家であるため、公にしにくいことも依頼し合う仲だ。

すぐに対応してくれるのは有難いが――。


「何もクラリスが持って来る必要は……」

「結婚式も来られなかったから、ヴィクトールたちのお祝いもしたいそうだよ」

「遅かれ早かれ来るとは思っていたけれど……」


母は複雑そうな笑みを浮かべた。

母にとっては、クラリスは可愛い姪だ。

幼少期は、クラリスがノクス家の“娘”のように振る舞っていたこともある。

エマとの婚約が決まらなければ、家格や年齢のバランスから見ても、ヴィクトールと婚姻を結ぶのはクラリスの可能性が高かった。周囲の貴族たちも、勝手にそう思っている者が多かっただろう。

正直に言えば、ヴァレンシュタイン家から何度かそれとなく打診もあった。

しかし、ヴィクトールが頑として首を縦に振らなかった。

子どもの頃からクラリスを知っているヴィクトールは、自分と合うとはとても思えなかった。

もちろん、貴族の結婚は割り切らなくてはならない部分もあるが、それにしてもクラリスでなくても良いだろうと思っていた。

厄介なのは、クラリスだけはそうではなかったということだ……。


ヴィクトールとエマの結婚式にも、来られなかったのではなく、来なかったのだ。

エマとの突然の婚約に機嫌を損ねていると、母が困ったように話していたのは記憶に新しい。


クラリスとしては、ヴィクトールの婚約者候補のつもりでいたのだろうが。

勝手に機嫌を損ねて、周囲が振り回されるのは良い迷惑だ。


母は気遣うように、チラリとエマを見た。


「エマ、クラリスは私の兄の子どもで、ヴィクトールにとっては従妹なの」

「そうなんですね」

「子どもの頃から、ヴィクトールにも懐いていて、よくここにも遊びに来ていたのよ」

エマは母の言葉に頷くと、「私も仲良くなれるように頑張りますね」とほほ笑んだ。

「ええ……そうなるといいんだけど――」


――難しいだろうな。


クラリスを知っているものたちは皆内心そう思っていた。

典型的な貴族令嬢のクラリスが、そこから最も遠いエマと親しくするとは思えない。

しかも、自分が収まると勝手に思っていたヴィクトールの婚約者の座を奪われているのだ。

嫌な予感しかない。

ルシアンは王都で面識があるだろうし、年齢的にはレイヤードもアカデミーで一緒だったのだろう。

複雑な顔をしている。


「その――……悪い子じゃないのだけど……いろいろと、面倒で……」


母は言葉を選べば選ぶほど、どう伝えればよいかが分からなくなったようで、黙り込んだ。

母の懸念は、最もだ。


――ああ……クラリスが来るのか。大人しくしていればいいが……。まあ、無理だろうな。


一人事態を分かっていないエマは、静かに食事を続けていた。

どう考えても、エマと合うタイプには思えない。

仕方ない。さっさと帰るように促すしかないな……。


両親の内心も、きっと同じようなものだろう。


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