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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第2章ノクス編

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第1話 パレード

第2章ノクス編スタートします。

基本的には、毎日更新の予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

「エマ……これで私は永遠に君のものだ。私の人生も、この領も、すべて君と共にある。――何があっても、離さない」


ヴィクトールは、エマの唇にそっと優しく触れた。

二人の婚姻を祝福する鐘がノクス領に高らかに響き渡った。


――ああ……、本当に私、ヴィクトール様と結婚したのね。


瞳に映る麗しい貴公子をエマはうっとりと見つめた。

こんな幸せが私に訪れるなんて、思いも寄らなかった。

ルーク王国では忌避される髪や瞳の色、極めつけは闇魔法まで扱う私が結婚できるなんて。

しかも、こんな素敵な人と……。


アイスブルーの瞳にもエマが映っている。

ヴィクトールの新郎姿に見惚れていると、ヴィクトールの形の良い唇がにっと弧を描いた。

その瞬間、エマの身体が宙に浮いた。


「きゃあっ」


突然のことにエマが悲鳴をあげる。

ヴィクトールが急にエマを抱き上げた。


「式も終わったし、次はパレードだな。領民が待っている。急ごう、エマ」


抱き上げたエマの唇に、人目も憚らずちゅっとヴィクトールが口づける。

エマは突然のお姫様抱っこに真っ赤な顔で硬直した。


「ちょっ……。ヴィクトール様、なんで抱き上げる必要があるのです」


身を捩じって降りようとするが、びくともしない。


「君の今日のドレスは裾が長い。歩きにくそうだ。この移動方法が、一番効率が良い」

「こ……効率って」

「領民が待っていると言っただろう」

「ヴィクトール様、歩けますから。おろしてください」

「なぜ?」


理解できないというように、ヴィクトールが眉を上げた。


「なぜって……」


二人のやり取りを生暖かく見守る周囲の視線が気になった。


「は……恥ずかしいからです」

「恥ずかしいなら、私の胸に顔を埋めておきなさい。気にならないから」

「そんな……」


余計、恥ずかしい!

でも、ヴィクトールは全然おろしてくれる気配がない。

これ以上ここで話しても、恥の上塗りになるだけ。エマは恥ずかしさに目が潤んだ。

先ほどまで祝福してくれていたみんなの顔が見られない。

エマは仕方がなく、ヴィクトールの胸に顔を埋めた。


「もう……早く行ってください!」


拗ねたように言い放ったエマに、ヴィクトールはご機嫌で笑う。


「分かったよ」


ヴィクトールはエマを抱きかかえながら、会場を後にした。

みんなの拍手の音は聞こえていたが、顔を上げる勇気はなかった。


◇◇◇


「ヴィクトール様~!」

「エマ様~!」


ヴィクトールの効率良い移動方法のおかげで、パレードの時間には余裕を持って間に合った。

パレード用に装飾された馬車に乗り込み、首都・ノクスフォードへ向かった。


ノクスフォードまでの道程も、多くの領民たちが楽しみに待っていてくれた。

ノクス領へ来たときは、フードで髪を隠していたんだったわ。あのときは、こんなに歓迎してもらえるなんて思いもしなかった。


珍しい「氷の貴公子」の微笑みに、領民たちも心から驚いているようだった。


「ヴィクトール様が微笑んでいるわ!」

「笑顔なんて、子どもの頃振りに見たよ」

「結婚が嬉しいのねえ」


開けた窓からは、往来の声もよく聞こえる。


――私もヴィクトール様の笑顔に、最初は全然慣れなかったわ。


領民たちの戸惑いに、エマは内心うんうんと同意している。


「みんなエマを歓迎しているよ」


ヴィクトールはエマの耳に囁いた。


「聖女さま~!」という声が私の耳にも届いていた。

聖女ではなく、準聖女なんだけど……。と、内心恐縮しながらも、歓迎してくれる領民の声が嬉しい。


――守られるだけじゃない。これからは、私もこの人と一緒に、この領を支えるのね。


ノクスフォードに到着すると、お義父さまとお義母さまが会場で待っていた。

「エマ!」と本当に自分の娘のように、いつも語り掛けてくれるのが嬉しい。

馬車からエマを下すときも、ヴィクトールは当たり前のようにお姫様抱っこをする。

その様子に領民たちから歓喜の声が湧く。

もう抵抗しても無駄だと分かっているので、大人しくして少しでも短時間で終わるのを待った。

上機嫌でステージに上がると、ヴィクトールがエマをそっと下ろした。


「ありがとうございます」というと、ヴィクトールは「どういたしまして」と手の甲に口づけた。

その度に領民から冷やかしの声が湧く。


――もう、勘弁してほしい……。なんでヴィクトール様はそんな平気な顔で手を振っていられるのよ。


「ずいぶんニヤニヤしているわね」


お義母様がヴィクトールに声をかけた。


「領民の歓迎に応えて何が悪いのです」とヴィクトールが開き直ると、「いままでもその調子でやってくれれば良かったのに」とお義母さまがお義父さまに同意を求めるように見た。

