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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ
第1章アステリア編

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【番外編③】ノクス辺境伯夫人の追想

第3話~第5話辺りのノクス領地でのエピソードに関連する話です。


イレーネ…ノクス辺境伯夫人。ヴィクトールの母。外見はヴィクトールに似ている。

アレクシス…ノクス辺境伯。ヴィクトールの父。熊公爵と領民からは呼ばれ慕われている。

小さな頃は、あんな無表情な子ではなかった。

素直で、可愛い、やんちゃな男の子だった。

それが、王都に行くようになってからだろうか。

気が付いたら、あんな無表情な男に。


「氷の貴公子」なんて妙なあだ名をつけられていると知ったときには、青ざめたものだ。


「一体あの不愛想は誰に似たの?」

「ん?」


夫のアレクシスをちらっと見た。

アレクシスは「熊公爵」なんて呼ばれて領民からは親しまれている。

少し強面に見えるけれど、けして不愛想ではない。


「さあ、どうだろうな」


アレクシスは、息子の不愛想にはあまり関心はないようだ。

イレーネの憂鬱を笑顔で受け流している。


「あの調子じゃ、結婚したって愛想つかされて終わりよ」

「まあ、ヴィクトールも年頃だし。そのうち、良いと思う人が見つかれば変わるんじゃないか」

「変わるって……あの子ももう18なのよ。アカデミーを卒業するというのに、ご令嬢たちに冷たくするばかりでは良縁にも恵まれないじゃないの。あの子は自分が跡取りだってこと分かっているのかしら。カイル殿下の側近になんてなっているし……」

「それは私からもカイル殿下に伝えておくから。まだヴィクトールも若いから、少し自由にさせてやろう」


アレクシスは、息子の剣術指導には異常に厳しかったのに、こういうところは本当に甘い。


あの子はそんな簡単に変わらないわよ……。


イレーネは、アステリアで暮らすようになってから、不愛想化が進む息子の未来を憂いていた。


◇◇◇


「エメリン・リュクノール侯爵令嬢?」


23歳になる息子に急浮上した縁談相手は、予想もしていない相手だった。


「ああ、聖女のお姉さまだそうだ」

「聖女の?」


ヴィクトールは、カイルとは子どもの頃から遊び相手として親交がある。

その流れで、聖女として頭角を現して王宮へ頻繁に出入りしていたケイティとは幼馴染のようなものだ。

イレーネもケイティには何度も会ったことがある。

素直で、明るくて、純真で、とても良い子だ。

こんな子がヴィクトールの相手だったら、という思いを過ったが、カイル殿下がケイティをがっちり囲っているのは分かっていたので諦めていた。


それが、聖女のお姉さまと……。

もうすぐアカデミーを卒業するケイティと結婚するために、カイル殿下がお姉さまの結婚を急いだのかしら……。


ケイティの姉・エメリンは、名前は聞いたことはあったが、実際に会ったことは一度もない。聖光教会では忌避されている髪と瞳の色を持つからか、心無い貴族たちは彼女を「不気味令嬢」などとあだ名していることは知っていた。でも、それ以上の情報は何もない。ケイティとは離れて、リュクノール領で暮らしているようだけど……。


イレーネは、聖女の姉として人生を翻弄されているエメリンのことを思った。

イレーネとて高位貴族の生まれ。

貴族の結婚や恋愛がロマンチックなばかりではないことは知っている。

でも……――。


それでも、一度は誰かに恋したいと思うのが女心じゃない。


聖女の姉は、そういう相手はいたのかしら。

イレーネは若かりし頃の自分と、エメリンを重ねた。

私はアレクシスと結婚できて本当に幸せだったわ。

彼は少し不器用なところはあるけど、愛情深い人だし……。

一方で、年々不愛想化が進む息子を思った。

あの子もどこで捻くれてしまったのか。私の育て方が悪かったのかしら。

ちゃんと、女心を理解できる男に育っているかしら……。


イレーネは、なんとなく息子のそういう点での成長には期待していなかった。


◇◇◇


「はじめまして、ノクス辺境伯様、ノクス辺境伯夫人」


ヴィクトールの都合で結婚準備のために辺境に来たエメリンは、予想外の連続だった。

二人に初対面したときには、見本のような淑女の礼で挨拶をしてくれた。


噂通りの銀髪に紫の瞳だったが、どこが忌まわしいのか分からない。

ふわふわの柔らかな銀髪はお人形みたいだし、紫の瞳は神秘的で美しいわ。

ケイティも可愛い子だとは思っていたけれど……。

イレーネは、エメリンの控え目な態度も一目で気に入っていた。


しかも、診療所での一件は本当に驚いたわ。

闇魔法を駆使して瘴気を払うだなんて……。

どう考えると、そんなことが思いつくのか。


アレクシスもエメリンを相当気に入っているのがすぐに分かった。


急な婚姻だったけど、ノクス家にとってはこれ以上ない縁組だわ!


