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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第7話 義父の判断

「西の森へ?」


ノクス観光を終えて、父の執務室へ向かった。

事情を話すと、父は少し考えたようだが思いのほかあっけらかんと「いいんじゃないか」と言った。


「エマの言うとおり、魔獣の減少について、私も情報が知りたいとは思っていた」


エマの申し出は、父にとっても願ったり叶ったりということか。


「ただし、魔獣が減少しているとは言え、油断はできない。ノクスの騎士たちは連れて行け。それが絶対条件だ」


ヴィクトールよりも普段は人当りの良いアレクシスではあったが、やはり血を分けた親子。

有無を言わさぬ圧は、むしろヴィクトールを上回るものだった。


「――はい。承知しました。では、早急に騎士の予定を調整し、近日中に西の森へ向かう予定を立てます」

「うむ。任せたぞ、ヴィクトール」


◆◆◆


――ヴィクトール様はまだかしら。やっぱり、お義父さまの許しが出ないのかしら。


エマは「西の森へ行く」提案が、安易に通ると思っていたわけではない。魔獣出没が減ったとて、ノクスの魔の森と言えば、王国内で知らない者がいない。エマがノクスへ赴いたときだって、ヴィクトールは魔の森で次々出没する魔獣討伐にかなりの時間が割かれていた。遊びに行くような場所ではない、なんて一喝されるなんてことは……。


「やっぱり、軽はずみな申し出だったかしら」

「今更そんな反省は姉さんらしくないね」


エドワードは、お茶をすすりながらエマに突っ込んだ。


「私だって反省くらいするわよ。ヴィクトール様にご迷惑をおかけしたいと思っているわけじゃないもの」


本当にこの弟は、子どもの頃から辛辣だ。

とは言え、彼の明るさが“不気味令嬢”として生きていたエマにとって、どれほど救いだったかは言うまでもない。


「姉さんの頼み事なんか、あの義兄さまは何とも思ってないよ。むしろ、もっと我儘言った方が喜びそうだよ」

「エドワード、あなたヴィクトール様を何だと思っているの」

「だってさ、ねえ、レイヤード。レイヤードもそう思わない?」


護衛騎士として部屋で控えていたレイヤードに、エドワードは急に声をかけた。

レイヤードとは幼馴染だが、結婚してから富に“護衛騎士”と“奥様”という距離を心掛けている。

以前、気にしなくていいと言ったら、「まだ命が惜しいから」と言うよく分からない返答で、結局何も変わらなかった。


――まあ、レイヤードも仕事中なわけだし、公私を分けているのに私が邪魔をするのもね。


幼馴染が大人になったことを少し寂しく思ったが、そんなことを思って納得した。


「まあ……。ヴィクトール様はエマが何を言っても、迷惑に思うことはないんじゃないか」


レイヤードは、エドワードがいるからか、前のような調子で答えた。


「だろう?」


頷くレイヤードに満足して、エドワードは得意気に私を見た。


「あなた方、ヴィクトール様をなんだと……」

「なんだとって、姉さんを溺愛している夫だと思っているよ」

「溺愛!?」

「え? 何、姉さん。あんなに大事にされているのに、気付いてないの?」

「あんなにって……」

「あんなにだろう。結婚式ではお姫様抱っこ、パレードでは口づけ、朝はデレデレした顔で姉さんを見ているし。“氷の貴公子”と結婚するっていうから、少し心配していたけど心配して損したよ」


お姫様抱っこや口づけには心当たりはあるけれど……。


「デレデレって……。ヴィクトール様はそんな顔されてないでしょう?」

「してるよ! ねえ、レイヤード」

「――……」

「言っておくけど、沈黙は同意だよ。レイヤード」

「黙秘する」


――弟にそんなこと思われていたなんて……――。


ちょっと……いや、かなり恥ずかしい状況では……。


「ずいぶん楽しそうだな」


ノックをして、ヴィクトールが入って来た。


「何の話?」


ヴィクトールがエマに笑顔を向けてくる。


「え……。何でもありません。エドワードがいつも通り、つまらないことを言っていて」

「つまらないこととは何だよ」


二人の様子を見てヴィクトールはクスクス笑い、「仲が良い姉弟で何よりだ。私はきょうだいがいないから、エドワード殿のような義弟ができて嬉しいよ」と言った。


「こちらこそ、ヴィクトール様が自分の義兄だなんて身に余る喜びです。ところで、義兄さま、そろそろ私のことも“エドワード”と呼んでください。敬称は不要です」

「ああ、では私のこともエマと合わせて義兄さんにしてもらいたいな」


ヴィクトールとエドワードは、お互いに目を細めた。


――二人の気が合ったようで本当にほっとしたわ。ヴィクトール様のご家族もとても良い方だし。私は恵まれた結婚ができている。


「ヴィクトール様、西の森の件は……」

「ああ、了承していただいたよ」

「え?」

「父も西の森で魔獣が減少した件を気にしていたから、エマの申し出はむしろ幸いだったみたいだ」

「そう、だったんですか」


――良かった。自分の申し出で、ヴィクトール様を困らせたわけではなくて……。


「遅くなったから心配した?」

「あ……。少しだけ」

「騎士たちは連れて行くようにと言われたから、伝令だけ先に出していたんだ。早めに予定が調整できた方が良いと思って。心配させて悪かった」

「そうだったのですね。いえ、ありがとうございます」

「おそらく、今週中には行けるだろうから」

「残念だな。折角なら僕も一緒に行きたかった」


エドワードが少しがっかりして言った。


「エドワード」


遊びじゃないのよ、と言外に込めて睨むと「はい、はい」と誠意のない返答をして来た。


「レイヤード、手紙を待っているよ」


エドワードはレイヤードにいたずらに笑った。レイヤードはエマとヴィクトールの婚約期間もせっせとエドワードに状況報告をしていた。事細かに色々書くものだから、エドワードが面白がって揶揄って来るから困ったものだ。


「レイヤード、余計なことは書かないでよ!」


私がレイヤードに言うと、「何を書いてもらっても良いじゃないか」と、ヴィクトールは楽しそうに笑った。


◇◇◇


「アレクシス殿、この度は不躾な願い出を申し入れてもらい、有難く思っている」


西の森行きが決まったその日の夕餉の際、ルシアンは義父に頭を下げた。


「いやいやいや、頭を上げてください」

「しかし」

「私の方こそ、アステリアの魔獣討伐の話は愚息からも聞いております。ヴィクトールとエマをずいぶんと助けていただき、あなたには感謝しているのです」


そう言って義父はルシアンに反対に頭を下げた。

ヴィクトールは、自分の名前が出たことが少し気まずいのか、ルシアンからはパッと目を反らした。


――なんだかんだ言って、ヴィクトール様もルシアン殿下には感謝しているのね。


「それに、エマが了承しているものを私が反対するのはおかしな話です。エマの力はノクスのものではない。エマが誰のためにその力を使うかを決めるのは、私ではなく、エマ自身だと思っているのです」


義父はそう言って、エマに微笑みかけた。


――ノクス家の人たちは、いつもエマの意思を尊重してくれている。それがどれ程有難いことか。


エドワードの眼差しが「良かったね」と言っていることに気が付いた。

私の新しい生活が幸福に始まることを、エドワードに分かってもらえて良かった。

そんな幸福を心の底から感じていた。

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