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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第24話 ルシアンの秘密(ヴィクトール視点)

第24話 ルシアンの秘密(ヴィクトール視点)


「このお茶は香りがいいだろう」


ルシアンはいつもと変わらぬ様子でエマに花紅茶を勧めている。先日、エマが喜んでいた帝国の菓子も種類が増えているようだ。

大聖堂での妙な視線と言い、エマの闇魔法のことと言い、一体ルシアンは何をどこまで知っているのか。

ヴィクトールは、ルシアンの真意を測りかねていた。


敵なのか。そうではないのか。いつもよく分からない男だが、今回は一層謎めいていた。


エマにお茶や菓子を勧め、一向に本題に入ろうともしない。部屋にはヴィクトールと、エマ、ルシアンに、ルシアンのお供が一人残っている。

この供は常にルシアンの傍にいるが、相当に信頼されている人物ということか。


「ルシアン殿下、お茶や菓子は結構です。私たちもあまり時間がありません。お話を」

「せっかちな男も嫌われるぞ」


毎度のルシアンの嫌味は聞き流す。構っていると相手のペースに乗せられる。


「――まあ、いい。ヴィクトール殿、あなたは何の話からしたい?」

「何の話からと言うと?」

「大聖堂での出来事なのか、エマの力のことなのか」

「大聖堂の……って」

エマには耳打ちしたが、詳細は知らせていない。エマはルシアンの言葉に更に目を見開く。


「ルシアン殿下、あなたはどうして私のことをそんなに知っているのですか?」


ヴィクトールより先にエマがルシアンに尋ねた。

ルシアンは、にこりとエマに微笑む。


「求婚相手のことを調べるのは当然だ。こんなでも、私はディベリアの第二皇太子なのだから」


一体いつからエマに目を付けていたのか。

エマの闇魔法のことは、秘匿されていた。ヴィクトールとて、エマと婚約を結ぶ際、エマのことは簡単には調べていた。しかし、エマはほぼ社交の場に出て来ないこともあって、良くも悪くも情報がなかった。エマの性格もあるだろうが、今思えば、それだけ厳重に守られていた、とも言える。


「君の魔力のことを知っているのが不思議かい?」


エマは素直に頷いた。


「私の能力のことを知っている人はかなり限られています」

「君の力を知っているものが漏らすとは思えない、ということかな?」

「はい、信頼できる相手しか知らないはずですから……」

「君がノクス領で命を救った騎士のことを、覚えているか?」


――ノクス領の騎士というと……。あの、ヘーゼルナッツ色の瞳の……。

瞳の色が、ルシアンの瞳の色と重なった。


「まさか……」

「彼はディベリア出身の者だ。誤解しないでくれ。彼はスパイじゃない。ディベリアからルーク王国に渡って暮らしているだけだ。ただ、故郷に知人も、友人も、家族もいる。命を救われた喜びを話したっておかしくないだろう?」


ヴィクトールは冷ややかな視線でルシアンを見た。


「そんな怖い目をするな。彼の名誉を守るなら、詳細は一切話さなかった。おそらく箝口令でも敷いていたのだろう? ただ、奇跡的に命を救われた、と。彼の友人の一人が、私の側近に近しい人物で、そのことがきっかけで、ノクス領周辺から調査をさせてもらった。そうしたら、辺境に聖女が現れたって言うじゃないか」


ルシアンがエマを優しく見つめた。


「噂になっている令嬢が本当に聖女なのか。正直よく分からなかった。だから、そのご令嬢が来るタイミングを図って、鑑定スキルを使った。君も聖女と同じ力を有しているものだと思い込んでいたから驚いたよ」


やはり、あのお茶会での遭遇は偶然ではなかったということか。

ルシアンはエマの力を知るに至った理由をあっさり白状した。


「……鑑定、スキル」


エマの闇魔法の使い方も特異だが、鑑定スキル保持者も非常に稀な存在だ。鑑定スキルは、相手の魔力の属性やスキルをみることができる。自分のスキルより上のものは鑑定できないが、その能力はかなり重宝されるし、下手をすれば闇魔法保持者よりも他人に知られると厄介な力だ。


――ルシアンが鑑定スキル所持者だったとは。


「誤解しているようだが、私じゃない。こいつだ」


ルシアンは、自分の供を指した。

常にルシアンの傍に控えていた、印象の薄い細身の眼鏡の男を、ルシアンは指した。ルシアンの強烈な印象の所為もあるが、この男も完全に空気に溶け込むため、ルシアンと会う度に会っているはずだが、ほぼ印象がない。


「ノクス卿、リュクノール侯爵令嬢、ご挨拶申し上げます。私はルシアン殿下の臣下であるユマーノと申します。以後お見知り置きを」


ユマーノは非常に几帳面な性格からか、測ったような角度で見本のような礼をした。


「ユマーノは幼少期のころ、私が拾った」


拾った……?