それをあの子はきちんと分かっているのかしら……。


エメリンを呼び寄せたというのに、構いもしないで魔獣討伐なんて……。


「あなたね、女心が分からないのも対外にしなさいよ」


魔獣討伐から戻ったヴィクトールをイレーネは一括した。

一緒に戻ったアレクシスは、イレーネを宥めにかかっていたがもう我慢できなかった。


「あなたの都合でエメリンを呼び寄せておきながら、放っておくなんてどうかしているわ」


エメリンはそんなヴィクトールを一言も責めずに、慣れないノクス家で生活しているというのに。

ヴィクトールはイレーネの指摘にバツの悪そうな顔をした。

一応、自分のしていることは分かっているようね。


「ヴィクトールも、領地経営補佐は慣れていないし、精一杯なんだよ。イレーネ」

「そんなことは知りません! そんな朴念仁、愛想つかされて捨てられるわよ!」


イレーネは、最愛の息子に吐き捨てるように言うと部屋を出た。


アレクシスは妻が去った扉を見つめながら不器用な息子に向き直った。


「私は、お前くらいの頃にはイレーネに夢中で我を忘れていた」と小さく呟いた。


「え?」と見返して来た息子に、アレクシスは「まあ、誰しもそういう時期は来るということだ」と返した。息子が不器用なのは、父親似なのかもしれない。


◇◇◇


イレーネの言葉が響いたのか、ヴィクトールも結婚準備にようやく本腰を入れ始めた。

何があったか知らないけれど、急にエメリンを愛称で呼びはじめた。

私も息子に倣い、当然愛称呼びに変えたけれど、エマはまだ私のことを義母とは呼んでくれていない。そんな奥ゆかしいところも愛らしいが……もっと甘えてほしい。


エマと接している様子を見ると、一応あの子なりには気を遣っているようだ。

あんなに怒って悪かったかしら。

アステリアで見せていた不愛想は、大分成りを潜めている。

というか、むしろ……――。


エマは、気心の知れた侍女と、幼馴染の護衛騎士を伴ってノクス領に来た。

その二人がまたよくエマのことを理解している。特に、レイヤードが年齢の割にできた子で、ヴィクトールに放置されているエマが寂しくないように甲斐甲斐しく世話をしている。

幼馴染という間柄だからか、主従関係というよりも対等な友人関係に近いのだろう。


レイヤードがエマを心配してついて来たことは明らかだわ。


もちろん、ぼんくら息子もそのことには気が付いたようで、自分が放置していたことは棚にあげてレイヤードを睨みつけているものだから驚いた。

あの子が睨みつけるのは、ご令嬢たちばかりかと思ったら違うのね。

イレーネは、ひょんなところで、息子の成長を感じていた。


まあ、今までエマを放っておいていたのだから、少し痛い目を見ればいいんだわ。


ヴィクトールの嫉妬心を刺激してやろうと、レイヤードを茶会に誘ったらまんまと策にかかった。本当、あの子ってそういうところは変わらず単純なのよね。用意周到に準備した髪飾りを不器用に渡してみたり、好きな子を揶揄う子どものように接してみたり、本当、いつまで立ってもお子様なのだから。


◇◇◇


アステリアでの急な滞在延長の報せに、嫌な予感がしていた。

けれど、とりあえずは無事でよかった。


あの日の眩しいほどの光の柱は、アステリアから遠く離れたノクス領からも肉眼で確認できた。本当にエマは予想外の力を秘めた子だわ。

ヴィクトールが昏睡状態という報せに驚いたけれど、あの子なら大丈夫と思えた。

あの子はエマを一人にすることはないわ。

しつこい男だから、地獄からもでも戻って来そう。


アステリアに旅立って一カ月以上。

結婚式の四日前にエマはノクス家に再び帰って来た。


久しぶりに会ったエマは、伸び伸びとしているように見えた。以前はいつも少し俯きがちだったのに、今日はまっすぐ私の目を見て微笑んでくれる。

控え目に恐縮している姿も娘らしくて愛らしかったが、いまのエマの方が良い。

何より「お義母さま」と呼んでくれるようになったことが、イレーネを幸せにしていた。


エマを、こんな顔にしたのは……。


あの子の隣で、安心したように微笑うエマを見て、イレーネは目を細くした。


不肖の息子も、たまにはやるようね。


イレーネは、心の中でヴィクトールに賛辞を贈った。


きっと、この二人なら、どんな困難も乗り越えていけるわ。

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