お義父さまはどちらにも同意せず、曖昧に笑った。


集まった領民たちには、みんなで“花撒き”を行った。

ノクス領では伝統的なお披露目の儀式だと義母から教えてもらっていた。


「エマ様~! こちらにお願いします」


至るところからかかる声に応えるべく、大量の花をまく。


“花撒き”の花を拾えると、良縁に恵まれると言われている。

特に若い女の子が一生懸命拾ってくれている。

花を拾った男性が、意中の女性なのだろうか渡している姿も見えて本当に微笑ましい。

「……幸せそう」とエマが呟くと、「私も幸せだよ」とヴィクトールがエマのこめかみに顔を寄せた。

その瞬間、領民たちから何度目かになる歓喜の悲鳴が上がった。


「ヴィクトール様……」

「領民へのサービスだよ。喜んでいる」

「だからって先ほどからやり過ぎです」

「そうか。新婚のときの父と母のお披露目もこんなもんだと聞いているぞ」

「え!?」


仲良さそうに花を撒いている義父母を思わず見た。


ヴィクトールの声が聞こえたのか。

「ヴィクトール、私はお前ほどベタベタしていない」と、義父が反論している。

その反論に義母は「あら、そうだったかしら」と楽し気に笑った。

本当に仲が宜しいご夫婦だ。私とヴィクトール様もこんな風に絆を深めていきたい。

二人を見ていると、自然とそう思えた。


花を撒いていると、診療所で出会った騎士が護衛に当たっているのが見えた。

榛色の瞳の騎士が手を振ってくれているのが目に入った。

ああ、あのとき診療所で……――。

エマをノクス領で最初に「聖女」と呼んで感謝してくれた騎士だ。

あれから5カ月くらいかしら……。大分元気になったみたい。


嬉しくなって彼に手を振っていると、ヴィクトールにぐっと腰を抱かれた。

不思議に思ってヴィクトールを見ると、領民に笑顔を向けながら「あまり、私以外の男に笑顔を見せないでくれ」とそっと囁いた。


――……え?


赤くなるエマをよそに、ヴィクトールは平然とした顔で花を撒いている。


「男って……、騎士の方ではありませんか」

「男だろう。君は何も分かっていない」


呆れたようにヴィクトールは小さく息を吐く。

ひそひそとヴィクトールと話していると、ヴィクトールは、じれたようにエマを抱き寄せた。


「きゃっ」


そして、見せつけるようにエマと向き合うと、唇に長い口づけをしてきた。


――ちょっと……ヴィクトール様、やりすぎ、では……。


こんなところで拒否もできず、恥ずかしさに首まで顔が赤くなりながらも、ヴィクトールの口づけを受け入れた。お義父さま、お義母さまも、そんな様子に苦笑いしているように見える。


――うう……いくらお披露目と言ったって、こんな多くの人前で……。


「エマが他の男にそんな笑顔を向けるから悪いんだよ」と囁いた。

エマの瞳は恥ずかしさに潤み、飄々とした様子のヴィクトールを恨めしく思った。

深い口付けのせいでヴィクトールの唇にエマの口紅が移ってしまっていた。そういうヴィクトールは妙に艶めかしい。が、このままにしておくわけにも……。


「あの、ヴィクトール様。口紅が……」と言うと、「ん」と取れとばかりにヴィクトールが顔を近付ける。

エマがチーフでそっと口の端についた拭った。


「ありがとう」とヴィクトールは微笑むと、今度は頬に口付けを落とした。


「本当は唇にしたいけど、これ以上口紅を取ってしまったら君に悪いから、他のところで我慢するよ」と耳元に囁きながら、ちゅと音がなるように耳にも唇を寄せた。


そんな2人の睦まじい様子に、領民の歓声が先程から止まらない。


――花を……撒くのではないの?


私たちの代わりに、お義父さまとお義母さまがせっせと花を撒いてくれている。

「エマ、不肖の息子が悪いね」と、義父が赤面するエマを増々赤面させた。


もう、申し訳なさすぎる……。


大歓声のうちに、領民たちへのお披露目は幕を閉じた。

さて、第2章は新婚の二人の甘々生活を交えながら、新たな波乱を描きます。

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