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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第21話 犯人捜し

第21話 犯人捜し

ヴィクトールの苦しいほどの口づけに、頭がぼんやりする。

ふらついた身体は、ヴィクトールの腕に支えられた。


――馬車の中での口づけと、全然違う。


図書室での口づけは、ヴィクトールに食べられているような感覚だった。

ポヤッとした頭のまま見ると、ヴィクトールが慌てて目を反らした。


「エマ、そんな顔で見られると、抑えられなくなる……」


そんな顔って――?


ヴィクトールは、自分の腕にエマを閉じ込めた。

ヴィクトールの鼓動が早鐘のように鳴っているのが分かる。

ヴィクトールの思いが、身体から伝わって来て、なんだか安心する。

昨日、あんなに悩んでいたのはなんだったのだろう。


「――エマ、ルシアンが言っていたことだが……」


ヴィクトールが何か言おうとしたが、昨日の睡眠不足が祟ったのか、急激に睡魔が襲って来た。エマはヴィクトールの腕の中で、意識を手放した。


◇◇◇


目が覚めたとき、エマは自分のベッドの中にいた。


――あれ? ヴィクトール様と図書室にいたはずなのに。どういうこと?


エマが目覚めたタイミングでナタリーが寝室に顔を出した。


「おはようございます。お嬢様」

「ナタリー、私……一体」

「昨日は、ヴィクトール様がお嬢様を抱きかかえてお部屋まで」


ナタリーは堪え切れないという様子で、にまにまと笑っていた。


「ヴィ、ヴィクトール様が!?」

「ええ。それはもう、宝物を運ぶように……」


エマが真っ赤になった。

ナタリーは朝の支度を手伝ってくれながら興奮したように昨日のヴィクトールのことを話してくれた。

図書室からここまで、一体どれ程の人に見られてしまったのか……。自分の醜態を想像し、眩暈がした。


――恥ずかしくて、消えてしまいたいくらいだわ……。


◇◇◇


「本当に、大変申し訳ございません……」


朝食の席で、身を小さくするエマに、ヴィクトールは穏やかな表情で微笑んだ。

そういえば、ヴィクトールの穏やかな顔は久しぶりに見る気がする。

彼の笑顔もだいぶ慣れて来た。


「どうして謝るの? 私はエマを抱きかかえる理由ができて嬉しかったのに」

「お、重かったのではないでしょうか」

「羽のような軽さだったよ」


ヴィクトールは真顔で返した。


「そんなわけ……」

「それに、私の口づけで疲れさせてしまったのなら、私が運ぶのは当然だ」

「くっ……」


エマは昨日の濃厚な口づけを思い出した。

給仕の使用人たちの目が気になった。


周りに人もいるのに……。


「違います。その、昨日は、全然眠れなくて……それで、安心してしまって」

「私の腕の中で、安心したんだね」


それは確かにそうなのだが…――。


もう、何を言ってもヴィクトールに勝てる気がしない。

エマはヴィクトールの問いに、小さく頷いた。


「嬉しいよ、エマ」


ヴィクトールは満面の笑みで答えた。

エマの胸が不意の笑顔に高鳴った。


ヴィクトールの笑顔に慣れてきたと思ったはずだったが、こんな不意打ち……。


エマは甘々なヴィクトールと、使用人の視線を一心に受けながら、朝食を食べた。


こんなに恥ずかしい思いで朝食を食べるのは、初めてだわ。


――でも、この幸せな時間も、長くは続かなかった。

朝食後、カイルから急な呼び出しがあった。教会の調査が進んだという。


◇◇◇


「昨日は、氷の貴公子がお姫様を抱きかかえながら、王宮を歩いていたそうじゃないか」


カイルが少し呆れながら、私たちを見た。


やっぱり、また噂に……――。


覚悟していたことではあるが、カイルの耳にまで入っていたとは。


「ずいぶん楽しそうだな、ヴィクトール」

「まあな。お前に言われたくない」


王太子を「お前」呼びは、不敬ではないのだろうか。

いつものことなのか、カイルは気にする素振りもない。

カイルは王都の教会に所属している司教以上の位の聖職者の情報を二人に渡した。


「エマ、見覚えのあるものは?」


あのときはフードをかぶっていたし、一瞬のことだったので顔まではよく分からない。


「身長から判断すると、この三人に絞られる」


カイルが手際よく、三人の司教に絞っていた。

どの男も、いまいちピンと来ない。

この男だったような気もするし、そうではないような気もする。


「申し訳ございません……」

「いや、一瞬のことだったのだから仕方がない。三人のうち二人が護憲派、一人は革新派だ」

「護憲派……」


エマは小さく呟いた。


「神話を絶対視する人たちだね」


ヴィクトールが補足する。


「いまの聖光教会は、教皇は中立派だが、枢機卿は護憲派、総司教は革新派だ。エメリン嬢を狙うということは、まあ、護憲派の可能性が高い」


カイルが三人の司教の資料を示す。

「一世一代の聖女――それが神話の教えだ。君のような存在は、彼らにとって“異端”でしかない」


カイルの言葉に、エマは息を呑んだ。ケイティこそが真の聖女。

私は、その存在を脅かす「偽物」。 教会にとって、消すべき存在なのだ。

三人の司教の顔を見ても、どれも判然としない。

でも……。

エマは暴漢に襲われた朝を思い返した。

あの声、あの体格、あの動き。何か、引っかかるものがある。

「直接会えば、分かるかもしれません」

エマの言葉に、ヴィクトールが鋭く反応した。「エマ」 厳しい声だった。


「でも……このまま分からないままでは」


エマは少し怯えながらも、ヴィクトールを見つめた。

ヴィクトール様がいれば、大丈夫。そう思えるようになった自分に、エマ自身が驚いていた。

「直接、会えば体格とか、もしかしたら声とかも……」

「エメリン嬢、狙われている状況なんだよ」

「それは、そうですけど……」


エマは思いついたら行動を起こすところがある。

このままでは、手がかりが薄すぎる。誰が狙っているのかを知らないと、対抗策も取れない。


「教会に様子を見に行くだけです」

「だけって……」

「教会側だって、表立っては何もできないはずです。だからこそ、あんな風に人気のないところで襲おうとしたのだと思います」

「確かにそうだが……」


カイルは難色を示した。

エマは拳を握った。怖い。でも、このまま怯えているだけでは何も変わらない。

ヴィクトール様がいれば――。

彼の温もりを思い出す。昨日、あんなに迷っていた自分が嘘のようだ。


「もちろん、ヴィクトール様にも、レイヤードにもついて来てもらいますから」


ヴィクトールは、エマの訴えに小さくため息をついた。

こういうときのエマは、存外頑固だということを思い知っていた。


「カイル、明日は大礼拝だろう。そこに、司教クラスは集まるんじゃないのか」

「――大礼拝か……」

「それなら、多くの人の目もある。この前みたいなことは考えにくい」

「まあ、確かに。それなら……」

「エマ、大礼拝に顔を出したらすぐに帰るぞ」

「分かりました。ありがとうございます。ヴィクトール様」


エマはヴィクトールの提案に、安心したように微笑んだ。


「全く、君は……。分かってやってるのか?」


ヴィクトールは、困ったように頭を押さえながらため息をついた。


――呆れさせた、かしら……?

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