第41話 結婚式
「エマ~!!」
結婚式の四日前、ノクス邸にエマの馬車が到着した。
本当はもう少し早く到着する予定だったが、天候に恵まれず遅れてしまっていた。
エマの到着を待ちわびてくれていたのだろう。
馬車が付くや否や、ノクス辺境伯夫妻は大歓迎で迎えてくれた。
「どうして母さんが真ん中でエマを迎えるんだ」
ヴィクトールは大歓迎でエマに声をかける母に呆れていた。
「あなたはアステリアでエマを独占していたじゃないの。私たちはもう2カ月近くエマと会ってないのよ。少しは譲る気持ちはないの?」
「だから、エマは私の妻だ」
「私にとっては娘よ!」
エマはノクス領の賑やかさを思い出していた。
そう、お義母さまはいつもこうやって私を和ませてくれていた。
「エマ、馬車の道程は大変だっただろう」
ヴィクトールに手を引かれる馬車から降りるエマをお義父さまは気遣ってくれた。
「いえ。大分馬車の移動も慣れました。ありがとうございます。お義父さま、お義母さま」
エマが二人を見て微笑むと、ますますテンションが上がったお義母さまにエマはぎゅうっと抱きしめられた。
「エマ!」
「お義母さま、ちょっと苦しいですわ」
「ああ、可愛い! 会いたかったのよ」
ヴィクトールの愛の重さは、義母似なのかもしれないとエマは密かに思った。
お義父さまは穏やかにエマに笑みを浮かべた。
「エマ、義父と呼んでくれて嬉しいよ」
ヴィクトールは、エマの変化に目を細めていた。
◇◇◇
数カ月前、お義母さまと選んだウエディングドレスに袖を通した。
ドレスは想像以上の仕上がりだった。
お義母さまとドレスショップの主人とドレス選びをした日が懐かしい。
首周りはシースルーのレースに刺繍やビジューがあしらったものが使われていた。
スカートは裾を引きずるように長い、ルーク王国では伝統的なデザイン。
細かな刺繍が丹念に織り込まれていて、一目で手の込んだものだと分かる。
今日はナタリーと、仕立て屋の店員が一緒にメイクやヘアセットも担当してくれる。
あれよあれよという間に、エマの美しい花嫁姿が完成した。
ナタリーもお義母さまもいつものごとく、テンション高めに褒めちぎってくれる。
「ああ、エマ! 想像以上よ。あの子、倒れるんじゃないかしら」
お義母さまの大げさな言い回しに思わず笑ってしまう。
結婚式に少し緊張していたが、なんだか緊張がほぐれていく。
本当にこういうところ、ヴィクトール様にそっくり。
「エマ、式までヴィクトールには会ってはダメよ」
ノック音が聞こえ、エマの母が部屋に入って来た。
「エマ、支度はどう?」
「お母さま」
「完璧ですわよ!」
お義母さまが誇らし気に、母に言った。性格の違う二人だが、それなりに気は合うようだ。
昨日の対面から、仲良く話している。お義母さまのコミュニケーション力がなせるわざね。
さすがは辺境伯夫人。見習わなければ。
「……本当。エマ、大切にされているのね」
母はエマを労わるように見た。その顔には少し後悔が滲んでいるようにも見える。
そんな母の顔を見るのは、初めてのような気がした。
「何もできない親でごめんなさい」
「そんな……」
「でも、あなたの幸せを、私たちも願っているわ」
母はそうエマに告げると、エマのヴェールをそっと下ろした。
エマは初めて、母の思いに触れた気がした。
私たち家族は長らく、ずいぶんボタンを掛け違っていたみたいだ。
◇◇◇
式場の前では、カチンコチンに固まった父が立っていた。
「ああ、エマ」
私より父が緊張しているってどういうことだろう。
そういえば父はあまり目立つのを好まない人だった。
聖女の父として、父もずいぶん苦手な役割を引き受けてきたのかもしれない。
ウエディングドレスを着たエマを見て、父は眦を下げた。
「エマ、行こうか」
背筋をピッと伸ばすと、エマをエスコートしてさっきの緊張はどこへ行ったのか、堂々と女神の前へと歩を進めた。会場には、私たちの結婚を祝福してくれているみんなが集まってくれていた。
「お姉さま!」
ケイティが嬉しそうに私に手を振った。私も彼女に応えるように小さく手を振り返した。
ケイティの隣にはカイルがいる。
見送りの日には遠くからしか見られなかったルシアンも、ユマーノをお供に連れて来てくれていた。
レイヤード、エドワード、ナタリーが並ぶ姿を見ると、自然とリュクノール領のことを思い出した。ナタリーは既になぜか号泣していて、エドワードに慰められている。
ナタリーったら。離れ離れになるわけでもないのに。
でも、いつも傍で私のことを見守ってくれて……。ノクス領に一緒に来ることも、すぐに決めてくれた。
エマはそんなナタリーの姿に思わず笑みが漏れた。
会場中の人たちの顔を見ながら、色んなことを思い返す。
私は思っている以上に、色んな人に支えてもらっているんだわ。
父がゆっくりと立ち止まった。女神の礼拝堂の前で、ヴィクトールが微笑んでいる。
父がエマの手をヴィクトールに預けた。
「エマ……」
ヴィクトールがエマをこれ以上ない程に甘く見つめる。
「ヴィクトール・ノクス」
「はい」
「エメリン・リュクノール」
「はい」
「二人の婚姻を女神の御前に誓います。互いを慈しみながら、領民を良き道へ導くことを女神に誓えますか」
司祭が女神に向かい、二人に恭しく問いかけた。
「「誓います」」
二人の声は誇らしげに重なった。
結婚指輪を交換すると、ヴィクトールはエマのヴェールをそっと上げる。
「エマ……これで私は永遠に君のものだ。私の人生も、この領も、すべて君と共にある。――何があっても、離さない」
うっとりしたようなヴィクトールが、エマの頬を優しく撫でた。
「ヴィクトール様」
エマが笑みを浮かべると、ヴィクトールにゆだねるようにそっと目を閉じた。
ヴィクトールは、エマの唇にそっと優しく触れた。
その瞬間、二人の婚姻を祝福する鐘がノクス領に高らかに響き渡った。
第1章完結です。
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この後、番外編の投稿を致します。引き続き読んでいただけますと嬉しいです。




