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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第4話 見送り

「なっ……」


エマは自分の私室に戻り、驚きの声を漏らした。

ドレッサーに映る自分の姿が……。

首から胸に至るまで、点々と残る鬱血の跡。

生々しい跡に昨夜のヴィクトールの執拗な口づけも思い出した。


――何、これ……。


これからカイル殿下やケイティ、両親の見送りもあるのに……。

こんな姿では……。鏡に映る自分の姿は痴態としか言いようがない。

よく見ると、跡は身体中に広がっている。太ももの内側にまで残っている。

夫婦の営みはおかしなことではないでしょうけど。

でも、こんな……“いかにも”な跡をつけてみんなの前になんか……出られない……!

エマは自分の身体を見て、青ざめた。


――ヴィクトール様、何をお考えに……。それとも、これが、普通……なの?



エマが困惑で頭を抱えているとき、ナタリーのノックが聞こえた。


「奥様、朝の支度に参りました。宜しいですか?」


――どうしよう。こんな姿……。ナタリーにも、恥ずかしくて見せられない……。


「ちょ、ちょっと……待って」


エマは慌てて夜着の上から、いまはもうすっかり着用しなくなったフードをかぶった。


「どうぞ」

「……奥様? どうなさったんですか?」


部屋の中でフードを頭からかぶるエマに、驚いたようにナタリーが目を見開く。


「その……。ナタリー……」


エマはか細い声で彼女を呼んだ。エマの瞳は動揺で潤んでいる。


「ちょっと宜しいですか?」


ナタリーはいつもの笑顔でエマに近付くと、フードに触れた。

エマはピクッと身体を震わせると、フードを取られまいと抵抗する。


「奥様、フードをかぶっていらしたのでは、朝の御仕度ができません」

「じ、自分でするから……」

「でも今日は皆さんのお見送りもありますし。もう奥様は、リュクノール領のお嬢様ではないのですから、お転婆な格好をなさっていては困ります」

「でも……」

「さっ、失礼いたします」


エマの抵抗空しく、ナタリーにフードを取られてしまった。


「ああ!」


エマの身体に残る跡を見て、ナタリーが目を見開く。


「これは……」

「その……。さっきこんなことになっていることに気が付いて……。こんな身体ではみんなの前には出られないし……」


エマは必至の言い訳に涙が潤む。


「――ナタリーがヴィクトール様にお任せしろって言うから、その通りにしたんだけど。これって、おかしなことではないの……?」


身体に残る跡を隠しながら、エマはらしくなく、思わずナタリーに恨みがましく言った。


「奥様……」


ナタリーは動揺するエマに少し同情した。

ここまで跡を残すのが普通かと問われると……――。

ナタリーは言葉に窮した。

しかし、動揺する奥様を不安にさせるわけにはいかない。

ナタリーは落ち着かせるように、椅子に座らせ、エマの肩をポンと包んだ。


「変なことではありません。ヴィクトール様は、奥様を愛していらっしゃるんですわ」


ナタリーはエマを安心させるように笑った。


「そ、そういうものなの?」


エマの目が若干疑っていたが、ナタリーは思い切り笑顔で頷いた。

ナタリーの様子を見て、エマは少し安心したようだった。


「でも、この跡はなんとかして隠さないと……」

「大丈夫です。奥様」


ナタリーはエマの衣裳を手際良く確認し、襟ぐりが詰まっているドレスを選んだ。


「これなら素肌はほぼ見えません!」


季節感には合わないけれど、それはもう仕方がない。

エマはほっとしたように笑った。


「皆さんのお見送りもできますから、ご安心ください」

「ありがとう、ナタリー」


エマは心の底からナタリーに感謝した。


ナタリーはエマの支度をしながら、襟の高い衣裳を増やしておかないとダメだわと考えていた。


◇◇◇


「お姉さま、もうお別れなんて寂しいわ」


ケイティは馬車に乗り込みながら、目を潤ませた。


「ケイティ、またアステリアに遊びに行くわ」


エマがアステリアを立つときも、ケイティは別れを惜しんでくれた。

本当はもう少し一緒に過ごしたかったけれど、カイル殿下はノクスに長居はできるお時間はない。ケイティを一人残ることもお許しにならなかったので、式翌日にはアステリアに戻ることになっていた。両親も二人の予定に合わせて、帰ることになっている。


ケイティとの別れを惜しんでいるエマを余所に、カイルはヴィクトールを呼び寄せ、「ずいぶん仲が良さそうだが、ほどほどにしろよ」と囁いた。カイルはエマの服装をチラッと見た。ヴィクトールは「善処するよ」と悪びれずに応えた。


「ケイティ、たまにはリュクノール領にも来てよ。カイル殿下も良ければご一緒に」

「ああ、ぜひお伺いしたいな」

「ええ、お兄さまもお元気で」

「気をつけてね」


もう少しノクス領に滞在するというエドワードは、ケイティと一緒に見送った。

エドワードは明るくみんなに手を振っている。


「ルシアン殿下にまでお見送りいただき、誠にありがとうございます」

「ああ、カイル殿下には留学中ずいぶん世話になった。道中気をつけてくれ」


ルシアンは、アステリアには戻らず、このままノクスに少し滞在し、ディベリアへ戻る予定のようだ。


ヴィクトールと義父母は、エマの両親に挨拶をしている。

「いつでもお越しくださいね」と、義母が母に声をかけてくれているのが聞こえる。


「エマ、皆さまと仲良くね」と、母が私に声をかけた。

「ええ、お父さまとお母さまも気をつけて」


馬車はゆっくりと、アステリアに向かって行った。

馬車が小さくなって見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。

前は見送られる側だったけれど、見送る側はなんだか寂しいわね。

あっという間に、賑やかだった日々が終わり、日常に戻っていくのを感じていた。


「姉さん」


エドワードは、手を振り続けるエマに声をかけた。


「何?」

「そんな恰好して、暑くないの?」


寒冷地域のノクスといえど、まだ残暑だ。

エマのように、一切肌を見せないドレスを着ている人は少ない。

エマはエドワードの素朴な疑問に、顔が赤くなるのが分かった。

ルシアンは、その様子に何か言いたげな表情でヴィクトールを一瞥した。


「ちょっと……。体調が悪くて」

「え? そうなの? 大丈夫? そういえば、なんか顔も赤いし……」

「う、うん……。大丈夫よ。そこまで酷くないから」


ヴィクトールはエマの腰を抱くと、「エマ、大丈夫? 本当だ。少し顔が熱い」などと白々しく声を掛けてくる。


――誰のせいで、こんなことになっていると思うの。


キッと睨んでも、ヴィクトールは甘い顔でエマに微笑むだけで何も気にしていない。


「心配するなら、少しくらいエマを休ませてやったらどうなんだ?」


ルシアンがヴィクトールに囁いた。


「ご忠告ありがとうございます。では、今日は家の中でゆっくり休ませることにしますね」


ヴィクトールは、ルシアンに余裕の笑みを称えた。

その様子にルシアンは少し眉を寄せると「先に失礼する」と去って行った。


「儀式が続いたから疲れでも溜まったんじゃない? 引きこもり生活していたから、こういうのは慣れないだろう?」


「そ、そうね。今まで、社交を避けていたバツね」

「少しゆっくりさせてもらいなよ。義兄さまは姉さんにずいぶん甘そうだし」


エドワードがエマを気遣いながらも、ニヤニヤ笑いで揶揄ってくる。


そんな姉弟のやり取りを、事態を察していた義父母は苦笑いで見守った。

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