表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/96

第14話 密談

「ナタリー……。君を信頼して相談したいことがある」


これ以上ないほど深刻な顔をしてヴィクトールがナタリーを訪ねた。

しかも、エマがルシアンとレッスンをしている時間を狙って。


――どうされたのかしら? ルシアン殿下と一緒のときは、必ず奥さまのお傍を離れないのに……。


ナタリーは、初めて見る意気消沈したヴィクトールを目にして動揺した。


「ど、どうされたんですか? 旦那さま。そんな……私にご相談なんて……」

「君にしか、相談できないことなんだ」


心なしか疲れた顔をしたヴィクトールが、縋るようにナタリーを見た。

ヴィクトールの執務室に通されたナタリーは、そのシチュエーションに既視感を覚えていた。


――そういえばあのときの“尋問”も、この部屋だったわ。それにしても、今日はずいぶん肩を落とされているみたい。


「その……」


ヴィクトールは言い出しにくそうに、ナタリーに「エマと……喧嘩をしてしまって」と切り出した。


――奥さまと、喧嘩!?


ナタリーがヴィクトールの言葉に瞠目した。思わず言葉を失う。


あり得ない。10年エマの侍女をしているが、エマが誰かと喧嘩をすることなどほぼ見たことがない。

弟のエドワードとは子どもの頃は多少喧嘩をすることはあったが、それも長引いたことなんか一度もない。二人とも穏やかな気質だし、さっぱりもしている。いつの間にか元通りになっていた。


ナタリーが驚きで言葉を失っていると、ヴィクトールが絶望したように頭を抱えている。


「昨夜、誠心誠意謝罪したのだが……」


昨夜はあの後、口づけも許して貰えなかった。

眠るときに抱きしめるのはなんとか許してもらったが……。

今朝もなんだか……、冷たかった。


朝食のときは、給仕の仕事を奪ってエマの世話をするのが日課になっている。

いつもはヴィクトールが選んだパンを微笑んで受け取ってくれているのに、今日は礼は言ってくれたが、すぐに目を反らされてしまった。


このままでは“エマ成分”が不足するのが目に見えている。

抱きしめているのに、口づけも……、それ以上のことも、させて貰えない……。

それがこんなにも堪えるとは思わなかった。

さすがにナタリーにそこまで相談することは、ヴィクトールの矜持が許さないが。


「一体、何があったのですか……?」


驚いたナタリーが、最もな質問をヴィクトールに投げかける。

ぐっとヴィクトールが言い淀む。


――相談しているのに、理由は言わないなんて……そんな不誠実なことはないのは分かっているが――内容が内容なだけに……。


「失礼いたしました。お話されなくて、結構です」


ヴィクトールが言い淀んでいると、ナタリーが慌てて質問を撤回した。


「いや、その……。すれ違いというか。私の独占欲が過ぎたのかと……」


ヴィクトールが、いつもの様子とは違い、ポツポツと途切れ途切れに言葉を紡いだ。

ナタリーはそのヴィクトールの様子に、なんとなく事態を察した。


――もしかして……。

昨日の衣裳選びのとき、奥さまはずいぶん恥ずかしそうにされていた。

もしかして、あのこと……?


ヴィクトールが赤くなった目元を隠すように手で覆い、ナタリーから視線を反らす。


――そういうことだったら、奥さまは怒ってはいないとは思うけれど……。


ナタリーは、困り果てるヴィクトールの姿を見て、主人の意図をなんとなく察していた。

もしかしたら、お灸を据えていらっしゃるのかしら。

身体中に残った“跡”に戸惑っていた奥さまからはずいぶん変わられたみたい。


「旦那さま、そんなに気にされなくても、奥さまは大丈夫だと思います」

「そうか……?」

「旦那さまの愛は、奥さまには十分伝わっていますわ。ただ、奥さまは戸惑われているのだと思います。旦那さまが奥さまの意思を尊重されましたら、元に戻られると思います」


安心させるようにナタリーは微笑んだ。


「そう……か」


ヴィクトールは執務室から、エマとルシアンのレッスンの様子を盗み見た。

監視はレイヤードに任せたが、エマとルシアンがリラックスした表情をしているのが目に入る。

ヴィクトールは、ちりっと胸の奥が痛むのを感じた。


――分かってる。エマが私を愛してくれているのは。でも、それとこれは別なんだ……。


エマの視線の先にいるルシアンを忌々しく睨んだ。

勘の良いルシアンが、窓辺に立つヴィクトールに気付き笑った。


――なんなんだ。あの優越感たっぷりの笑みは。


ルシアンの様子が、またヴィクトールのイライラを容赦なく掻き立てる。


――ダメだ。こんなことでイライラしていては……。余裕のない男は嫌われる。


ケイティから借りて読んだロマンス小説には、そんなことが書いてあった(気がする)。

エマはロマンス小説はあまり読まないようだが、読まなくたってこんな嫉妬深い態度を好むわけがない。だからこそ、あんなに“跡”に怒っているのだろうし。


ヴィクトールは目を閉じて、息をすーっと吐き出して自分の心を落ち着けた。


「旦那さま、どうかされましたか?」


窓辺に立ったまま硬直しているヴィクトールをナタリーが心配している。


「ああ、なんでもない」

「あ、奥さまと……ルシアン殿下」


ナタリーがヴィクトールの心中を察したような視線を向けた。


「大丈夫だ。ただのレッスンなのだから。別になんでもない」


ヴィクトールは自分に言い聞かせるように、やたらとはきはきと答えた。

その顔は久しぶりに“氷の貴公子”そのものだった。


――本当に……大丈夫なのかしら?


大丈夫だという人間ほど、大丈夫ではないとは古今東西常識のようなものだ。しかし。目の前にいる“無敵”の主人が「大丈夫だ」と言っているのだから、大丈夫ではないと扱うのは不敬というものだろう。


「失礼いたしました」

「いや。ナタリー……エマに贈り物をすることにする。クロードに商人を呼ぶよう言っておいてくれ」


ヴィクトールは、婚約時にカイルに言われた“令嬢には贈り物を”というアドバイスに縋らなければならない精神状態だった。


「かしこまりました。奥さまもお喜びになることと思います」

「君にそう言ってもらえると心強いよ。ナタリー、ありがとう。もう下がっていい」


そういうと、ヴィクトールは何かを抑えるように微笑を称えてナタリーを送り出した。


――本当に、大丈夫かしら……。


そんなヴィクトールの様子に、ナタリーは小さな不安を拭えずにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