驚きの話が次々出て来るが、お構いなしにルシアンは続ける。


「ユマーノは戦災孤児だった。孤児院を視察に行った際、挑戦的な目が気に入って拾って臣下にした。臣下にしてみたら鑑定スキル持ちだと分かり重宝しているんだ」


鑑定スキル持ちをたまたま拾ったとは。なんという幸運というか。この男はそういう運に恵まれているのか。大聖堂を見上げたときのルシアンのつぶやきがふと蘇った。いや、この男はこの男で、国のことを、民のことを考えて動いているのか。何も考えず戦ばかりを続ける統治者も多いが、そうではないのかもしれない。


「私の人生はルシアン殿下に救われました。ルシアン殿下のためなら、この力を使うことは厭いません。……が、リュクノール侯爵令嬢、断りもなく鑑定スキルを発動し、あなたの属性を見たことは紛れもない事実です。どうかご無礼をお許しください」


臣下の方は常識を弁えているようだ。ユマーノを見つけたのは運かと思ったが、ユマーノがルシアンに力を委ねたのかも知れないなとヴィクトールは考えていた。偉大な力を持つものは、その力の制御に相当な労苦を要する。自分の力に潰されることもある。ユマーノの力はそういうレベルのものだろう。彼がここまで潰れずに来たのは……。ヴィクトールはルシアンを見た。


――ただの運だけの男ではないのかもしれない。


鑑定スキルでエマの属性の情報を知り得たのであれば、闇魔法の中和のことを隠し立てしても仕方がない。


ヴィクトールはため息を一つついて、ノクス領で起こったエマの力のことを話した。


「闇魔法には、そんな使い方もあるのか……。君が闇属性だということは分かっていたが、どういう利用法なのかがさっぱり分からなかった。さすがエマだな。よく研究している。増々手に入れたくなった」

「ご冗談を。王族が闇魔法使いだなんて、さすがにベルディア帝国の方だってよく思わない方も多いのでは?」

「実にくだらないな。そんなことに縛られて、物事の価値を見誤る連中がいるとは。エマの研究成果を有効に活用してこそ、この国の、いや世界の、瘴気を取り払うヒントに成り得る可能性が大いに秘めているというのに」


ルシアンは、憤りを隠さなかった。彼の評価は、悔しいがその通りだ。エマの研究はこの国の未来を変える可能性を孕んでいる。闇魔法とて、使い方次第で、忌み嫌われるものとは言えない。しかし、この国はそれを有効活用しようとするどころか、無かったことにしようと暗躍する者までいる。


「エマ、勝手に君の秘密を暴くようなことをして悪かった」


ルシアンがエマをじっと見た。先ほどとは打って変わって真剣なまなざしだ。


「いえ……」

「代わりに君に私の秘密を教えたい」


ルシアンがにっと笑った。


「え?」

「私は、君と同じ、闇魔法の所持者だ」

「ルシアン、殿下が……?」

「馬鹿げた偏見のせいで、私もずっと闇魔法のことは秘匿している」


エマは驚きに固まった。

闇属性だと……? 鑑定スキルに続き、続々と。一体他は何を隠しているのか。計り知れない。


「これ以上は、秘密はないよ」


ヴィクトールの心の声を察してか、ルシアンは不敵に笑った。


「では、大聖堂の件は……?」

「ああ。あれは――。カマをかけただけだ。君の様子から、何かあったことを察した。君を揶揄うのは、エマを可愛がることの次に面白い」


ヴィクトールのこめかみがピクッと反応した。この男は……――。

隣国の皇太子でなければ、斬り付けるところだ。ヴィクトールは気持ちを落ち着け、ルシアンを見る。


「それで、ヴィクトール殿。大聖堂で一体何があったんだ?」


もうここまで知られていれば、下手に隠しても意味はない。仕方がなくルシアンの前でヴィクトールは口を開いた。


「エマ、君の髪飾りから防御魔法が発動したことが分かった。精神系の魔法が使われた可能性が高い」

「精神系、というと……まさか」


エマも思い当たったようだ。ヴィクトールは頷いた。


「闇魔法が使われた可能性を疑っている」

「大聖堂で、闇魔法が……?」

「教会で闇魔法か。皮肉なものだな」


ルシアンは、声を出して笑った。


エマを狙っている教会関係者なのか。それ以外なのか……。


「実に面白いな。エマ、ヴィクトール殿、私と手を組まないか?」


子どものような笑顔で、ルシアンは二人を見つめた。

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